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17.悪くない日常
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お茶会の翌日から、マリアや殿下と過ごす時間が増えた。
朝は早めに家を出て東屋でマリアとお喋りを。
長い休み時間は週に二日の頻度で、放課後は毎日生徒会室へ行っている。
クリストファー殿下とカイル様も仕事をするようになったので、以前ほどの負担はない。
他の役員も時々見かけるけど、殿下と話したらすぐに出て行ってしまうので、私は誰とも話したことがない。彼らに割り振った仕事は持ち帰って処理してくれるため、特に支障はないけれど。
(挨拶くらいはしたいのになぁ……はぁ、友達が増えない)
クラスでは相変わらず遠巻きにされてるため、交友関係がなかなか広がらない。
とはいえ悪いことも特段無いので、今はこれでよしとしている。
「マリアとも友達になれたし、きっかけがあればどうにかなると思うのよ」
「マリア様の場合はご友人というか、妹のようですけどね」
「うちにはお兄様しかいないから、嬉しいわ。お母様もいつでも連れてきて構わないっておっしゃっていたし、今度はお泊り会をしたいわね」
マリアを自宅に招いた日、お母様が「娘のお友達のために!」と張り切ってとっておきのティーセットを用意してくださった。
マリアは出されたカップが隣国の高名な職人の手によるものだと気付き、「こんな素敵なカップは王宮でも見たことがありません!」と大はしゃぎで喜び、それ以来母もマリアがすっかりお気に入りだ。
(しっかし、マリアの知識って謎が多いよなぁ)
貴族社会に慣れていないけど、教養があり所作も洗練されている。
謎の知識の数々はクリストファー殿下から習ったのかと思いきや親に教わったと言う。実のご両親は、一体どこの男爵家の方なのだろうか。それとも男爵家出身というのは偽りで、本当はもっと高位貴族の出自なのかもしれない。
(どっちも本人には聞けないなぁ。隠し事が合って、それが人に迷惑をかける類のものでなければ、友人としてその秘密を一緒に守っていきたい)
そもそも出自に関しては、親が本人に真実を教えてない可能性だってある。私が迂闊なことを言うわけにはいかない。
今の良好な関係を保てれば、マリアから断罪される展開は考えられない。そう言い切れる関係性を築いてきたつもりだ。
だからこそ一人の友人として、誠実に接したいと思う。
◇◇◇
「ヴィオレッタ様!こっちですー!」
今日は日替わりランチにマリアの好物が出るというので、学生食堂で落ち合うことになっていた。
マリアの元に向かおうとしたら、私より先に三人の女生徒がマリアに話し掛けた。
「まぁ、大声を出すだなんてみっともない。もう少し慎みを持たれてはいかがかしら?」
「あっ、うるさかったですね。すみません!気を付けます!!」
(あれはたしか、コジー伯爵家のジョゼット様……だったと思う)
接点が無いご令嬢なので、ちょっと自信が無い。彼女もやや悪役令嬢みのある、クールな面立ちだ。
「優雅さの欠片もないのね。殿下もヴィオレッタ様も、こんな子のどこがいいのかしら……」
「本当に不思議ですわね、ジョゼット様。一体どうやって高貴な方々に取り入ったのでしょう」
「伯爵令嬢と言っても、所詮養子でしょう」
「平民だってもう少し静かなのではなくて?」
「あらいやだドロテ様ってば!」
絵に描いたような意地悪令嬢たちに囲まれて、居心地悪そうにしているマリアが見える。咄嗟に駆け出そうとしたら、私より先に頼りになる人たちがやってきた。
「デボラ嬢、ドロテ嬢、ジョゼット嬢、口を慎むのは君たちの方ではないかな」
「カ、カイル様!これは、その……」
「この学園に入学した以上、君たちはクラウト伯爵令嬢と対等な立場だ。そんな当たり前のことを忘れて、根も葉もない噂話を吹聴する君たちの事を、クリストファー殿下はどう思うだろうね」
「わ、わたくしたち、そんなつもりでは……」
「では、どういうつもりなのか、聞かせてくれるかい?」
睨みを利かせたカイルに、ニコリと微笑んでいるけど目が笑っていないクリストファー殿下。令嬢たちは真っ青になっている。気の毒に思わないこともないけど、完全に自業自得なので諦めてもらうしかない。
「殿下、カイル様!そもそも、私がうるさかったのがいけないのです。みなさん、すみませんでした!」
「え、あ、えぇ、いえ。わたくしたちこそ……それでは失礼しますわ」
「行きましょうみなさん!」
「それではごきげんよう……!」
マリアの謝罪を皮切りに、令嬢たちはあっという間に散っていった。
「マリア、遅くなってすまなかった。怖くなかったかい?」
「二人ともありがとうございます。全然気にしてないので、大丈夫です!」
気丈に振舞うマリアを見て胸が苦しくなり、思わず駆け寄って彼女を後ろから抱きしめる。
「ヴィ、ヴィヴィ、ヴィオレッタ様……!?」
「マリアが気にすることなんて1つもありませんからね……!私の到着が遅れたせいで、辛い目に遭わせてしまってごめんなさい!!」
「い、いいえ!元はと言えば私が食堂にお誘いしたのですから!ヴィオレッタ様こそ何も気にしないでください!」
健気に私のフォローまでするマリアがいじらしくて、思わず抱き締める腕に力が籠る。
守らなくては、この子を。
(もしかして、私が悪役令嬢の役目から降りたせいで、他のご令嬢が悪役令嬢化してる?だとしたら責任重大だ……)
「あなたは私が守りますからね!辛いことや怖いことがあったり、誰かに意地悪なことをされたら真っ先に言いに来てちょうだい!クリス様、カイル様、マリアを守ってくださりありがとうございます。これからは私もこの子を精一杯守ります!!」
「抱き締めてもらった上にそんなサービスまで……!?え、今日の私ってば凄くラッキーなのかもしれない!デボラ様、ドロテ様、ジョゼット様、あなた方のお陰ですありがとうございます!!」
「マリア、そろそろいいだろう。ヴィオから離れたらどうだい?」
「離れるも何も、ヴィオレッタ嬢が自ら抱き締めてるじゃないですか。マリアちゃんへの嫉妬はほどほどにしてくださいとあれほど言ってるのに……」
どうやらマリアはそこまで落ち込んでいないようだし、殿下もカイル様も安心したようで、和やかに談笑している。ホッと一息だ。
そんな私たちを遠くから見ている存在がいたけど、この時の私は気付かなかった。
朝は早めに家を出て東屋でマリアとお喋りを。
長い休み時間は週に二日の頻度で、放課後は毎日生徒会室へ行っている。
クリストファー殿下とカイル様も仕事をするようになったので、以前ほどの負担はない。
他の役員も時々見かけるけど、殿下と話したらすぐに出て行ってしまうので、私は誰とも話したことがない。彼らに割り振った仕事は持ち帰って処理してくれるため、特に支障はないけれど。
(挨拶くらいはしたいのになぁ……はぁ、友達が増えない)
クラスでは相変わらず遠巻きにされてるため、交友関係がなかなか広がらない。
とはいえ悪いことも特段無いので、今はこれでよしとしている。
「マリアとも友達になれたし、きっかけがあればどうにかなると思うのよ」
「マリア様の場合はご友人というか、妹のようですけどね」
「うちにはお兄様しかいないから、嬉しいわ。お母様もいつでも連れてきて構わないっておっしゃっていたし、今度はお泊り会をしたいわね」
マリアを自宅に招いた日、お母様が「娘のお友達のために!」と張り切ってとっておきのティーセットを用意してくださった。
マリアは出されたカップが隣国の高名な職人の手によるものだと気付き、「こんな素敵なカップは王宮でも見たことがありません!」と大はしゃぎで喜び、それ以来母もマリアがすっかりお気に入りだ。
(しっかし、マリアの知識って謎が多いよなぁ)
貴族社会に慣れていないけど、教養があり所作も洗練されている。
謎の知識の数々はクリストファー殿下から習ったのかと思いきや親に教わったと言う。実のご両親は、一体どこの男爵家の方なのだろうか。それとも男爵家出身というのは偽りで、本当はもっと高位貴族の出自なのかもしれない。
(どっちも本人には聞けないなぁ。隠し事が合って、それが人に迷惑をかける類のものでなければ、友人としてその秘密を一緒に守っていきたい)
そもそも出自に関しては、親が本人に真実を教えてない可能性だってある。私が迂闊なことを言うわけにはいかない。
