銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第19話:ノヴァルナ包囲網

#18

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 皇国のBSIユニットよりふた回りは大きな、モルンゴールの『マガツ』だが、ノアとランの『ミツルギCC』の同時パンチを、腹部にまともに喰らって大きく身を屈ませる。ゴワン!…と鼓膜を破りそうな轟音に、バジラードは驚きの声を上げた。

「ぬああっ!!」

 叫んだ事で動きが止まったところに、ノアのワンツーが再び腹部に叩き込まれ、衝撃を伴う途方もない大音響がバジラードを怯ませる。

「あうっ! おおあッ!!」

 真空の宇宙空間とは違い、大気のある場所では音波が伝わる。そして重力下の地上では、BSIユニットやBSHOは、反転重力子をホバリングに集中使用しているため、宇宙空間での運用時のように機体を重力子で包んではおらず、機体に受ける衝撃も大きくなっている。
 ノアとランはこの地上戦での特性を利用するため、斬撃ではなくコクピットのある腹部を殴りつけた。コンピューターのダメージ判定ではなく、大音響と激震で相手に精神的ダメージを与えるという、邪道ともとれる戦い方だ。

 そしてその邪道な点が、ノアとランの狙いであった。ザリュードとバジラードの兄弟が、実戦を経験していない事を見抜いたノアとランは、相手の命を奪い自分が生き残るための、本当に手段を選ばない戦い方をした事が無いに違いないと考え、あえて拳による打撃を選択したのである。

 ノアの連撃でバジラードが動きを鈍らせたところに、素早くランの『ミツルギCC』が、クァンタムブレードを起動させて背後に回る。バックパックから機体を刺し貫く判定で、とどめを刺すためだ。
 ただバジラードは一瞬早く自分を取り戻し、『マガツ』の太い右腕を伸ばして半回転、ランの機体を弾き飛ばす。さらにザリュードの『マガツ』も、体勢を立て直して、稼働できる右腕一本でノアに掴みかかって来た。

「この女どもぉおおお!」

 怒鳴るザリュード。だがノアもランも、切迫した状況で彼等の動きが、単調になるのは把握済みだ。罵声など聞き流して、ランに呼び掛けるノア。

「ラン!」

「はい!」

 打てば響く返答のラン。ノアは機体を沈めて体勢を低くし、一直線に突っ込んで来たザリュードの『マガツ』に、足払いをかけた。同時にランは、自分を弾き飛ばしたバジラード機に、タックルを喰らわせる。相手の力を受け流し、逆に利用してバランスを崩す事には、BSHOとBSIユニットの差はさほど関係ない。
 重心を失ったザリュードとバジラードの『マガツ』は激突。無様に演習場の地面へ転がる。
 
「くそぉおおおおっ!!」

 罵り声を発しながら、バジラードは『マガツ』の重力子ホバリング出力を最大にし、転倒した機体を強引に浮き上がらせ、至近距離からライフルの連射を、ノアとランに浴びせようとした。

 しかし即座に反応したランの『ミツルギCC』が、それを許さない。

 ライフルの銃口を左手で掴んで空に向け、強力な回し蹴りを叩き込む。狙いはやはりコクピットのある腹部だ。耳をつんざく轟音と脳をかき回す衝撃に、バジラードは「ぎゃあっ!」と叫んだ。思わずトリガーを引いたライフルが、空に向かって放たれる。ランの『ミツルギCC』も蹴りの出力が高過ぎ、右脚脛部の装甲版が歪んで、接合部から外れかけた。

 一方のザリュードの『マガツ』は、左腕が喪失判定のために動かず、まだ起き上がれずにいる。それを抱え起こしたのは、ノアの『ミツルギCC』である。

 だがそれは、ザリュードを救援するためではない。

 ザリュードの『マガツ』の右腕を掴んだノアは、ランに号令する。

「ラン、行くわよ!」

「了解っ!」

 次の瞬間、ノアの『ミツルギCC』はザリュードの『マガツ』の、ランの『ミツルギCC』はバジラードの『マガツ』の右腕を掴み上げると、バランスを崩したままの相手をぶん回して放り出した。二機の『マガツ』は正面衝突し、互いに仰向けに倒れた。ここまで激しく衝撃や轟音に晒された事が無い、ザリュードとバジラードはすでにグロッキー状態だ。そもそも人型をしているとはいえ、BSIユニットやBSHOは、殴り合いを繰り返すような格闘戦には、不向きな兵器なのだ。

 動きを止めたザリュードとバジラードの機体に、ノアとランの『ミツルギCC』は抜刀して接近し、相手の腹部にその刃を押し当てた。これを見てベファルが叫ぶように告げる。

「模擬戦はそこまで!! 皇国側の勝ちで決まりじゃ!!」

 その宣告に従って判定用のプローブが、ブザー音を甲高く鳴らし、「勝者。ノアとラン!!」と大きくアナウンスした。

「そんな…馬鹿な…」

 そう呟いたものの、耳鳴りが酷くてダウンするザリュード。それはバジラードも同様だった。対照的にノアとランは、機体を向かい合わせにして膝をつかせ、コクピットのハッチを開けると明るい表情で頷き合う。
 そんなノアがさらに、親指を立てて笑顔を浮かべるのを見ると、ランは僅かに苦笑いとなった。実はこの戦いを格闘戦に持ち込もうと提案してきたのが、ノアだったからである。



▶#19につづく
 
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