乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

文字の大きさ
22 / 27

22.ここで生きていく

しおりを挟む
ゲームのアレクシスルートでは、ヒロインのマリアと心を通わせたことでマリアの神聖力が本格的に覚醒する。



 そこに女神が降臨し、二人に魔力と神聖力の使い方を教えてくれるのだ。



(神聖力の覚醒は、ルート突入イベなんだよね)



 ゲームとは色々異なっているけど、もしかしたらこのピンチを乗り越える際に、マリアが自分を救ってくれた相手に恋をして、神聖力が本格的に覚醒するのかもしれない。



◇◇◇



「アレクシス殿下は、平熱が平均より高めですよね?」

「よく知っているね。何らかの病が原因だと主治医からは言われているけど、詳しいことはわかっていない」



 それは身の内にある魔力が熱を帯び暴れているからで、そのせいで彼は常に不調続きだ。

 適度に魔力を放出したり、日常的に魔力を行使すれば、体調も安定するだろう。



 そう説明すると、アレクシス殿下は物凄い勢いで食いついてきた。



「ヴィオレッタ嬢は、その方法を知っているのか!?」

「わ、私も詳しいことは存じません。ですが、マリアを攫った人間が詳しいはずです!」



 アレクシス殿下を牽制するように、クリス様とカイル様が割って入って私に問いかけた。



「その人間とは、さっき言っていた黒猫のことかい?」

「あの、東屋でいつもマリアちゃんと一緒にいた黒猫のこと……ですよね?」

「はい。カイル様もよく抱き上げていたあの黒猫、実は……」



◇◇◇



 思い出した前世の知識を皆に話したら、早速マリアの救出に向かうことになった。

 作戦を立て、夜闇に紛れて密かに決行する手筈になったため、アレクシス殿下の側近が国王陛下に許可を取りに行った。



 私はと言うと、救出への同行を求められたため、夜に備えて一旦帰ることになった。



「危険な場所へ連れて行きたくはないのだけど、救出にはきっとヴィオの知識が必要になる」



 心底申し訳なさそうな表情で同行を求めるクリス様に、明るく笑って答える。



「勿論です、クリス様。マリアを助けるために、私はここにいるのですから」

「それは違うよ!マリアは大事な存在だけど、僕にとってはヴィオだって同じぐらい……いや、それ以上に、大切なんだ。危険な目に遭わせたいわけじゃないし、本当なら屋敷で待っていて欲しいぐらいだ」

「クリス様……?」

「僕の手で守れなくて、不甲斐ない……いや、今のは失言だった。忘れてくれ」



(そっか、きっと責任を感じてるんだ。マリアを任されていたのは自分なのに、アレクシスが居なければ居場所がわからないだなんて、クリス様にはしんどいよね)



 自分で守れなかったどころか、ぽっと出の公爵令嬢が持つ謎知識に頼るしかないなんて、さぞかし悔しいだろう。



 だけどマリアの確保が最優先事項な今、その思いをグッと堪えて私の意見を聞いてくれて、信じてくれているのだ。第二王子としての矜持もあるだろうに、なんて懐の深い人なんだろうと思う。



 少しでも彼の心の負担を軽くしたくて、ことさらに明るく返した。



「ただ待っているだけなんて出来そうにないので、お気遣いは無用ですわ。同行を求められなかったら、こっそりと屋敷を抜け出していたかもしれません」

「それだけは絶対にやめてくれ……!」

「ふふっ、冗談です。クリス様が私を必要としてくださって、連れて行くと決めてくださったことが嬉しいです」

「……っ、あ、あぁ」



 顔が赤くなった殿下は、私から目をそらしつつも笑顔だった。信頼関係を築けているんだと感じられて、私も自然と笑みがこぼれた。



 仕事をしない生徒会長という第一印象だったクリス様だけど、本来は誠実で他人を思いやれる人なんだと今ならわかる。



◇◇◇



「カイル、あの二人はいい感じなのか?クリスの婚約者は彼女で決まりか?」

「いやーまだなんとも。殿下はともかく、ヴィオレッタ様は難攻不落ですよ」

「クリスの良さを知れば、惚れない令嬢なんていないだろう。時間の問題だ」

「その弟愛はどこから来てるんでしょうねぇ……毎度不思議でなりませんよ」

「ま、俺にも色々あるんだよ。彼女を娶るとなればミラン公爵家の男どもが煩いかもしれんが、その辺は俺に任せてくれて構わない」



 私たちのすぐ傍で、カイル様とアレクシス殿下が話している。随分と打ち解けたようで、殿下は悪だくみ中みたいな、いたずらっぽい表情だ。



(子供時代に色々あったことと、自由奔放に過ごせた離宮暮らしの影響で、結構したたかで逞しいところがあるんだよね。そういうところも推せる!)



