家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈

文字の大きさ
9 / 50

(9)手紙は受け取った

しおりを挟む

「だいたい、手紙に書いた通りだよ。補足するとしたら……ノーラに借りたお金ももう少ないってことかな」

「……ノーラとは?」

「僕の屋敷のメイドだよ。締め出されて困っていたら、お金を貸してくれて、どう行動すればいいかの相談に乗ってくれた」

「つまり……お前の、お気にいりのメイドなのか?」

 ギーズは眉を顰めた。
 側から見ると怒っているように見えるかもしれない。
 でもあの顔は、どちらかというと傷ついていたり、寂しかったり、そういう時の顔だ。
 別に僕はノーラと涙の別れをしたわけではないから、ギーズが傷つく必要はないんだけどね。

 それとも、実はノーラに片想いをしていて、僕と恋仲と誤解したとか?
 いや、まさか。さすがに違うよね。
 最近のギーズは、ヴァーレンの屋敷にはほとんど来てくれなかったじゃないか。ノーラに片想いする機会もない。うん、違うだろう。
 でも、なんとなく僕は必要以上に丁寧な説明をしたい気分になってしまった。

「えっと、別にお気に入りとか、そういう子ではないよ。今日初めて名前を知った子だし。顔は……見たことがあったけど。僕にとっては屋敷にいるメイドの一人なんだけど、そのメイドのノーラが僕を助けてくれたんだ。ありがたいことだよ。ノーラがいなかったら僕は君に連絡を取る手段もなかっただろうな。いや、歩いて詰所に行くと言う手もあったけど」

「それはあり得ん。お前の足でどれだけ時間がかかると思っているんだ」

「うん、そうだよね。だから、君がきてくれて本当に嬉しいよ。でも……その、君にお願いしなければならないことがあるのが心苦しいんだ」

 そう、僕はこれからお願い事をしなければならない。
 簡単に言えば、借金の申込みだ。

 書物を閲覧させてください、というのならいつもやっていたから慣れている。
 異母兄や正妻様に、名義を貸してくださいとお願いするのも慣れているし、侮蔑の目を向けられているのも気にならない。

 でも借金は……正直に言って返すあてがあるとは思えないから、実質的には「お金をください」になるだろう。ものすごく言いにくいし、どう切り出していいのかわからない。
 心の中で頭を抱えていると、ギーズがボソリとつぶやいた。

「……俺はお前のためなら、大抵のことはする。なんであろうとしてやる」

 とても真面目な声だった。
 だから思わずギーズの顔を見てしまったのだけど、ギーズはテーブルをじっと見ているだけだった。
 でも……僕は思わず微笑んでしまった。
 ギーズがとても優しいから。

「君はそう言うところは母親似だよね。……そうだ、リザは元気?」

「お袋と会ったのは一ヶ月前だが、元気だったぞ」

「そうか! ミアはどうだった? 子供が産まれたときいたんだけど」

「お前が知っている頃より少し太っていたが、元気そうだったぞ。田舎暮らしはあいつにはあっているようだ。上の子も俺を見て泣いたくせに、帰る頃には懐いてくれた」

「ははは。ギーズは顔は怖いからね。でも、よく知ると君は優しいから、子供が懐くのは当たり前だよ。……そういえば、知ってるかな。子供の頃、僕も君がとても好きだったんだよ。いつも君に抱っこしてもらってたよね」

 つい雑談に興じてしまったのは、本題に入りにくいことと、ちょっと照れ臭かったから。
 でも子供の頃を思い出すと、家を追い出された現実がどうでもいいように思えて、なんだか温かい気持ちになる。その延長で昔話もしたんだけど。

 ちょうど麦酒を飲もうとしていたギーズが、急にむせってしまった。
 ……ごめん。昔話をするには、ちょっとタイミングが悪かったみたいだね。

 運よく、ポケットにハンカチが入っていた。
 それを差し出したけど、ギーズは受け取らずに手の甲で顔を拭っていた。うーん、男臭くてワイルドだなぁ。僕には似合わらない仕草だ。
 でも、汚れが残りそうだからやっぱりハンカチを使ってもらいたい。

「これ、使ってよ」

「そんな上等なもの、使えるか。そのハンカチ一枚でいくらすると思っているんだ」

「あ、そうか。……とすると、これを売ると生活費の足しになるのかな」

「それはなるだろうが……いや、何を言っているんだ?」

 眉を顰めたギーズは、少し怖いくらいの真顔で僕に問いただしてきた。
 だから、僕も真顔で答えた。

「僕はあの家から追い出されてしまったからね。これからどうしようかと思っているけど、今夜の宿代はあるようだけど、明日以降はちょっとどうなるかわからないんだ。だからハンカチを売ったら少しは……」

「いや、待て。なぜ宿に泊まる前提なんだ!」

「家を追い出されたからだけど」

「そうじゃない! お前は俺が来た意味を……いや、俺には頼りたくないのかもしれないが、俺はお前の乳兄弟なんだ。手助けくらいさせろ」

 ギーズはなぜかとても怒っていた。
 傷跡が残る顔を歪め、水色の目もギラギラ光っている。
 でも、ただ感情的に怒っているわけじゃない。
 僕のために怒ってくれている。
 それが……身に覚えのない罪で罵った異母兄とは違うんだ。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
*あらすじを改稿し、タグを編集する予定です m(_ _)m後からの改稿、追加で申し訳ございません (>_<)  社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのだが…… *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

処理中です...