乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

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23.迎えに来たよ、マリア!

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その夜、私は殿下たちと共に王都の片隅にあるこじんまりとした一軒家の前に立っていた。



「アレクシス殿下、わかりますか?」

「あぁ、この花を通して熱を感じる。魔力ってこんな使い方があるんだなぁ……」



 アレクシスの手には、マリアが丹精込めて育てた薔薇がある。

 聖女は豊穣の能力を持っているので、彼女が育てた植物には神聖力が宿るのだ。そこにアレクシスが魔力を流し込むことで花に込められた神聖力が活性化し、マリアの神聖力と引き寄せ合うのだ。



(原理はまったくさっぱりわかんないけどね!)



 攻略対象キャラは全員、何らかの形でマリアの神聖力を探知することが出来る設定だったので、そういうものだと受け止めておく。詳細な説明を求められませんように。



「兄上、カイルが侵入経路を確保しました」

「早かったな。ヴィオレッタ嬢。行けるか?」

「もちろんです!さぁ、行きましょう!!」

「君が一番勇ましくない……?」



 私が同行することを父は最後まで反対していたけど、私の持つ前世の知識が絶対に必要なため、最終的には殿下たちが押し切った。心配した父が公爵家の護衛をつけてくれたので、戦力は十分だ。



(黒猫はマリアを手中に収めて油断してるだろうし、まさかこっちに正体がバレてるなんて思わないだろうから、勝算は充分ある)



 見張りの男性を昏倒させ、裏口の鍵を奪ったカイルを先頭に、室内に入る。

 人の気配は感じられない。



「本当にここなのか?」

「はい……えーっと、たぶんこの辺……あ、ありました!アレクシス殿下、マリアの薔薇をここに置いてください」



 月明りを頼りに探すのは少々難しかったけど、目を凝らしてなんとかソレを見付けた。



「これは……魔法陣か?実物は初めて見たな」



 アレクシス殿下が薔薇を置くと、魔法陣が薄っすら光を帯び、地下に降りる階段が現れた。



「……魔法はこんなことも出来るんだね」

「殿下方、ヴィオレッタ嬢、まずはオレが降ります。ここで待っていて」

「さぁ行きましょう!早く!!」

「えっいつの間に?早すぎません??」



 護衛を引き連れて一番乗りで階段を駆け下りる私を、皆が慌てて追いかけてきた。



◇◇◇



「残念だよ、アンナマリア。心優しい君ならボクらを、我が祖国を救ってくれると思っていたのだけど」

「私はただのマリアです!そんな名前、知りません……!」

「おや、実の母親が君に授けた名前なのに。そんな風に言ってしまっていいのかい?」

「わっ……わたしの、おかあさん、は……」



 元の青年姿に戻った黒猫とマリアの話し声が聞こえる。こちらの存在には気付いていないようだ。



「君の母、フレデリカ女王のことも教えてあげよう。さぁ、ボクの手を取って――」

「いやっ!さわらないで!!」



 マリアの叫びと共に、彼女の内側から強い光が放たれた。



「ぐっ……ぐ、あぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「こっちに来ないで!あなたなんて知らない!!」



 泣き叫ぶマリアの声に呼応するかのように、光は輝きを増していく。



(あれ……これって神聖力の暴走!?こんなタイミングでぇぇぇーーー!?)



 いきなり大ピンチだ。



 マリアは泣きじゃくっていて周りが見えていない上に、制御しきれない神聖力が地下室中に溢れかえっている。



(マリアはまだ神聖力を制御できないはず……このままだとマズくない……!?)



「マリア!こっちを見て!!!一緒に帰ろう!!!!」



 危険だと判断した護衛とカイル様に阻まれ、クリス様に後ろから抱きかかえられているため、マリアには近付くことが出来ない。精一杯声を張り上げる。



「……っく、ひっく、うぅ、うぇぇっ……」



 駄目だ、これじゃ届かない。



「ヴィオレッタ嬢、聖女はどうなってるんだ!?」

「たぶん、神聖力が暴走しているんです。なんとかして落ち着かせないと……!」



 私が物語の主人公だったら颯爽と助けることが出来たかもしれないけど、あいにくただのモブ悪役令嬢だ。



 それでもマリアと築いてきた友情は本物だと信じているし、なんとかして彼女を救いたい。このままでいいわけがない。



 だって、あんなに泣いている。



「ぐぁっ!」

「カイル……っ!?」



 私たちの前に出ていた護衛とカイル様に、マリアの放つ光が降り注ぐ。

 神聖力は癒しや豊穣の力で決して攻撃するものではないけど、制御されていない強すぎる光は身体に毒なのだ。 



(でも、今がチャンス!)



「ぐっ……ヴィオ!」

「クリス駄目だ!お前は行くな!!」



 クリス様の腕の力が緩んだ隙に、振り切ってマリアの元へ駆け出した。



「マリア、こっちを見なさい!」

「―――――ヴィオレッタ、さま?」

「えぇ、そうよ。貴女を迎えに来たわ。一緒に帰りましょう?」



 マリアの顔を両手で掴んでグッと引き寄せる。



「貴女がどこの誰かはわからないけど、どんな出自だって私の大切なお友達のマリアであることは、ずっと変わらないわ。そのままの貴女が好きよ。だから、こちらに戻っていらっしゃい」



 ポロポロ涙をこぼしていたマリアの虚ろな瞳に、光が戻ってきた。



「ヴィオレッタさま……わた、わたし……」

「もう、こんなに冷えちゃって。女の子が体を冷やしちゃ駄目じゃない」



 強い光に包まれているのにすっかり冷え切ったマリアを抱き締め、背中をトントンする。そのまま光は弱まり、カイル様が護衛たちと共にマリアを追いつめていた青年を捕らえた。



 随分手荒に扱っているのが見えたので、慌てて声を掛けた。



「その方、ナデル公国の公子なので丁重に扱ってあげてください!」

「「えっ?」」



 いつの間にか私とマリアのすぐ傍に来ていた、二人の殿下の声が綺麗にハモった。
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