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(8)まずは、食べろ
しおりを挟むテーブルの上にあるのは麦酒のジョッキが一つ。
他のテーブルに並んでいるような料理はない。
そういえば、少しお腹が減ってきたなと考えた時、ギーズはもう一度ため息をついた。
カウンターで息を潜めて見守っている店主を振り返ると手招きし、すっ飛んできた店主にジャラリと硬貨を渡した。
「何か食べるものを持ってきてくれ。二人分でいい。白湯もくれ」
「は、はい、すぐにお持ちしますよ!」
店主は急いで厨房へと引っ込んだ。
すぐと言った言葉は偽りではなかったようで、あっという間にテーブルの上にスープとパンと茹で肉が並ぶ。湯気を立てる白湯は僕の前に置かれ、ギーズは代わりに僕が泡に口をつけただけの麦酒を自分の前へ動かした。
「まずは、食べるんだ。その様子では、昼から何も食べていないんだろう?」
「ギーズはよくわかっているなぁ。実はそうなんだよね。本を読み耽っていて昼ご飯を食べ損ねていたから、朝に軽く摘んで以来なんだ」
「……わかった。今すぐに食べろ。ああ、その茹で肉には皿に添えられている辛子をつけるんだ。こうやってパンに乗せてもうまい」
そう言いながら、ギーズはパンに乗せたものを用意してくれた。
なるほど、そうやって食べるのか。……いや、僕だってもう大人だから、説明を受ければ自分でできるんだけど。
でもギーズの視線は強い。
少し不貞腐れながら用意された肉載せパンを口に運んだ。どうやら大きな口を開けて食べるのが庶民流らしいので、僕もいつもより大きく齧ってみた。
「へぇ。あっさりとしているけれど、悪くないね」
素朴だがなかなかに美味しい。何より僕は空腹だ。思っていた以上に美味しく感じて、思わず微笑んでしまう。
二口、三口と食べ続けていると、周囲のテーブルから視線を感じた。
そのうちの同じものを食べていた男たちは、自分の皿に目を向けている。どうしたのだろうとそれとなく見ていたら、僕と同じように……つまりギーズが用意してくれたのと同じくらいの分量の肉を乗せ、何だか不自然に小さく口を開けているようだった。
どうやら、僕の食べ方はそれほど間違っていなかったようだ。
安心すると食欲がさらに湧く。
そのまま食べ続け、気がつくとギーズの前にあった皿の分まで食べていたようだった。ごめん、ギーズ。
ほとんど麦酒しか手をつけてないギーズは、すでにマントを脱いでいた。
でも、その下に着ているのは黒狼騎士団の制服だ。その前からちらちらとしか見なかった周囲は、制服が丸出しになった途端に完全に背を向けてしまった。
よっぽど恐れられているようだ。
黒狼騎士団は治安維持に貢献しているはずだから、庶民には人気があると思ったんだけど。もしかして、この酒場にいる人たちは、普通の庶民から少し外れた人たちもいるのだろうか。
そんなことをふと考えた時、ギーズは半分ほどに減った麦酒のジョッキを少し遠ざけた。
「そろそろ、話を聞いてもいいか?」
……やっと来たか。
本来の目的を思い出して、僕は思わず背筋を伸ばした。
僕はもう一口白湯を飲んでから、じっと見ているギーズに目を戻した。
「手紙は、読んでくれたんだよね?」
「ああ、読んだぞ。あんな紙に書いてくるから、部下どもが騒いでいたがな」
「あんな紙?」
「まるで恋文のようだと……いや、それはどうでもいいんだ。内容だ」
ギーズはなぜか少し目を逸らして咳払いをした。
すぐにまた僕に目を戻したけれど、気のせいでなければ顔が少し赤い。麦酒のせいだろうか。
でも、ギーズは酒は強い。
多少顔が赤くなっても、僕よりしっかりしているのはよく知っている。だから僕は改めて事情を説明する覚悟を決めた。
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