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(7)顔に傷跡のある男
しおりを挟む大きな音を立てた扉から、一人の男が入ってきた。
いい気分で酒を飲んでいた男たちは、一斉に剣呑な視線を向ける。しかし次の瞬間には男たちの殺気は消えて、気まずそうに目を逸らしてしまった。
扉の音に驚いてジョッキから顔を離してしまった僕も、周囲の様子に気を取られながら、出入り口に目を向けた。
入ってきたのは、背の高い男だった。
酒場の誰よりも背が高く、分厚い身体をしている。首も腕も太く、肩幅は広く、胸板は厚い。大股で歩く太腿も太いだろう。
何より目を引くのは、たぶん顔だ。
厳つい顔つきで、左頬にはざっくりと長い傷跡がある。黒い髪は短く、苛立った男たちが、目を合わせた途端に逸らしてしまうほど迫力のある三白眼は、銀製の細工物のような冷たい水色だった。
いろいろな男たちが集まる酒場でも異質な、とにかく目立つ男だ。
でも着用しているのは王国で最も歴史がある黒狼騎士団の制服で、腰には騎士団の紋章の入った長剣を下げている。翻しているマントは長く、襟元にまばゆい階級章をつけていた。
「……おい、あれは黒狼騎士団の副団長じゃねぇかっ!」
「なんで鬼の副団長がこんなところにいるんだよっ!」
周囲のテーブルから押し殺した声が聞こえる。どうやら、彼はこの辺りでも有名人らしい。
そんな騎士が、周囲の怯えるような視線を完全に無視して真っ直ぐに歩いていく。
向かう先のテーブルにいる男たちは身を縮めているけど、凶悪な面相の騎士の目的は……多分彼らではない。
すぐに目的のテーブルに着き、足を止めた。
僕は笑顔を浮かべて立ちあがった。麦酒をご馳走してくれた男にも紹介しようと思ったけれど、その彼はいつの間にか姿を消していた。
仕方がない。僕は一人で彼を迎えることにした。
「やあ、ギーズ。来てくれたんだね」
そう言って笑いかけたのに、ギーズはにこりともしない。でもそれもいつも通りだから、僕は彼に椅子を勧めた。
「座ってよ」
そう言ったけれど、身じろぎもしない。でも僕が先に座ると、ギーズはマントをばさりと動かして座った。
一瞬椅子が軋んだけれど、それだけだ。酒場は体格にいい男たちも集まるから、椅子もテーブルも頑丈らしい。
思わず感心したけれど、まずは駆けつけてくれた乳兄弟に礼を言うことにした。
「こんなに早く来てくれるなんて思っていなかったよ。ありがとう。君は忙しいから、手紙が返ってくるだけかもしれないと覚悟していたんだ」
「……あんな手紙をもらって、返事を送るだけで済むわけがないだろう」
ギーズはため息をついて僕に目を向けた。
その鋭い目が、僕の全身を見ている。代筆屋の帽子に一瞬目を止めたけれど、すぐにその他のものを探すように動いていく。
でも、僕は何も持っていない。
図書院から持ち帰った貴重な書物が一冊。
図書院に入るための身分証。
ノーラからもらった財布。
それが僕が持っている全てだ。着ている服は薄めで冷え込む夜向けではないし、上に羽織る外套もない。
履いている靴がしっかりしているのは、今朝歩くことを決めたからだ。これはいい判断だった。
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