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第一部 魔界専属料理人
第20話 燃え上がる火種と食卓の可能性
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北方に現れた武装集団の報告がもたらされてから数日後。魔王軍は鎮圧部隊を派遣し、城内では再び戦時体制の空気が漂い始めた。
「人間との馴れ合いに現(うつつ)を抜かしている間に、好き勝手されてたまるか……」
魔王ゼファーの執務室で行われる作戦会議は、以前の「料理談義」とは打って変わって殺気を帯びたものに変貌している。四天王の一人が苛立たしげに地図を広げ、部隊の配置を検討していた。
「北方の拠点に残っていた従来派の兵士が、外部の過激組織と手を結んだ可能性があります。規模はそれほど大きくないが、放置すれば勢力を伸ばしかねません」
戦略担当の魔族が低い声で報告すると、ゼファーは苦々しい表情を浮かべた。
「分かっている。……仕方あるまい、奴らに警告を発するとともに、必要なら力で制するしかない。俺が直接出向くべきか……」
そう呟くゼファーの横顔には、人間との和平交渉を断念しかねない危うさも感じられる。魔王としては融和路線を望みながらも、これ以上の混乱を看過するわけにはいかないからだ。
「……ちょっと待ってください」
静寂の中、一本の声が割り込む。集まった幹部たちが振り返ると、そこには城の執事を伴った陽人の姿があった。普段は会議に立ち入らない彼が、意を決した表情で頭を下げる。
「陽人、貴様……なぜここに?」
ゼファーが訝しむように問うと、陽人は一瞬たじろぎながらも前に進み出る。
「すみません、勝手だとは分かってます。でも、このまま戦いになるのは嫌なんです。どうにか話し合いで解決できないか、少しだけ時間をもらえませんか?」
「馬鹿を言うな。相手は既に武装している。力づくで反抗しようという連中だぞ?」
四天王の一人が厳しい口調で反論する。だが、陽人は真剣な眼差しを崩さない。
「それでも、最初から武力で押さえつければ、溝は深まるばかりです。……料理でどうにかできるか分かりませんが、俺にも何か役立てる手段があるはずだって信じたいんです」
魔王ゼファーは深く溜息をついた。ここで陽人の願いを切り捨てれば、これまで築き上げてきた平和への道筋も崩れ去るかもしれない。かといって、従来派や過激組織の動きを甘く見て大惨事になれば、取り返しがつかない。
「……分かった。だが、あくまで短期間だ。こちらが攻撃を受ければ即座に反撃に移るし、貴様がやられたら元も子もない」
「ありがとうございます。俺も無茶はしません」
陽人がほっと息をつくと、ゼファーは参謀役の魔族に目配せをして指示を出す。
「陽人の同行を認めてやれ。ただし、兵を随行させろ。もし相手が交渉に応じず危険となれば、即時に撤退させろよ」
「はっ、承知しました」
幹部たちの視線には、どこか「なぜそこまで人間の料理人に譲歩するのか」という戸惑いが浮かんでいるが、ゼファーは眼光でそれを制する。魔王の中には強い葛藤が渦巻いていた――彼自身がかつて望んだのは圧倒的な征服だったが、いまは“料理”による穏やかな平和に心惹かれている。
---
数日後、陽人は騎士団の青年と共に、北方の荒涼とした地へ向かった。十数名の魔族兵士に守られながら、街道沿いを進んでいく。道中、エリザの姿もあったが、彼女は「監視が必要」として半ば強引に同行を申し出たのだ。
「……本当に料理で説得できると思っているのか?」
行軍の最中、エリザが隣を歩く陽人に問いかける。冷ややかな口調だが、どこか心配も混じっているように聞こえる。
「分かりません。でも、戦う前に腹を満たせば、少しは気持ちが変わるかもしれないじゃないですか」
「単純ですね……。けれど、あなたの料理に心を動かされた魔族や人間がいるのも事実。わたくし自身、認めたくはありませんが、美味しいと感じました」
エリザが遠い目をする。その瞳には、彼女自身も解き明かせない感情が渦巻いているようだった。
