乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

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18.崩された平穏

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その報せは、あまりにも突然だった。



「マリアが、いなくなった……?」

「はい……恐らくですが、何者かに連れ去られた可能性が高いです」

 

 ある朝、いつもと同じように東屋に向かっていたら途中でカイルが待ち構えていて、マリアの失踪を告げられた。



「昨夜はいつも通り寮で食事をし、割り当てられた時間に入浴を済ませて自室に戻ったようです。今朝は時間になっても食堂に来ず、寮監が様子を見に行ったら……」

「既に居なかった……ということですね」





 学生寮は二人一部屋だが、マリアは入寮が遅く、部屋割りが済んだ後だった都合で同室がいなかった。そのため朝まで気付かれなったのだ。



「寮監が気付かなかったということは、夜間に自ら出て行ったわけではないのですね?」

「はい。窓の鍵も閉まっていて、そこから抜け出したとも考えられない、と報告が上がっています」



 外に出た形跡がないのに、どこにもいないとあって、女子寮は大騒ぎになった。



 寮監はすぐにクリストファー殿下に報せて、寮生たちには緘口令が敷かれた。何も事情が明らかになっていない以上、無責任な噂が独り歩きするのを避けたいのだろう。



「マリアちゃんが自ら出て行ったなら、ヴィオレッタ嬢の元に行っている可能性も考えたんですが……」

「私は何も聞いておりません。それに、あの子が誰にも言わず自らの意思で失踪するなんて、考えられませんわ」

「そうですよね。あの子はいつも笑ってるけど、最近はより自然に笑うようになりました。ヴィオレッタ嬢以外の女生徒とも少しずつ交流し始めたし、毎日楽しそうにしていたから……」



 そうなってくると、よほど巧妙な手口で連れ出されたことになる。

 出入口は全て確認済みだというけど、どこかに隠し扉や抜け道が用意されているのかもしれない。



(でも、ここで私がそういう可能性を指摘するのはまずい……かも?)



 寮生でもない私がそんな話をしたら、まず疑われるだろう。

 ただ単に、ここがゲームの世界の貴族学園だとしたら、有事の際に使用する抜け道の1つや2つあってもおかしくないという前世の知識からの閃きなんだけど、どう考えても怪しい発言だ。



「表向きは体調不良で欠席していることにするので、ヴィオレッタ嬢もそのつもりでお願いします。あと、もし何か心当たりを思い出したら、些細な事でもいいので必ず報せてください」

「わかりました、必ず伝えます」



 カイル様とクリス様は授業を欠席し、このままマリアの捜索を続けるという。

 王族で攻略対象者のクリス様に任せておけば、きっと大丈夫だ。自分も捜索に加わりたい気持ちを抑えて、他に今できることを探す。



(ヒロインが誘拐されるルート……いや、これも結構王道では?めっちゃ沢山思い出せるわ)



 そもそもヒロインは突出した能力を持っていることがほとんどだし、狙われやすい。というか狙われてなんぼだ。



 危機的状況において、攻略対象者に助けられることで恋が芽生えるのは鉄板ルートだ。そう思えば、恐らくマリアは連れ去られただけで、直接的な危害を加えられることはないハズ。



「誘拐エピ……ぱっと思い出せるのは、船で他国に連れて行かれそうになったヒロインを、宮廷魔法使いのルーカスが飛行魔法で颯爽と助けに来てくれたなぁ。これ何のゲームだったっけ?小説かも?」



 ルーカスは銀髪ロングの魔法使いで、見た目が好みだったのでよく覚えている。



「魔族に攫われて、魔王復活の生贄にされかけたところを、近衛騎士のナイジェルが間一髪で救い出してくれたこともある。あと、遊学中の隣国の王子ジルベールに求婚されて、断ったら無理やり国に連れて行かれそうになったところを、自国の王太子のアランが阻止してくれたり……いやホント誘拐されすぎだよねヒロインって」



 この世界には、魔族やモンスターは居ない。国内に海もない。なので、魔法絡みのエピソードは除外していいだろう。隣国の王子も学園には在籍していないので、こちらの可能性もなさそうだ。



 とりあえず、頭を振り絞って思い出せる限りのヒロイン誘拐ルートを書き出してみることにした。

 静まり返った東屋にペンを走らせる音が響く。マリアがいないせいかいつもの黒猫も見当たらず、私一人だ。



 あんなに賑やかだった東屋が、今はこんなにも寂しい。



「必ず手掛かりを見付けるから、無事でいて……マリア」



◇◇◇



 放課後の生徒会活動も今日は中止になり、真っすぐ帰宅したら父が待ち構えていた。



「ヴィオレッタ、殿下から話は聞いたよ」



 マリアの立場故か、それとも私と親しくしているからか。

 高位貴族のミラン公爵には彼女の失踪が伝えられたようだ。



「殿下からマリアの行方について、何か聞いていますか?」

「いいや、まだ何も。まったく痕跡を残さず人一人攫うなど、通常では不可能なことだ。恐らくだけど、魔法を使える者が関わっているんじゃないかな」



 今のこの世界には魔族やモンスターは居ないけど、建国の時代まで遡れば、そういった存在が居た記録が残っている。



 かつて魔族の蛮行により荒廃したこの地に降り立った神は、その御力で土地を癒し、魔族を寄せ付けず人々を守り導いた。ハルモニア王国の初代王は、その神の敬虔なる信徒だ。



 神の存在はこの伝承以外にも各国に言い伝えが残っているし、何より聖女は神のいとし子だ。神が気に入り、自らの力を分け与えた特別な存在。それが聖女や聖人と呼ばれる人たちなのだ。



(ん?今なんかちょっと思い出せそうかも……?)



 聖女と言えば癒しや浄化の力を持っていたり、他者の能力を底上げ出来たり、万能薬を作れたりする、というイメージだ。



 マリアを攫った人間はそのことを知っていて、その力を必要としているのかもしれない。



「ヴィオレッタ……父様の口から詳しいことは話せないが、マリアさんはこの国にとって重要な存在なんだ。我が家においては、可愛い娘の大事なお友達でもある」

「……そのようなことを私に話してしまって、よろしいのですか?」

「気にしなくてもいい。ヴィオレッタがマリアさんの友人で居続けるなら、いずれ知ることだからね」



 マリアが何者なのか、お父様は知っているのだろう。

 だけど、今お父様はマリアを聖女としてだけじゃなく、私の友人としても大切にしてくれると、きちんと言葉にしてくれた。



 そんな父の愛情深さに、胸が暖かくなる。



「その上で話すけど、クリストファー殿下からヴィオレッタに、マリアさんのことで頼みがあると申し入れがあった」

「殿下から、ですか?」



 今日一日、マリアの捜索をしていた殿下とは会っていない。

 些細な事でも思い出したら教えてくれとカイル様には言われたけど、前世の知識のことをどうやって伝えたらいいか悩んでいたため、まだ連絡をしていない。



「リラたちに準備をさせているから、支度してきてくれるかい?父様も一緒に行くよ」

「わかりました、急ぎます」



 さすがに制服姿のまま王宮に行くことは出来ないけど、マリアの安否に関わるので悠長にもしていられない。父の前を辞して急ぎ足で自室に戻った。 
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