異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん

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第一部 魔界専属料理人

第21話 揺れる交渉と新たな盟友

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 岩だらけの荒野を進む陽人たちの前に、武装した魔族の兵士が立ちはだかったのは、拠点の門を目前にしたときだった。威嚇するように槍を突き出し、鋭い眼光で一行を睨みつける。

「何者だ。これ以上進めば容赦はしないぞ」

 部隊長の魔族が、一歩前へ出る。陽人たちが同伴しているとはいえ、状況次第ではすぐに戦闘に発展しかねない。

「我々は魔王軍の使者だ。ここにいる者たちと話し合いの場を持ちたい。そのために来た。……無論、武力での解決を望まないのならばだが」

 毅然とした口調に、前衛の兵士は一瞬言葉に詰まる。荒野の拠点にこもっているとはいえ、相手は正規の魔王軍。安易に戦いを挑めば勝ち目は薄いと分かっているのだろう。

「お前たちが来たところで、話すことなどない。今さら魔王の犬が、何を企んでいる?」

 嘲笑混じりの返答に、部隊長は冷ややかに睨み返す。陽人は胸の奥で冷たい汗をかきながらも、何とか穏便に済ませたくて口を挟んだ。

「その……戦う前に、話くらいは聞いてもらえませんか? 少しだけでいいんです。俺は料理人で、皆さんに食事を振る舞いたいだけなんです」

「はあ? 何を馬鹿な……」

 兵士たちは呆れた顔で見交わす。だが、その中のひとりが鼻をひくつかせ、荷車に積まれた調理道具を見やって首をかしげた。

「料理……? まさか、こんなところで飯を作るつもりか?」

 陽人はこくりと頷く。兵士たちの態度は険しいが、完全に耳を塞いでいるわけではなさそうだ。

「実は、魔王軍が侵略を止めたのには、俺の料理が関係してるんです。嘘だと思うなら……一口だけでいいから、食べてみてくれませんか?」

 横で控えるエリザが小声で「無茶を言うわね」と呆れている。しかし、それでもこれが陽人のスタイルだ。相手が魔族の武装集団であろうと、まずは“腹を満たす”ことから始めたい。

「……貴様、本当に正気か? 俺たちがその荷車を火炎魔法で丸焼きにしたらどうなるか、考えないのか」

 兵士のひとりが脅しのような口調で言うと、陽人は薄く微笑んだ。

「もちろん怖いですよ。でも、そんなことをしても何も生まれないじゃないですか。たとえば、うまい料理を一口食べたら、少しは気分が変わるかもしれない。……そう思いませんか?」

 兵士たちは言葉を失ったように目を見開く。まさかこの土壇場で、笑顔で料理を勧められるとは思っていなかったのだろう。部隊長が「こいつは口が達者だな」と小さく苦笑した。

「くっ……。いいだろう。少し待っていろ。上に報告してくる」

 そう言い残し、先頭の兵士が拠点の奥へと駆け込んでいく。残った兵士たちも警戒を解かずに槍を構えたままだが、今のところ攻撃の気配はない。

 陽人は少しだけ息をつき、後ろを振り返った。エリザや騎士団の青年、そして魔王軍の兵士たちが静かに待機している。

「ここまで来たら、やるしかないよね……」

「やれやれ、あなたってやっぱり大胆ね。まあ、監視役としては、一応その行動を見届けてあげるわ」

 エリザがわずかに肩をすくめる。周囲の魔族たちも、このままうまく交渉が進めば最高だが、失敗すれば激突は必至だと分かっていた。

 ---

 しばらくして、先ほどの兵士が戻ってくる。

「……幹部が会ってやると言っている。ただし、そちらの部隊は門の外で待機だ。中へ入れるのは数名まで。それでいいな?」

「ありがとうございます」

 陽人が深々と頭を下げる。その後ろでは、部隊長が少なからず戸惑いを見せたが、ゼファーから「陽人の同行を認めよ」と言い渡されている以上、強く止めるわけにもいかない。

「いいか、陽人。本当に危なくなったらすぐに引き上げろ。お前がやられたら魔王様に顔向けできん……」

 部隊長が苦々しく呟く。騎士団の青年も不安そうに陽人の肩を叩く。

「気をつけて。……絶対に無理するなよ」

「うん、ありがとう」

 そして、結局陽人とエリザ、さらに騎士団の青年の三名だけが門をくぐり、拠点の中へと足を踏み入れることになった。何人かの魔族兵士も同行を申し出たが、拠点側が人数制限を強く要求したため、止むを得ない。

 門が軋む音を立てて開かれると、中には殺風景な石造りの空間が広がっていた。かつては要塞として使われていたのだろうか。広間には厳つい鎧をまとった魔族たちが控えており、その中心にはリーダーらしき男が腕を組んで立っている。

「……お前が、『料理人』とやらか?」

 低く響く声に、陽人は緊張感を押し殺して頷く。

「はい、橘 陽人といいます。魔王軍に協力して、料理を作っています」

「ふん、魔王の犬め。人間の分際で、魔族を取り込んでいるという噂は耳にしている。今さら何の用だ?」

 リーダーの口調は険悪そのもの。周囲の魔族たちも、剣や槍に手をかけていつでも襲いかかれる態勢を取っている。

 陽人は背筋を伸ばし、深呼吸して意を決した。

「戦う前に、俺の料理を食べてほしい。それだけがお願いです」

「……またその台詞か。正気か、お前」

 リーダーが呆れたように鼻を鳴らす。すかさずエリザが一歩前へ出て、冷たい声で口を開いた。

「正気かどうかは知りませんが、彼は常にそうやって交渉を進めてきました。魔王領に赴いても、我々人間に対しても……。結果として、侵略は止まっています。」

「ふんっ、好きにしろ」

 次回、拠点となってる要塞内で料理をふるまう陽人。果たして、その結果は…。
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