 内心ほっこりしながらそちらを見ていたら、アレクシス殿下と目が合った。



「なぁ、ヴィオレッタ嬢。君は俺の事を、他にも何か知っているのか?」

「アレクシス殿下には、時が来たら必ずお話します。今はまだ、これ以上のことは」

「聖女が無事に戻ったら、か」

「はい。マリアを無事に救出した暁には、私が知っていることを全てお話します」



 私が頭を打って記憶を失った代わりに、様々な知識を得たことはアレクシス殿下も信じてくれた。というより、弟が話すことを疑う気がないのだろう。クリス様が居てくれて助かった。

 

「……覚えていないようだけど、俺は幼い頃の君に、茶会で酷いことを言ったことがある。それ以来、君はあまり公の場に出て来なくなったと聞いて、ずっと気になっていたんだ」



 アレクシスが王とそっくりな顔立ちに育ったら、すぐさま離宮から王都へ連れ戻された。

 彼を利用しようとする貴族は後を絶たず、アレクシスの人間不信は加速していった。



(ゲームでは、娘を嫁がせようと画策する貴族たちにうんざりする描写もあったもんね。どこの貴族も権力を持ちたいのはわかるけど、やり方がよくないんだよなぁ)



 王太后がアレクシスを表立って庇護するようになってからは、そういった動きも落ち着いた。

 その代わりに、一線を退いて尚影響力を持つ王太后の指示により、アレクシスに貴族との繋がりを持たせるためのお茶会が定期的に開かれるようになった。

 

 恐らく、私とはそこで会ったのだろう。



(あのゲーム、どのルートにも悪役令嬢っぽいキャラは何人もいたんだよね。いわゆるモブ悪役令嬢が)



 そう。

 ヴィオレッタは、数多くいるモブ悪役令嬢の一人だったのだ。



(公爵令嬢のヴィオレッタもモブ扱いだなんて……!格のある悪役令嬢に転生したって思い込んでた過去の自分がちょっと恥ずかしい!!いやだってこんなに美人なモブが居るなんて思わないでしょ!?)



 恐らくアレクシス殿下は、お茶会の場でヴィオレッタの容姿や態度に物言いをつけたのだろう。顔が怖いとか、偉そうだとか、たぶんそういうやつだ。



(黙っていると高慢な美人だものね、この顔)



 本来のヴィオレッタは真面目で大人しい子だったので、随分とショックを受けたに違いない。



 アレクシス殿下のこの申し訳なさそうな顔を、居なくなってしまったヴィオレッタに見て欲しかった。何を今さらだと怒ったかもしれないし、幼い頃の自分が報われたと静かに泣いたかもしれない。



(せめて、私が代わりに殿下の気持ちを受け取ろう。殿下も、きっと後悔してる)



「あの時はすまなかった。謝ったからと言って俺の発言がなかったことになる訳じゃないし、許して欲しいとは言わない。だが、俺は自分の言葉をとても悔いていて、もう二度とあんなことは誰にも言わないと誓おう。そのことを、知っていてくれると有難い」



 その時、どこかで女の子が泣いたような、笑ったような気がした。



(あぁ……ヴィオレッタとしてのこの人生を、大事にしよう。誰にも恥じないよう、前を向いて生きよう)



 どの作品の世界かを思い出して、推しにも出会えたけど、私にとってここは乙女ゲームの世界では既になくなっていた。



◇◇◇



「こうして私の話を聞いてくださって、マリアの救出にお力添えいただけるだけで充分ですのに、真摯な御言葉をありがとうございます。決して忘れませんわ」

「聖女の救出は王族の責務だ。むしろ、君が俺たちに力を貸してくれてる状況なんだけど?」

「私は、お友達のマリアを助けたいのです。その子がたまたま聖女だったおかげで王族の助力を得られた、という認識でおりますの」

「君は、出会った頃と随分印象が変わったな。クリスの傍に居るのが、君のような令嬢でよかった」



(おっとこれは、アレクシス殿下にとっては最上級の褒め言葉に違いない!推しに信頼されるってなんかちょっと大分かなり嬉しい……っ!)