「なら、その可能性を試してみる価値はあると思うんですよ。……一緒に来てくれてありがとうございます」
「勘違いしないで。わたくしは監視役であって、あなたを助けるつもりはありません」
そう言い捨てるエリザだが、表情はいつものように硬くはない。陽人は心の中で微笑み、重たい旅路を続ける。
---
数日の行程を経て、ようやく目的地へと近づいた一行。そこは荒涼とした岩地が広がり、点在する木々も枯れかけている。遠巻きに見える建物は要塞のように囲われており、従来派と見られる魔族兵士が警戒態勢を敷いているのが分かった。
「あれが……武装集団の拠点、か」
騎士団の青年がごくりと唾を飲む。魔王軍の兵士たちも、緊張の色を隠せない。下手をすれば即座に攻撃されるかもしれないのだ。
「……まずは話し合いの場を求める。攻撃してこなければ、こちらも手を出さない。いいな?」
部隊長らしき魔族が低く命じる。陽人は荷車に積んできた調理道具を確認しながら、胸の高鳴りを抑えようとしていた。
(ここで戦いを避けられれば、何とか料理を振る舞うチャンスが得られるかも。けど、相手が聞く耳を持ってくれるのか……)
そんな不安を抱える陽人のもとへ、エリザが近づいてくる。
「どうせあなた、拠点に乗り込んで料理を作るつもりなのでは? もし危険が及べば、わたくしも容赦なく引き上げますからね」
「了解です。無理はさせません。……でも、ほんの一瞬でもいいので、彼らに料理を食べてもらえる時間が欲しいんです」
エリザは小さく息を吐き、わずかに頬を緩ませた。
「あなたって、本当に単純……。でも、そういうところが憎めないわ」
――こうして、一触即発の拠点に足を踏み入れる陽人たち。果たして彼らは戦火を回避できるのか、それとも更なる衝突が待っているのか。料理という武器を掲げた陽人の挑戦は、いよいよ危険な領域へと突き進んでいく。
次回、従来派と新たな過激組織が手を組んだ拠点で、陽人の“料理外交”が試される。荒野の中で繰り広げられるギリギリの交渉と、エリザの揺れる思いが交錯し、物語は一段と熱を帯びていく……。
「人間との馴れ合いに現(うつつ)を抜かしている間に、好き勝手されてたまるか……」
魔王ゼファーの執務室で行われる作戦会議は、以前の「料理談義」とは打って変わって殺気を帯びたものに変貌している。四天王の一人が苛立たしげに地図を広げ、部隊の配置を検討していた。
「北方の拠点に残っていた従来派の兵士が、外部の過激組織と手を結んだ可能性があります。規模はそれほど大きくないが、放置すれば勢力を伸ばしかねません」
戦略担当の魔族が低い声で報告すると、ゼファーは苦々しい表情を浮かべた。
「分かっている。……仕方あるまい、奴らに警告を発するとともに、必要なら力で制するしかない。俺が直接出向くべきか……」
そう呟くゼファーの横顔には、人間との和平交渉を断念しかねない危うさも感じられる。魔王としては融和路線を望みながらも、これ以上の混乱を看過するわけにはいかないからだ。
「……ちょっと待ってください」
静寂の中、一本の声が割り込む。集まった幹部たちが振り返ると、そこには城の執事を伴った陽人の姿があった。普段は会議に立ち入らない彼が、意を決した表情で頭を下げる。
「陽人、貴様……なぜここに?」
ゼファーが訝しむように問うと、陽人は一瞬たじろぎながらも前に進み出る。
「すみません、勝手だとは分かってます。でも、このまま戦いになるのは嫌なんです。どうにか話し合いで解決できないか、少しだけ時間をもらえませんか?」
「馬鹿を言うな。相手は既に武装している。力づくで反抗しようという連中だぞ?」
四天王の一人が厳しい口調で反論する。だが、陽人は真剣な眼差しを崩さない。
「それでも、最初から武力で押さえつければ、溝は深まるばかりです。……料理でどうにかできるか分かりませんが、俺にも何か役立てる手段があるはずだって信じたいんです」
魔王ゼファーは深く溜息をついた。ここで陽人の願いを切り捨てれば、これまで築き上げてきた平和への道筋も崩れ去るかもしれない。かといって、従来派や過激組織の動きを甘く見て大惨事になれば、取り返しがつかない。
