24 / 56
第24話 エミーにはまだ、熱いから危ないよ
しおりを挟む
ロビーはあたしの顔を見て硬直してるけど、あたしまでそうなる訳にはいかない。
「失礼しました。ロベルト第二王子殿下」
型通りにカーテシーを決めて挨拶をしてから、三歩下がった。
あまりにも距離が近すぎる。
あれでは前のあたしと変わらない距離感になってしまう。
『それはダメよ』とあたしの中から警告を促す声が、上がった気がした。
単なる気のせいだとは思うけど。
「あ、ああ」
心無し、ロビーの声は震えてるように聞こえた。
きれいにカーテシーを決めたのが、そんなにショックなのかしら?
あたしだって、侯爵家の娘。
おまけにマリーという教科書のようなお手本が、姉として家にいたのだ。
彼女が優しくて、親切な姉だったのは事実だった。
そこに愛情が含まれてるのかは分かんない。
ただ、分かってることはマリーが一番、大好きなのは自分であるってことだけだ。
あたしに優しくしてくれたのは単なるマスコットやペットみたいなものだったんだと思う。
そして、ロビーは動かない。
微動だにしないのであたしも動くに動けない。
見つめ合うなんてロビーに迷惑だろうし、ありえないので逃げるように視線を泳がせるしかなかった。
嘘でしょ。
サーラはどうして、目をキラキラと輝かせてるの!?
ユリアンは倒れそうなくらいに青い顔になってる。
助けを求めようとセバスさんを見たら、『全部、分かってますぞ』と言わんばかりの目をしてるじゃない。
あれはいわゆる生温かく見守る視線!
「これは、これは。このようなところで立ち話をなさってはいけませんな。ここは吾輩にお任せくださいませ」
セバスさんが白い口髭をいじりながら、ニンマリという表現がピッタリな笑顔を浮かべてる。
これは逆らえない……。
セバスさんの指示の元、庭先にあっという間にお茶会の場がセッティングされた。
ガーデンテーブルと四脚のガーデンチェアーは金属製でおじい様の趣味の良さをうかがわせるものだ。
テーブルの上には紅茶と最近、流通し始めた珈琲とお茶請けのクッキーまで用意されてる。
あたしとサーラにはカットされた柑橘類が入った紅茶。
ロビーとユリアンには珈琲。
立方体の形をした白砂糖が入った小皿はあたしとサーラの前にだけある。
珈琲は苦い飲み物だと聞いたけど、二人は大丈夫かしら?
ちょっと心配になって、紅茶のカップを口につける振りをしつつ、様子を見たら予想通りだった。
あれは具合が悪い時のお薬を飲んだ人の顔と同じだ。
珈琲はどうやら、美味しくない飲み物みたい。
セバスさんがあたしにだけ、分かるように親指を立て、薄らと笑ってる。
『いかがですかな』とでも言いたげな顔をしてるところを見るとどうやら、砂糖なしの珈琲は男性陣への嫌がらせらしい。
さすがにかわいそうな気がした。
あたしとしてもここに長居をしてはいけないと思うのだ。
さっさと本題を切り出して、終わらせてあげよう。
「エヴァはここで看ていただけるとか?」
「ああ。見過ごす訳にはいかないからね。お祖父様も大層、お怒りだったよ」
ロビーは珈琲の苦さに顔をしかめながら、何とか飲もうと頑張ってるけど、熱くて飲めないらしい。
そういえば、ロビーは重度の猫舌だ。
そのくせ、「エミーにはまだ、熱いから危ないよ」とあたしのスープをふうふうと冷ましてくれる人だった。
その優しさを好意や愛情とあたしが勘違いするのに十分過ぎるほどに。
これくらい離れてる距離があたしには丁度、いいんだと思う。
「それでおじい様がいらっしゃらないんですね」
「そうなんだ。普段、怒らないお祖父様が『剣と鎧を用意せよ』と言い出して、王宮に向かおうとしたから、止めるのが大変だったよ。さすがに武装は思い止まってくれたけどね」
「そうだったんですね」
ユリアンとサーラはあたしとロビーのやり取りを固唾を呑んで見守るだけ。
合の手を入れるとか、何かしてくれた方がわたしは助かるのだけど。
まぁ、最初から決めていたことだし、引き伸ばす必要もないよね?
「それじゃ、安心したのであたしはここを出ようと思います」
「は? あちっ」
「え?」
「お?」
あからさまに慌てて、ロビーはつい熱い珈琲を口に含んだのか、目を白黒させてる。
ユリアンとサーラまで急に反応を見せるのはどうしてなの?
「ど、ど、どうしてなんだ、エミ……なぜ、ここを出るんだい? エヴァもいるのだし、ここにいていいじゃないか」
ロビーのこの慌てっぷりは何なんだろう。
考えるのが苦手なあたしにしてはちゃんと考えて、導き出した結論だった。
あたしがここにいたら、そのことが耳に入ってしまうに違いない。
別行動を取るのが一番だし、原因を突き止めない限りはあたし達が家に帰るなんて出来ないのだ。
「学園に行って、まずはビカン先生に相談したいと思うんです。それから、どうするかは決めようと思ってます」
あたしはまず、ビカン先生に話を聞いてもらうべきと考えた。
先生は頼りになる大人だし、毒のことも先生のお陰で分かったからだ。
「ビカン先生か。分かった。僕が君を学園まで送るよ。問題はないね?」
「あ? え、ええ。問題ないです?」
どうやら復活したらしいロビーが急に真顔でそんなことを言いだすから、ビックリしちゃった。
カブリオレだとロビーと二人きりだから、問題が大ありな気がするんだけど。
とても断れる空気ではなかった。
「失礼しました。ロベルト第二王子殿下」
型通りにカーテシーを決めて挨拶をしてから、三歩下がった。
あまりにも距離が近すぎる。
あれでは前のあたしと変わらない距離感になってしまう。
『それはダメよ』とあたしの中から警告を促す声が、上がった気がした。
単なる気のせいだとは思うけど。
「あ、ああ」
心無し、ロビーの声は震えてるように聞こえた。
きれいにカーテシーを決めたのが、そんなにショックなのかしら?
