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19.彼女を想う(sideクリストファー)
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マリアが居なくなったと聞いて、真っ先に兄である第一王子を疑ってしまった。
(マリアだけが、兄の病を治す術を持っている。兄自身の企みではなくても、マリアの存在を知った第一王子陣営の貴族が手を出す可能性は高い)
しかし、兄の従者がカイルに秘密裏に接触し『我が主は聖女失踪の件には関わっていない』と知らせてきた。
「あちらも嫌疑が掛かって当然だと理解しているんでしょう。だからこそ、動きが早かったですね」
「痛くない腹を探られるのは、兄としても困んだろう。いずれ能力を覚醒したマリアに、病の治癒を頼みたいだろうしね」
親しくはないけど憎いわけでもない兄なので、疑わずに済むならそれにこしたことはない。
「これだけ探しても手掛かりが得られないとなると、もう、ヴィオレッタ嬢に話を聞くしかないでしょう」
「……やはりそうなるか」
彼女は明らかに何か知っているし、それは我々が知らない事の可能性が高い。
先だってミラン公爵にそれとなく尋ねてみたけど、娘に何かを漏らした様子はなかった。そうすると、公爵経由ではなく独自のルートでマリアの情報を知り得たということになるからだ。
「だが、ヴィオは絶対に犯人ではない。カイルにもそれはわかるだろう?」
このタイミングで彼女を呼び出して、周囲からあらぬ疑いを掛かけられるのは避けたい。あんなにマリアを可愛がっていて、他者の悪意からも守ろうとしていたヴィオレッタが、マリアに危害を加えるはずがない。
「マリアちゃんの安否が掛かっている以上、悠長なことは言っていられません。こちらの情報を開示した上で、ヴィオレッタ嬢に協力を要請しましょう。先に協力体制を見せれば、彼女も知っていることを話してくれると思います」
マリアが聖女だと明かした上で、ヴィオレッタから情報を引き出す。
国の重鎮たるミラン公爵家の令嬢と言えど、まだ学生の身の上である彼女に、王家の秘密という重すぎる荷を背負わせるのは忍びない。
だが、マリアの安全には変えられない。
苦い思いを飲み込んで、カイルの意見に同意する。
「では、ミラン公爵を呼んでくれ。ヴィオの登城を要請しよう」
◇◇◇
「まさか公爵の方からあんな提案があるなんて、驚きでしたね。殿下」
「言うな……今は何も言わないでくれ……」
唯一の娘を溺愛しているミラン公爵は、ヴィオレッタの登城に難色を示した。
その上庇護していた聖女を他者に奪われたことに苦言を呈され、弁解の余地もなく神妙に聞いていれば、思いもよらないことを言われた。
『我が娘に王家の秘密を話すということは、娘を娶る覚悟がおありだと受け取っても構いませんか?』
(確かにヴィオが王族入りすれば、王家で共有すべき案件を伝えることに支障はなくなる。だが、今このタイミングで……!?)
ヴィオレッタのことは好ましく思っているし、今候補に挙がっている婚約者候補の中では、最も王子妃に相応しいと断言できる。自分にとってはマリア以上に。
だがそれは、兄王子にとっても同じことが言えるのだ。
中立派の公爵令嬢が二人の王子どちらかと婚約すれば、婚約した方の王子が王位争いを一歩リードするだろう。だけど、それは自分の本意ではない。王位を望んでいるわけではない。
けど、兄とヴィオレッタが婚約する可能性があると思えば、物凄く落ち着かない。
「娘を溺愛してる公爵自ら提案するってことは、ヴィオレッタ嬢は殿下に気があるんでしょうね」
「ほ、本当か……?」
「少なくとも嫌がってはいないかと。どうせ政略結婚から逃れられないなら、少しでも幸せになれる相手を選んでやりたいと思うのが親心ってやつでしょうから、よかったですね!」
この緊迫した状況で浮かれるわけにはいかないが、カイルの発言に胸が弾んだ。
まだ婚約者など決められないと己を律していたつもりだけど、いつの間にか随分と彼女に惹かれていたのだと、あらためて思い知る。
「だ、だけどウィル、こんな騙し討ちのような形で父親の許可を得て、彼女の逃げ道を塞ぐような真似をしてしまうのは、お互いのためにならないだろう」
「何を言ってるんですか。そんなの、王家の事情はあるけどそれ以上に君を愛しているんだって、正直に言って誠意を見せればいいんですよ」
「あ、ああ、あ、あ愛してるって!?僕が、ヴィオに、言う、のか……!?」
「ほら、早く準備しないと間に合いませんよ。せっかくだし、花束の1つでも用意しておきましょうか。庭園の紅薔薇が見ごろだったはず……」
「待ってくれウィル!彼女に贈るなら淡い紫のものにしてくれ!!」
「では、そのように」
ニヤリと笑うウィルを見送って、ヴィオレッタに想いを馳せる。
(ヴィオレッタは……僕の手を、取ってくれるだろうか)
今はマリアの救出が最優先で、それ以外の事は当然後回しだ。彼女を救えなければ、全てなかったことになる。
それでも、ヴィオレッタに想いを馳せることを止められない。