「……分かった。だが、あくまで短期間だ。こちらが攻撃を受ければ即座に反撃に移るし、貴様がやられたら元も子もない」
「ありがとうございます。俺も無茶はしません」
陽人がほっと息をつくと、ゼファーは参謀役の魔族に目配せをして指示を出す。
「陽人の同行を認めてやれ。ただし、兵を随行させろ。もし相手が交渉に応じず危険となれば、即時に撤退させろよ」
「はっ、承知しました」
幹部たちの視線には、どこか「なぜそこまで人間の料理人に譲歩するのか」という戸惑いが浮かんでいるが、ゼファーは眼光でそれを制する。魔王の中には強い葛藤が渦巻いていた――彼自身がかつて望んだのは圧倒的な征服だったが、いまは“料理”による穏やかな平和に心惹かれている。
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数日後、陽人は騎士団の青年と共に、北方の荒涼とした地へ向かった。十数名の魔族兵士に守られながら、街道沿いを進んでいく。道中、エリザの姿もあったが、彼女は「監視が必要」として半ば強引に同行を申し出たのだ。
「……本当に料理で説得できると思っているのか?」
行軍の最中、エリザが隣を歩く陽人に問いかける。冷ややかな口調だが、どこか心配も混じっているように聞こえる。
「分かりません。でも、戦う前に腹を満たせば、少しは気持ちが変わるかもしれないじゃないですか」
「単純ですね……。けれど、あなたの料理に心を動かされた魔族や人間がいるのも事実。わたくし自身、認めたくはありませんが、美味しいと感じました」
エリザが遠い目をする。その瞳には、彼女自身も解き明かせない感情が渦巻いているようだった。
「なら、その可能性を試してみる価値はあると思うんですよ。……一緒に来てくれてありがとうございます」
「勘違いしないで。わたくしは監視役であって、あなたを助けるつもりはありません」
そう言い捨てるエリザだが、表情はいつものように硬くはない。陽人は心の中で微笑み、重たい旅路を続ける。
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数日の行程を経て、ようやく目的地へと近づいた一行。そこは荒涼とした岩地が広がり、点在する木々も枯れかけている。遠巻きに見える建物は要塞のように囲われており、従来派と見られる魔族兵士が警戒態勢を敷いているのが分かった。
「あれが……武装集団の拠点、か」
騎士団の青年がごくりと唾を飲む。魔王軍の兵士たちも、緊張の色を隠せない。下手をすれば即座に攻撃されるかもしれないのだ。
「……まずは話し合いの場を求める。攻撃してこなければ、こちらも手を出さない。いいな?」
部隊長らしき魔族が低く命じる。陽人は荷車に積んできた調理道具を確認しながら、胸の高鳴りを抑えようとしていた。
(ここで戦いを避けられれば、何とか料理を振る舞うチャンスが得られるかも。けど、相手が聞く耳を持ってくれるのか……)
そんな不安を抱える陽人のもとへ、エリザが近づいてくる。
「どうせあなた、拠点に乗り込んで料理を作るつもりなのでは? もし危険が及べば、わたくしも容赦なく引き上げますからね」
「了解です。無理はさせません。……でも、ほんの一瞬でもいいので、彼らに料理を食べてもらえる時間が欲しいんです」
エリザは小さく息を吐き、わずかに頬を緩ませた。
「あなたって、本当に単純……。でも、そういうところが憎めないわ」
――こうして、一触即発の拠点に足を踏み入れる陽人たち。果たして彼らは戦火を回避できるのか、それとも更なる衝突が待っているのか。料理という武器を掲げた陽人の挑戦は、いよいよ危険な領域へと突き進んでいく。
次回、従来派と新たな過激組織が手を組んだ拠点で、陽人の“料理外交”が試される。荒野の中で繰り広げられるギリギリの交渉と、エリザの揺れる思いが交錯し、物語は一段と熱を帯びていく……。
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