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(39)手紙
しおりを挟む『ギーズへ
おかえり。いつもお疲れ様。
今日もスープを作る手伝いをしました。よかったら食べてみてください。
もしかしたら、もう聞いているかもしれないけれど、文字を教える仕事のお手伝いをしてみたいと思っています。
商業地区の教会だそうです。一度、話を聞きに行って見ようと思うんだけど、ギーズはどう思いますか?』
『今日も遅くなるから、先に休んでくれ。
教会の手伝いはお前にあっているだろうから賛成だ。
クロンに付き添ってもらってくれ』
『ギーズへ
おかえり。いつもお疲れ様。
冷え込んできたけれど、風邪は引いていないかな?
教会のお手伝い、賛成してくれて嬉しいです。
明日クロンが付き添ってくれるそうなので、教会に行ってみます。
本当はギーズと一緒に行きたかったんだけど、仕事が忙しいようだから仕方がないよね。
でも、あまり無理はしないでほしい。
毎日ごはんがとても美味しいんだけど、ギーズが疲れてしまうのではないかと思うと心配になるからね。でもありがとう』
『今日も遅くなるから、先に休んでくれ。
教会の件はクロンから聞いている。
難しく考えずに行ってこい。気負いすぎるなよ』
『ギーズへ
おかえり。お仕事、お疲れさま。
今日、教会に行ってきました。
話を聞くだけのつもりだったけれど、ついでに文字の見本を作ってきました。
でもその作業をしていたら、子供たちがじっと見ていてね。急遽、見に来ていた子供たちにも教えることになりました。
教父様は申し訳ないと言ってくれたけど、クロンの弟たちがいっぱい増えたみたいで楽しかったな。
明日から大人用の教室が始まります。僕は裏で準備を手伝うだけのつもりだけど、緊張するものなんだね。
今日も、ごはんはとても美味しかった。なのに、僕は疲れてしまったようで、ロアナさんに料理を教えてもらうことができなかったんだ。ごめん。
明日は、もう少し頑張りたいと思っています』
『今日も遅くなるから、先に休んでくれ。
教会の手伝いは充実しているようだな。
だが、無理は禁物だ。お前は体力がないんだ。
頑張りすぎないように。しばらくは控えめにするくらいの気持ちでいてほしい』
『ギーズへ
おかえり。今日もお疲れさま。
教会での教材作り、普通の文字だけのつもりだったんだけど、商業書類でよく使うソール書体も教えて欲しいと言われたよ。
見本を書くだけなんだけど、学問所で取引書類の仕事を押し付けられていたことが幸いしたようだ。何でもやっておくものだね。
明日は子供たちの勉強を担当する予定です。
たくさん来てくれればいいんだけど、どうかな。楽しみだけどやっぱり緊張します』
『今日も遅くなるから、先に休んでくれ。
お前の博識が役に立っているようだな。
楽しみにしているのはわかるが、無理はするなよ』
………………
『ギーズへ
おかえり。今日は黒狼騎士団の人に助けてもらいました。
子供がたくさん集まってくれるから、悪いことを考える人も来てしまったようなんだ。
教会の人たちには迷惑をかけてしまった。僕のせいだろうな。
二週間経って、やっと慣れてきたと思ったのだけど。教会のお手伝い、ダメになるかもしれない。
早く帰ることになったので、久しぶりにスープ作りを手伝いました。よかったら食べてください』
『今日も遅くなるから、先に休んでくれ。
騒動の件は部下から報告を受けている。
あのくらいは想定内だ。相手が小物だったから平和なくらいだ。商工会も今後は警備を置くと言っていたそうだから、気にする必要はない。
お前の仕事は丁寧だと評判がいいぞ。子供たちも楽しみにしているようだから、しっかり勤めてくれ。
スープも美味かった。包丁の扱いに慣れてきたようだな。だが、油断はするなよ。
お前ができる範囲をゆっくりしてくれるだけで、俺は嬉しいし、助かるから』
僕はギーズからの手紙を読み直していた。
人が集まりすぎたためにトラブルが起きてしまったのに、教会の人も商工会の人も、僕に引き続き来て欲しいと言ってくれた。
ギーズが手紙で言ってくれた通りで、本当に嬉しかった。
役に立っている以上の手間をかけさせているのだろうなとは思う。なのに、僕を迎え入れてくれる人たちがいる。
なんて幸せなのだろう。
それに、このギーズの手紙。
いつもより長い。
今日の朝、この手紙を何度も読んでから家を出た。
この手紙があったから、もっと頑張っても許されるかもしれないと前向きになれた。
ギーズは、長々と文章を書くことはあまり得意ではないはずだけど、僕のために書いてくれたんだ。
朝食の用意をするだけでも時間がかかるはずなのに、こんなに優しい文面を考えて書いてくれた。
ギーズの声が聞こえるような気がする。
でも、ギーズに直接言って欲しいとも思ってしまう。
もう二週間、僕はギーズと会っていない。
一度、夜遅くまで起きていれば会えると思って頑張ろうとしたんだけど、日中の疲れがあるのか、いつの間にか寝てしまった。
そして翌朝、目が覚めたら僕の部屋のベッドにいた。
一階の居間にいたはずなのに。
どうやら、ギーズが二階の部屋まで運んでくれたらしい。
申し訳なくて、二度目は試みなかった。
朝早く起きようとしたこともあったんだけど、やはり毎日刺激の多い生活をしているせいか、今までより遅くにしか起きることができない。
でも、目を覚ました時に朝食はそんなに冷めていないから、多分ギーズが家を出る音で目が覚めているんだろうと思う。
「……ギーズに、話したいことがあるのにな」
子供たちのよくわからない元気さとか。
算術の添削をするときに、こっそりお礼を書いてくれる人たちのこととか。
警備の人も、一緒に文字を学ぶことにしたこととか。
教会の教父様が、長い間地下倉庫に眠っていた古王国語の民話集を翻訳してみたい、と目を輝かせていたことも。
図書院の地下書庫にいた頃を思い出す。
でもあの頃以上に、僕は太陽の光をたっぷりと受けて、たくさんの人と会っている。
僕は幸せだ。
ヴァーレン家を追い出され、貴族籍を失った時には、全てを諦めなければいけないと思ったのに、実際はギーズに助けてもらったおかげで新しい世界が広がった。
「……ただ、こういう名刺は困るよね」
僕はポケットに溜まった名刺を取り出しながら、苦笑いをしてしまった。
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