銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第19話:ノヴァルナ包囲網

#19

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 思い返せば、ノアが初めてノヴァルナと出逢った時、互いのBSHOで戦いとなり、ノアは乗機の『サイウンCN』で、BSI戦の“禁じ手”とされている頭突きを、ノヴァルナの『センクウNX』に放ち、双方ともメインセンサー類が集中している頭部を、壊してしまったという。ここぞという時のノア姫は、力技に出るタイプなのかも知れない。



 そして数十分後、それぞれの『マガツ』から引きずり出されたザリュードとバジラードは、ランに対して口にした“宇宙ギツネ”の蔑称四回分、ジョゼ=ナ・カーガに頭を引っ叩かれながら、ガルバックやノアとランに謝罪した。
 当然ながらガルバックに、“永久敗北者”の呼称は与えられず、ノア達には浮遊書庫への即時入場が許可された。

 一方でノア達は模擬戦に敗北した兄弟に対して、等価交換で“敗北者”の呼称を与える事も可能だったが、自分達はモルンゴール人ではないからという理由で、取り下げる。

「いやぁ。それにしてもあんたら、強いねぇ!」

 ジュゼのおまけで自分も二発ずつ、ザリュードとバジラードの頭を引っ叩いたベファルは、ノアとランを振り向いて笑顔を見せた。冗談交じりに続ける。

「次はあたしが相手だよ!…と、三十年ほど前なら、言ってたんだけどさぁ」

 そう告げたベファルは少しうなだれながら、ため息交じりにさらに言う。

「帝国が小競り合い以上の戦いを、しなくなって三百年…。帝国中央じゃあウチの孫達のように、威張り散らすだけで、実戦を知らない一等民ばかりが増えてねぇ。あんたらに負けたのは、いい薬だよ」

 ベファルの言葉は旧モルンゴール帝国の変質の実情を、端的に言い表していた。

 銀河皇国との戦争に敗れ、併呑されたモルンゴール帝国は、軍備を大幅に縮小され、大規模な戦闘行動をとる事が出来なくなった。
 戦闘種族の矜持たる“誇りある戦い”の精神は失われ、戦士階級である一等民などは、先祖伝来の様々な権利を笠に着た、ただの特権階級と化している。
 特に何より皮肉なのは、旧来の“戦いに誇りをかける者”や、“戦いを生業なりわいとする者”は旧帝国領を離れて、戦国の世となっている銀河皇国へ渡った事だ。
 例えば“アネス・カンヴァーの戦い”で壮絶な討ち死にを遂げた、ネオターク・ジュロス=マガランや、先日もノヴァルナを苦戦させた、モルンゴール星人の傭兵集団“サイガン衆”などは、記憶に新しいところだろう。
 
 ベファルの嘆きに、『ホロウシュ』のキュエル=ヒーラーが、軽い口調で冗談交じりの言葉で応じる。

「今じゃぁどっちが戦闘民族か、分からない状況ですからねぇ」

 これに対してベファルは二度三度と、大きく首を振って吐き捨てるように言う。

「あんたらと一緒にするんじゃないよ。あたしらはあんたらみたいに、自分達の権益目当ての地方領主が、互いに殺し合うような世界を、作り出したりはしないさ。腐ってもね」

 なるほど、本来のモルンゴール星人の思想からすると、彼等にとっての戦いとは神聖なものであり、他の恒星間文明と初めて接触した時に戦闘を仕掛けるのも、相手の気概を知るための、儀式的な意味合いも含まれていた。
 そして戦いの結果、敗北を認め、モルンゴール帝国への併呑された場合も、ひたすら従属させられるのではなく、帝国の法と慣習に従う限りは、自治を許されていたのだ。

「耳の痛いお話ですね」

 ノアは苦笑いを浮かべて、ベファルに向き直る。ただ、そんな戦国の世を終わらせようというのが、自分の夫のノヴァルナであるのも確かな話であった。
 そのようなノアの、強い気持ちを込めた瞳を見たベファルは、改めて興味深そうな眼を向けて言う。

「あんた…パイロットの腕もそうだけど、それ以上に、ただ者じゃないね?」

「さぁ、どうでしょう?」

 そうとぼけてみせるノア。ベファルは笑顔を大きくして告げた。

「ますます気に入ったよ、あんた。あたしゃここの浮遊書庫にゃ、ちょいと詳しいんだ。お詫びともてなしに、あんたらの案内役になろうじゃないか」

 すると、これを聞いてザリュードとバジラードが、困惑した表情で話し掛ける。

「だから婆ちゃん、病院は?」

「そうだよ。もう時間が…」

 だがベファルは取り合わない。

「騒がなくっても、病院は逃げやしないよ!」



同時刻、セークモートン星系―――

 宇宙空間で仁王立ちになった、ウォーダ軍のBSHO『レイメイFS』が、手にした大型十文字ポジトロンランスを、大きくひと振りした。穂先に纏わり付いた敵BSIユニットの潤滑液を、振り飛ばすためだ。
 ライトグリーンのセンサーアイを光らせるその先には、逃げて行くアザン・グラン軍のBSI部隊。そして『レイメイFS』の周囲には、撃破されたBSIユニットや、ASGULの破片が大量に浮かんでいる。

 ふう…と息をついたカーナル・サンザー=フォレスタは、三分の二に減った直属の“ハンター中隊”各機に告げた。

「すぐに次の敵が来る。全機、ぬかるなよ!」



▶#20につづく
 
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