あたしだって、侯爵家の娘。
おまけにマリーという教科書のようなお手本が、姉として家にいたのだ。
彼女が優しくて、親切な姉だったのは事実だった。
そこに愛情が含まれてるのかは分かんない。
ただ、分かってることはマリーが一番、大好きなのは自分であるってことだけだ。
あたしに優しくしてくれたのは単なるマスコットやペットみたいなものだったんだと思う。
そして、ロビーは動かない。
微動だにしないのであたしも動くに動けない。
見つめ合うなんてロビーに迷惑だろうし、ありえないので逃げるように視線を泳がせるしかなかった。
嘘でしょ。
サーラはどうして、目をキラキラと輝かせてるの!?
ユリアンは倒れそうなくらいに青い顔になってる。
助けを求めようとセバスさんを見たら、『全部、分かってますぞ』と言わんばかりの目をしてるじゃない。
あれはいわゆる生温かく見守る視線!
「これは、これは。このようなところで立ち話をなさってはいけませんな。ここは吾輩にお任せくださいませ」
セバスさんが白い口髭をいじりながら、ニンマリという表現がピッタリな笑顔を浮かべてる。
これは逆らえない……。
セバスさんの指示の元、庭先にあっという間にお茶会の場がセッティングされた。
ガーデンテーブルと四脚のガーデンチェアーは金属製でおじい様の趣味の良さをうかがわせるものだ。
テーブルの上には紅茶と最近、流通し始めた珈琲とお茶請けのクッキーまで用意されてる。
あたしとサーラにはカットされた柑橘類が入った紅茶。
ロビーとユリアンには珈琲。
立方体の形をした白砂糖が入った小皿はあたしとサーラの前にだけある。
珈琲は苦い飲み物だと聞いたけど、二人は大丈夫かしら?
ちょっと心配になって、紅茶のカップを口につける振りをしつつ、様子を見たら予想通りだった。
あれは具合が悪い時のお薬を飲んだ人の顔と同じだ。
珈琲はどうやら、美味しくない飲み物みたい。
セバスさんがあたしにだけ、分かるように親指を立て、薄らと笑ってる。
『いかがですかな』とでも言いたげな顔をしてるところを見るとどうやら、砂糖なしの珈琲は男性陣への嫌がらせらしい。
さすがにかわいそうな気がした。
あたしとしてもここに長居をしてはいけないと思うのだ。
さっさと本題を切り出して、終わらせてあげよう。
「エヴァはここで看ていただけるとか?」
「ああ。見過ごす訳にはいかないからね。お祖父様も大層、お怒りだったよ」
ロビーは珈琲の苦さに顔をしかめながら、何とか飲もうと頑張ってるけど、熱くて飲めないらしい。
そういえば、ロビーは重度の猫舌だ。
そのくせ、「エミーにはまだ、熱いから危ないよ」とあたしのスープをふうふうと冷ましてくれる人だった。
その優しさを好意や愛情とあたしが勘違いするのに十分過ぎるほどに。
これくらい離れてる距離があたしには丁度、いいんだと思う。
「それでおじい様がいらっしゃらないんですね」
「そうなんだ。普段、怒らないお祖父様が『剣と鎧を用意せよ』と言い出して、王宮に向かおうとしたから、止めるのが大変だったよ。さすがに武装は思い止まってくれたけどね」
「そうだったんですね」
ユリアンとサーラはあたしとロビーのやり取りを固唾を呑んで見守るだけ。
合の手を入れるとか、何かしてくれた方がわたしは助かるのだけど。
まぁ、最初から決めていたことだし、引き伸ばす必要もないよね?
「それじゃ、安心したのであたしはここを出ようと思います」
「は? あちっ」
「え?」
「お?」
あからさまに慌てて、ロビーはつい熱い珈琲を口に含んだのか、目を白黒させてる。
ユリアンとサーラまで急に反応を見せるのはどうしてなの?
「ど、ど、どうしてなんだ、エミ……なぜ、ここを出るんだい? エヴァもいるのだし、ここにいていいじゃないか」
ロビーのこの慌てっぷりは何なんだろう。
考えるのが苦手なあたしにしてはちゃんと考えて、導き出した結論だった。
あたしがここにいたら、そのことが耳に入ってしまうに違いない。
別行動を取るのが一番だし、原因を突き止めない限りはあたし達が家に帰るなんて出来ないのだ。
「学園に行って、まずはビカン先生に相談したいと思うんです。それから、どうするかは決めようと思ってます」
あたしはまず、ビカン先生に話を聞いてもらうべきと考えた。
先生は頼りになる大人だし、毒のことも先生のお陰で分かったからだ。
「ビカン先生か。分かった。僕が君を学園まで送るよ。問題はないね?」
「あ? え、ええ。問題ないです?」
どうやら復活したらしいロビーが急に真顔でそんなことを言いだすから、ビックリしちゃった。
カブリオレだとロビーと二人きりだから、問題が大ありな気がするんだけど。
とても断れる空気ではなかった。
142
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。
ふまさ
恋愛
小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。
ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。
「あれ? きみ、誰?」
第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。
離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる