乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

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24.そして、翌日

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イザーク・ドゥハ・ナダル公子は、マリアことアンナマリア・フィオレンティーナ・アクイレギア王女の婚約者になるはずだった男だ。



(マリアがまだ赤ん坊だった頃、祖国が王弟の裏切りで滅びてしまった……)



 女王の娘で唯一の王位継承者のマリアは、母親である女王の護衛騎士と侍女に託されて、遠く離れたハルモニア王国に落ち延びた。



 二人の娘になり、この国の庶民として暮らしていたマリアだけど、14歳の頃に神聖力を発現した。



(本来なら、幼い頃から母親の手ほどきを受けて少しずつ能力を育てていくはずだった。けど、王家にしかその手段は伝わってないから、養父母にはどうしようもなかったんだろうなぁ)



 それからマリアは、養父母のツテで信頼できる筋からハルモニアの王家に保護されることになる。自分の本当の出自は知らされないまま。

 

 ここまでがゲームのプロローグだ。



(あー、すっかり思い出した!頑張ったぞ私の記憶力!!)



◇◇◇



「お嬢様、馬車で書き物していて酔いませんか?」

「大丈夫よ。私、乗り物には強いみたい」

「ならよいのですけど。もうじき着きますから、ほどほどにしてくださいね」



 マリアを救い出してから一夜明け、私は再び登城するため馬車に揺られていた。その間に、思い出したゲームの内容を忘れないうちに書き留めておく。



(はぁぁ……お前の情報源はどこだ?とか、国家機密を知ったお前をただでは済まさないぞ!とか、激詰めされるんだろうなぁ。クリス様は庇ってくれるって信じてるけど、あんまり迷惑かけたくない。ただでさえ、昨夜は随分心配させてしまった)



 クリス様にまであらぬ疑いをかけられたらマズい。



 とはいえ、前世の知識だと正直に言っても、信じてもらうのは難しいと思う。

 この世界では、亡くなった人は女神の御膝元にある死者の国に召されると信じられているので、輪廻転生の概念が無い。



(マリアと違って、特別な力を持つ子が生まれる血筋じゃないし、ミラン公爵家には一度も異国の血が入ってないらしいから、ご先祖様が~的な言い訳も使えない)



 マリアの母国であるアクイレギア聖教国は、正当な後継者である女の嫡子が居ないと国家を維持できない。まさに特別な血筋だ。



 そうと知らずに、実の姉を手に掛けた愚かな王弟は神罰が下って亡くなり、統治者を失った聖教国の土地は、周辺諸国の適切な対応の元割譲されたらしい。



 ゲームのルートによってはマリアがアンナマリア女王として祖国を再興するエンドもあったけど、この世界ではそうはならないだろう。



(なんたって、イザークルートの話だもんね!)



 現時点でイザークの好感度はぶっちぎりでマイナスだろう。ご愁傷様だ。



◇◇◇



「ヴィオレッタ様っ!」



 着いて早々、マリアが勢いよく抱き着いてきた。なにこれかわいい。



「マリア、ごきげんよう。昨夜はよく休めたかしら?」

「はい。アレク様がよくしてくださったので、ぐっすり眠れました!」



 マリア救出後、アレクシス殿下がマリアを王城に保護し、捕らえたイザークを国王陛下に引き渡した。

 

 その間、クリス様はカイル様と一緒に私を公爵邸に送り届けてくださったので、後始末はアレクシス殿下に一任した形となる。手柄をアレクシス殿下が独り占めしたことにならないよう、今日の報告会には兄弟揃って参加するそうだ。