「兄上、早く陛下のところに行きましょう!ヴィオ、また後で!」

「クリス、そんな心配しなくても兄上はお前の味方だから……ちょ、ちょっと、そんなに引っ張んないで!落ち着いてクリス!!」



 嵐のように去っていく二人の殿下を見送り、私も父の元に戻ることにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

乙女ゲームに転生した悪役令嬢、断罪を避けるために王太子殿下から逃げ続けるも、王太子殿下はヒロインに目もくれず悪役令嬢を追いかける。結局断罪さ

みゅー
恋愛
乙女ゲーム内に転生していると気づいた悪役令嬢のジョゼフィーヌ。このままではどうやっても自分が断罪されてしまう立場だと知る。 それと同時に、それまで追いかけ続けた王太子殿下に対する気持ちが急速に冷めるのを感じ、王太子殿下を避けることにしたが、なぜか逆に王太子殿下から迫られることに。 それは王太子殿下が、自分をスケープゴートにしようとしているからなのだと思ったジョゼフィーヌは、焦って王太子殿下から逃げ出すが……

【完結】モブ魔女令嬢は絶対死んじゃう呪われた令息の婚約者!

かのん
恋愛
私はこの乙女ゲーム【夕闇のキミ】のモブだ。 ゲームの中でも全く出てこない、ただのモブだ。 だけど、呪われた彼を救いたい。 そう思って魔法を極めたが故に魔女令嬢と呼ばれるマデリーンが何故か婚約者となっている彼に恋をする物語。

本物聖女の力は無力でした ――見世物レベルの聖女のおかげで婚約破棄されました――**

鷹 綾
恋愛
魔法が存在しないと信じられていた世界に、 突如として現れた「本物の聖女」。 空中浮遊、瞬間移動、念動力―― 奇跡を披露した平民の少女は、たちまち市民の熱狂を集め、 王太子はその力に目を奪われる。 その結果、 王太子の婚約者だった公爵令嬢アストリアは、 一方的に婚約を破棄されてしまった。 だが、聖女の力は―― ・空中浮遊は、地上三十センチ ・瞬間移動は、秒速一メートル ・念動力は、手で持てる重さまで 派手ではあるが、実用性は乏しい。 聖女の力は、見世物レベル。 少なくとも、誰もがそう判断していた。 それでも人々は喝采し、 権威は少女を縛り、 「聖女」という立場だけが一人歩きしていく。 そんな中、婚約破棄された公爵令嬢アストリアは、 ある違和感に気づき始める。 ――奇跡よりも、奪われているものがあることに。 派手な復讐はない。 怒鳴り返しもしない。 けれど静かに、確実に、 “正しさ”は明らかになっていく。 見世物にされた奇跡と、 尊厳を取り戻す少女たちの物語。 ---

転生令嬢シルヴィアはシナリオを知らない

潮海璃月
恋愛
片想い相手を卑怯な手段で同僚に奪われた、その日に転生していたらしい。――幼いある日、令嬢シルヴィア・ブランシャールは前世の傷心を思い出す。もともと営業職で男勝りな性格だったこともあり、シルヴィアは「ブランシャール家の奇娘」などと悪名を轟かせつつ、恋をしないで生きてきた。 そんなある日、王子の婚約者の座をシルヴィアと争ったアントワネットが相談にやってきた……「私、この世界では婚約破棄されて悪役令嬢として破滅を迎える危機にあるの」。さらに話を聞くと、アントワネットは前世の恋敵だと判明。 そんなアントワネットは破滅エンドを回避するため周囲も驚くほど心優しい令嬢になった――が、彼女の“推し”の隣国王子の出現を機に、その様子に変化が現れる。二世に渡る恋愛バトル勃発。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...