【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います

黒幸

文字の大きさ
25 / 56

第25話 エミーと呼べて、嬉しかったんだ

しおりを挟む
 ロビーロベルトとカブリオレ――軽装二輪で二人乗り・一頭立ての小型の馬車――に乗るのはいつ以来かしら?
 随分と久しぶりな気がする。

 ロビーがあたしの家から、おじい様コンラートの離宮に行ったけど、それほど寂しくなかったのはこのカブリオレがあったから。
 ドライブに連れて行ってくれたのだ。
 彼は基本的に誰に対しても優しくて、気遣いが出来る人なのであたしだけが特別だった訳じゃない。

 今、考えたら、勘違いされないようにという意味合いがあったんだと思う。
 病身のエヴァエヴェリーナを除いて、姉妹の交代制でカブリオレのシートに座った。

 あの頃とは違う。
 あたしはあまりにも子供で何も知らなかった。
 愛されようと躍起になって、迷惑をかけていただけなのだ。
 今はもう違う。

 隣の馭者席で馬を操るロビーの横顔を見て、ふとそんなことを思った。

「あの。ロベルト第二王子殿
「ネドヴェト嬢。それなんだが……。僕のお願いを一つ、聞いてくれないかな?」

 落下したあたしとエヴァを風の魔法を使って、助けてくれたのはロビーだった。
 ユリアンに馭者を任せて、かなり危ないということを理解しながら、疾走するカブリオレで魔法を使ってくれたのだ。

 だから、お礼の代わりにあたしが出来ることであれば、何でもいいと言ってしまった。
 それでなくてもエヴァの面倒まで看てもらうのだから、かなり無理なお願いでも聞かないといけないと思う。
 ネドヴェトに二言はないというのが、我が家の家訓なんだから。

「何でしょう?」
「君のことをまた、エミーと呼ぶ権利を僕に貰えないだろうか。そして、願わくば、ロビーと呼んで欲しいんだ」
「ふぇ?」

 あまりに肩透かしなお願いだったので変な声が出ちゃった。
 ロビーは優しいし、紳士だから妙なお願いはしない人だとは思ってた。
 思ってたけど、まさか、そういうお願いをされると思わなかった。

「駄目……だろうか?」
「かまいませんよ、ロビー」
「本当かい?」
「きゃっ」

 そんなに愛称で呼ばれるのが、嬉しかったのかしら?
 満面の笑みを浮かべて、あたしの方を見るもんだから、手綱が疎かになったのだ。
 危ないったら、ありゃしない。

 ロビーはこんなおっちょこちょいの人ではなかったはず。
 どうしちゃったんだろう。
 もしかして、さっき飲んだ珈琲のせいでは?

「しっかりと前を見てくださいっ!」
「わ、分かっているとも。エミーと呼べて、嬉しかったんだ。つい我を忘れてしまったよ」
「だから、ちゃんと前を見てって!」
「うん。エミーはその喋り方の方がいい。堅苦しい言い方をしないで欲しい」
「分かったわ、ロビー。だから、こっちを見ないで前!」
「分かっているとも」

 呼び方が以前と同じに戻っただけのこと。
 親しそうに喋るのも兄と妹のように育ったんだから、何もおかしなことはない。
 ロビーが妙に浮かれているように見えるのは暫く、距離を置いていたから変な錯覚を起こしているだけだ。

 あたしの顔が熱が出たかのように熱く感じるのもロビーの頬が紅潮しているように見えるのも夕焼けのせい。
 きっと、気のせいなのだ。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

処理中です...