(あぁ……早く、彼女の顔が見たい)
まさかそのすぐ後に、兄のことを話すヴィオレッタを見て激しく動揺することになろうとは、このときは思ってもみなかった。
(マリアだけが、兄の病を治す術を持っている。兄自身の企みではなくても、マリアの存在を知った第一王子陣営の貴族が手を出す可能性は高い)
しかし、兄の従者がカイルに秘密裏に接触し『我が主は聖女失踪の件には関わっていない』と知らせてきた。
「あちらも嫌疑が掛かって当然だと理解しているんでしょう。だからこそ、動きが早かったですね」
「痛くない腹を探られるのは、兄としても困んだろう。いずれ能力を覚醒したマリアに、病の治癒を頼みたいだろうしね」
親しくはないけど憎いわけでもない兄なので、疑わずに済むならそれにこしたことはない。
「これだけ探しても手掛かりが得られないとなると、もう、ヴィオレッタ嬢に話を聞くしかないでしょう」
「……やはりそうなるか」
彼女は明らかに何か知っているし、それは我々が知らない事の可能性が高い。
先だってミラン公爵にそれとなく尋ねてみたけど、娘に何かを漏らした様子はなかった。そうすると、公爵経由ではなく独自のルートでマリアの情報を知り得たということになるからだ。
「だが、ヴィオは絶対に犯人ではない。カイルにもそれはわかるだろう?」
このタイミングで彼女を呼び出して、周囲からあらぬ疑いを掛かけられるのは避けたい。あんなにマリアを可愛がっていて、他者の悪意からも守ろうとしていたヴィオレッタが、マリアに危害を加えるはずがない。
「マリアちゃんの安否が掛かっている以上、悠長なことは言っていられません。こちらの情報を開示した上で、ヴィオレッタ嬢に協力を要請しましょう。先に協力体制を見せれば、彼女も知っていることを話してくれると思います」
マリアが聖女だと明かした上で、ヴィオレッタから情報を引き出す。
国の重鎮たるミラン公爵家の令嬢と言えど、まだ学生の身の上である彼女に、王家の秘密という重すぎる荷を背負わせるのは忍びない。
だが、マリアの安全には変えられない。
苦い思いを飲み込んで、カイルの意見に同意する。
「では、ミラン公爵を呼んでくれ。ヴィオの登城を要請しよう」
◇◇◇
「まさか公爵の方からあんな提案があるなんて、驚きでしたね。殿下」
「言うな……今は何も言わないでくれ……」
唯一の娘を溺愛しているミラン公爵は、ヴィオレッタの登城に難色を示した。
その上庇護していた聖女を他者に奪われたことに苦言を呈され、弁解の余地もなく神妙に聞いていれば、思いもよらないことを言われた。
『我が娘に王家の秘密を話すということは、娘を娶る覚悟がおありだと受け取っても構いませんか?』
(確かにヴィオが王族入りすれば、王家で共有すべき案件を伝えることに支障はなくなる。だが、今このタイミングで……!?)
ヴィオレッタのことは好ましく思っているし、今候補に挙がっている婚約者候補の中では、最も王子妃に相応しいと断言できる。自分にとってはマリア以上に。
だがそれは、兄王子にとっても同じことが言えるのだ。
中立派の公爵令嬢が二人の王子どちらかと婚約すれば、婚約した方の王子が王位争いを一歩リードするだろう。だけど、それは自分の本意ではない。王位を望んでいるわけではない。
けど、兄とヴィオレッタが婚約する可能性があると思えば、物凄く落ち着かない。
「娘を溺愛してる公爵自ら提案するってことは、ヴィオレッタ嬢は殿下に気があるんでしょうね」
「ほ、本当か……?」
「少なくとも嫌がってはいないかと。どうせ政略結婚から逃れられないなら、少しでも幸せになれる相手を選んでやりたいと思うのが親心ってやつでしょうから、よかったですね!」
この緊迫した状況で浮かれるわけにはいかないが、カイルの発言に胸が弾んだ。
まだ婚約者など決められないと己を律していたつもりだけど、いつの間にか随分と彼女に惹かれていたのだと、あらためて思い知る。
「だ、だけどウィル、こんな騙し討ちのような形で父親の許可を得て、彼女の逃げ道を塞ぐような真似をしてしまうのは、お互いのためにならないだろう」
「何を言ってるんですか。そんなの、王家の事情はあるけどそれ以上に君を愛しているんだって、正直に言って誠意を見せればいいんですよ」
「あ、ああ、あ、あ愛してるって!?僕が、ヴィオに、言う、のか……!?」
「ほら、早く準備しないと間に合いませんよ。せっかくだし、花束の1つでも用意しておきましょうか。庭園の紅薔薇が見ごろだったはず……」
「待ってくれウィル!彼女に贈るなら淡い紫のものにしてくれ!!」
「では、そのように」
ニヤリと笑うウィルを見送って、ヴィオレッタに想いを馳せる。
(ヴィオレッタは……僕の手を、取ってくれるだろうか)
今はマリアの救出が最優先で、それ以外の事は当然後回しだ。彼女を救えなければ、全てなかったことになる。
それでも、ヴィオレッタに想いを馳せることを止められない。
(あぁ……早く、彼女の顔が見たい)
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