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(9)手紙は受け取った
しおりを挟む「だいたい、手紙に書いた通りだよ。補足するとしたら……ノーラに借りたお金ももう少ないってことかな」
「……ノーラとは?」
「僕の屋敷のメイドだよ。締め出されて困っていたら、お金を貸してくれて、どう行動すればいいかの相談に乗ってくれた」
「つまり……お前の、お気にいりのメイドなのか?」
ギーズは眉を顰めた。
側から見ると怒っているように見えるかもしれない。
でもあの顔は、どちらかというと傷ついていたり、寂しかったり、そういう時の顔だ。
別に僕はノーラと涙の別れをしたわけではないから、ギーズが傷つく必要はないんだけどね。
それとも、実はノーラに片想いをしていて、僕と恋仲と誤解したとか?
いや、まさか。さすがに違うよね。
最近のギーズは、ヴァーレンの屋敷にはほとんど来てくれなかったじゃないか。ノーラに片想いする機会もない。うん、違うだろう。
でも、なんとなく僕は必要以上に丁寧な説明をしたい気分になってしまった。
「えっと、別にお気に入りとか、そういう子ではないよ。今日初めて名前を知った子だし。顔は……見たことがあったけど。僕にとっては屋敷にいるメイドの一人なんだけど、そのメイドのノーラが僕を助けてくれたんだ。ありがたいことだよ。ノーラがいなかったら僕は君に連絡を取る手段もなかっただろうな。いや、歩いて詰所に行くと言う手もあったけど」
「それはあり得ん。お前の足でどれだけ時間がかかると思っているんだ」
「うん、そうだよね。だから、君がきてくれて本当に嬉しいよ。でも……その、君にお願いしなければならないことがあるのが心苦しいんだ」
そう、僕はこれからお願い事をしなければならない。
簡単に言えば、借金の申込みだ。
書物を閲覧させてください、というのならいつもやっていたから慣れている。
異母兄や正妻様に、名義を貸してくださいとお願いするのも慣れているし、侮蔑の目を向けられているのも気にならない。
でも借金は……正直に言って返すあてがあるとは思えないから、実質的には「お金をください」になるだろう。ものすごく言いにくいし、どう切り出していいのかわからない。
心の中で頭を抱えていると、ギーズがボソリとつぶやいた。
「……俺はお前のためなら、大抵のことはする。なんであろうとしてやる」
とても真面目な声だった。
だから思わずギーズの顔を見てしまったのだけど、ギーズはテーブルをじっと見ているだけだった。
でも……僕は思わず微笑んでしまった。
ギーズがとても優しいから。
「君はそう言うところは母親似だよね。……そうだ、リザは元気?」
「お袋と会ったのは一ヶ月前だが、元気だったぞ」
「そうか! ミアはどうだった? 子供が産まれたときいたんだけど」
「お前が知っている頃より少し太っていたが、元気そうだったぞ。田舎暮らしはあいつにはあっているようだ。上の子も俺を見て泣いたくせに、帰る頃には懐いてくれた」
「ははは。ギーズは顔は怖いからね。でも、よく知ると君は優しいから、子供が懐くのは当たり前だよ。……そういえば、知ってるかな。子供の頃、僕も君がとても好きだったんだよ。いつも君に抱っこしてもらってたよね」
つい雑談に興じてしまったのは、本題に入りにくいことと、ちょっと照れ臭かったから。
でも子供の頃を思い出すと、家を追い出された現実がどうでもいいように思えて、なんだか温かい気持ちになる。その延長で昔話もしたんだけど。
ちょうど麦酒を飲もうとしていたギーズが、急にむせってしまった。
……ごめん。昔話をするには、ちょっとタイミングが悪かったみたいだね。
運よく、ポケットにハンカチが入っていた。
それを差し出したけど、ギーズは受け取らずに手の甲で顔を拭っていた。うーん、男臭くてワイルドだなぁ。僕には似合わらない仕草だ。
でも、汚れが残りそうだからやっぱりハンカチを使ってもらいたい。
「これ、使ってよ」
「そんな上等なもの、使えるか。そのハンカチ一枚でいくらすると思っているんだ」
「あ、そうか。……とすると、これを売ると生活費の足しになるのかな」
「それはなるだろうが……いや、何を言っているんだ?」
眉を顰めたギーズは、少し怖いくらいの真顔で僕に問いただしてきた。
だから、僕も真顔で答えた。
「僕はあの家から追い出されてしまったからね。これからどうしようかと思っているけど、今夜の宿代はあるようだけど、明日以降はちょっとどうなるかわからないんだ。だからハンカチを売ったら少しは……」
「いや、待て。なぜ宿に泊まる前提なんだ!」
「家を追い出されたからだけど」
「そうじゃない! お前は俺が来た意味を……いや、俺には頼りたくないのかもしれないが、俺はお前の乳兄弟なんだ。手助けくらいさせろ」
ギーズはなぜかとても怒っていた。
傷跡が残る顔を歪め、水色の目もギラギラ光っている。
でも、ただ感情的に怒っているわけじゃない。
僕のために怒ってくれている。
それが……身に覚えのない罪で罵った異母兄とは違うんだ。
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