「それに、神聖力の使い方もばっちりです!」

「まぁ、そうなの?」

「はい!お陰で朝から王城の花を沢山咲かせてしまって、庭師さんをビックリさせちゃいました」



 えへへと笑うマリアは、すっかり元気そうだ。よかった。



「あの、ヴィオレッタ様がいっぱい助けてくださったのだと聞いています。何から何まで、本当にありがとうございます!」

「大袈裟だわ。私はただ知ってることを話しただけだし、動いたのはアレクシス殿下とクリス様よ」

「でも、私を抱き締めてくれたのはヴィオレッタ様です。だから、私――――」

「ヴィオレッタおはよう!朝から呼び立ててしまってすまないね!!」



 マリアに続いて、クリス様も出迎えてくださった。心なしか、いつもより早口な気がする。



「おはようございます、クリス様。お忙しいのに、昨夜は送り届けてくださりありがとうございました」

「気にしないでくれ、当たり前のことをしただけだから」

「殿下!今は私がヴィオレッタ様とお話してたんですよっ!終わるまで待っててください!!」

「いやだってなんかいい雰囲気だったし……」

「もー!私にまで嫉妬しないでくださいよー!!」

「これはそういうのじゃなくて……いやそうなのか……?僕はマリアにまで嫉妬しているのか!?」



 王城内だというのに、こんなに賑やかでいいんだろうか。

 些か気になったので、クリス様の後ろに控えたカイル様の様子を伺うと、ニコニコと嬉しそうに見守っていた。なら、気にしないでおくか。



 そんな三人の様子を見て、すっかりなじんだ日常が戻って来たなと、ホッと一息ついた。



◇◇◇



「すみませんでした……」

「んん?声が小さくて聞こえねぇなァ?」

「すっ、すみませんでしたーーー!!」



 アレクシス殿下の私室を訪ねると、イザークが激詰めされていた。私より先に。



 彼をしごいているのは、アレクシスの護衛騎士ジェイドだ。以前は若手騎士を鍛える鬼教官としてその名を馳せていたため、イザークにも容赦がない。カイル様も、この様子を見て震え上がっている。



「あぁ、アンナマリア!来てくれたんだね……!どうか君の慈悲でボクを、公国を救っておくれ!!」

「ヴィオレッタ様、本当にこの人が黒猫ちゃんなんですか……?」

「残念だけど、そうなのよ……」



 自分に懐いていた可愛い黒猫の正体が誘拐犯だなんて、マリアはさぞかしショックだろう。

 イザークの視界にマリアが入らないよう、さり気なく立ち位置を変える。



「クリス、昨日はちゃんと休めたか?」

「はい。兄上こそ、お疲れではないですか?後始末を任せてしまい申し訳ありません」

「魔力を適度に使ったからか、具合がいいんだ。今まで兄らしいことなんて、ほとんどしてやれなかったんだ。こういう時こそ頼ってくれ」



 弟の前ですっかり砕けた話し方になったアレクシスは、まさに頼れるお兄ちゃんだ。

 そしてアレクシスは、マリアに視線を移す。



「聖女様も、よくいらしてくださいました」

「もー、アレクってば!そういうのいいよって、昨日も言ったでしょ?」

「わかったわかった。ったく……お前は、変わらないな」



(きたきたきた!!!!!対幼馴染モード全開のアレクが生で拝めるなんて…………っ!!!!!転生万歳っっっ!!!!!!)



 実はこの二人、アレクシスが幼い頃を過ごした静養地の離宮で出会っている。



 色々あって排他的になっていたアレクシスは、マリアとの出会いがきっかけで考え方が変わり、周囲の信頼できる人間を大事にするようになった。クリス様を溺愛するようになったのも、マリアとの出会いがキッカケだ。



(マリアはアレクシスルート確定かな!?二人の恋愛を目の前で見れるなんて眼福過ぎる……嬉しい……!)



「アンナマリア!そんな男に近寄らないでくれ……っ!君はボクと結婚してナダルの民を救ってくれるのだろう?気高き救国の聖女よ!」

「とまぁ、ずっとこの調子ですよ」



 流行り病と聞いて、アレクシスとじゃれついていたマリアの表情が曇った。



「ジェイド、仔細は?」

「どうやらナダル公国の流行り病は、随分とタチが悪いようです。もはや打つ手がなく、公子は必死になって聖女様を探していたようでして」

「そんなに追い詰められているのか……」

「ここから随分離れていますし、ナダル公国と我が国は国交がありませんからね」



 ナダル公国は資源が豊かな国で、アクイレギア聖教国の庇護下にあったため、他国との交流が薄い。それで充分だったけど、聖教国が亡び病が蔓延した今、国家滅亡の危機に瀕している。それがイザークルートの導入だ。



(他のルートと比べてもハードなんだよね……隠しルートだからかな)



「ナダルの民は女神アクイレギアの信徒なんだ!女神のいとし子たる聖女の君が、ボクらを見捨てるわけがないだろう?」

「……私、は……」



 震え出したマリアの右手を私が、左手をアレクシス殿下がそっと握った。そして何故か、私の背後にはクリス様がぴったりと寄り添っている。マリアの左右が塞がっているからか。



(大丈夫よ、マリア。私たちがついているからね)



 内心でエールを送り、一つ頷く。マリアは意を決したように、イザークに話し掛けた。



「ナダル公子、詳しく聞かせてください」
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