今の良好な関係を保てれば、マリアから断罪される展開は考えられない。そう言い切れる関係性を築いてきたつもりだ。
だからこそ一人の友人として、誠実に接したいと思う。
◇◇◇
「ヴィオレッタ様!こっちですー!」
今日は日替わりランチにマリアの好物が出るというので、学生食堂で落ち合うことになっていた。
マリアの元に向かおうとしたら、私より先に三人の女生徒がマリアに話し掛けた。
「まぁ、大声を出すだなんてみっともない。もう少し慎みを持たれてはいかがかしら?」
「あっ、うるさかったですね。すみません!気を付けます!!」
(あれはたしか、コジー伯爵家のジョゼット様……だったと思う)
接点が無いご令嬢なので、ちょっと自信が無い。彼女もやや悪役令嬢みのある、クールな面立ちだ。
「優雅さの欠片もないのね。殿下もヴィオレッタ様も、こんな子のどこがいいのかしら……」
「本当に不思議ですわね、ジョゼット様。一体どうやって高貴な方々に取り入ったのでしょう」
「伯爵令嬢と言っても、所詮養子でしょう」
「平民だってもう少し静かなのではなくて?」
「あらいやだドロテ様ってば!」
絵に描いたような意地悪令嬢たちに囲まれて、居心地悪そうにしているマリアが見える。咄嗟に駆け出そうとしたら、私より先に頼りになる人たちがやってきた。
「デボラ嬢、ドロテ嬢、ジョゼット嬢、口を慎むのは君たちの方ではないかな」
「カ、カイル様!これは、その……」
「この学園に入学した以上、君たちはクラウト伯爵令嬢と対等な立場だ。そんな当たり前のことを忘れて、根も葉もない噂話を吹聴する君たちの事を、クリストファー殿下はどう思うだろうね」
「わ、わたくしたち、そんなつもりでは……」
「では、どういうつもりなのか、聞かせてくれるかい?」
睨みを利かせたカイルに、ニコリと微笑んでいるけど目が笑っていないクリストファー殿下。令嬢たちは真っ青になっている。気の毒に思わないこともないけど、完全に自業自得なので諦めてもらうしかない。
「殿下、カイル様!そもそも、私がうるさかったのがいけないのです。みなさん、すみませんでした!」
「え、あ、えぇ、いえ。わたくしたちこそ……それでは失礼しますわ」
「行きましょうみなさん!」
「それではごきげんよう……!」
マリアの謝罪を皮切りに、令嬢たちはあっという間に散っていった。
「マリア、遅くなってすまなかった。怖くなかったかい?」
「二人ともありがとうございます。全然気にしてないので、大丈夫です!」
気丈に振舞うマリアを見て胸が苦しくなり、思わず駆け寄って彼女を後ろから抱きしめる。
「ヴィ、ヴィヴィ、ヴィオレッタ様……!?」
「マリアが気にすることなんて1つもありませんからね……!私の到着が遅れたせいで、辛い目に遭わせてしまってごめんなさい!!」
「い、いいえ!元はと言えば私が食堂にお誘いしたのですから!ヴィオレッタ様こそ何も気にしないでください!」
健気に私のフォローまでするマリアがいじらしくて、思わず抱き締める腕に力が籠る。
守らなくては、この子を。
(もしかして、私が悪役令嬢の役目から降りたせいで、他のご令嬢が悪役令嬢化してる?だとしたら責任重大だ……)
「あなたは私が守りますからね!辛いことや怖いことがあったり、誰かに意地悪なことをされたら真っ先に言いに来てちょうだい!クリス様、カイル様、マリアを守ってくださりありがとうございます。これからは私もこの子を精一杯守ります!!」
「抱き締めてもらった上にそんなサービスまで……!?え、今日の私ってば凄くラッキーなのかもしれない!デボラ様、ドロテ様、ジョゼット様、あなた方のお陰ですありがとうございます!!」
「マリア、そろそろいいだろう。ヴィオから離れたらどうだい?」
「離れるも何も、ヴィオレッタ嬢が自ら抱き締めてるじゃないですか。マリアちゃんへの嫉妬はほどほどにしてくださいとあれほど言ってるのに……」
どうやらマリアはそこまで落ち込んでいないようだし、殿下もカイル様も安心したようで、和やかに談笑している。ホッと一息だ。
そんな私たちを遠くから見ている存在がいたけど、この時の私は気付かなかった。
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