512 / 526
第19話:ノヴァルナ包囲網
#20
しおりを挟むセークモートン星系に展開したウォーダ軍の、第6、第33、第35の三個宇宙艦隊は、アーザイル/アザン・グラン連合軍の第二次攻勢に対し、積極的防御で必死に支えていた。
アーザイル/アザン・グラン連合軍に残された時間はあと三時間。これを過ぎると本当の標的である、ヤヴァルト宙域内を撤退中のノヴァルナ艦隊を、捕捉するタイミングが失われてしまう。三時間以内にサンザーの軍を突破して、この星系を抜き、さらにサンザーの領地ウーサルマ星系を縦断。そこから最短距離でDFドライヴを繰り返す事で、“ミョルジ三人衆”の追撃を受けているノヴァルナの部隊を、挟撃できるのだ。逆に言えばサンザー達は、ここであと三時間持ち応えれば、戦略的には勝利を得られるという事である。
「敵BSI部隊、第二波。来ます」
前衛に出た第33艦隊のBSI部隊から通信が入る。BSIなどの機動兵器は、『レイメイFS』に乗るサンザーが全て直接指揮を執っており、第6と第33艦隊は、第一回戦で消耗した第33艦隊のスーゲット=アーチに任せていた。
「続いて敵艦隊接近。左舷方向258マイナス06と、右舷方向030マイナス04。左はアーザイル軍、右はアザン・グラン軍!」
第6艦隊旗艦の宇宙空母『バンガーヴェルダ』からも、敵艦隊発見の報告。『レイメイFS』の戦術状況ホログラムにも、旗艦からのデータリンクが更新されて、左右から分かれて接近する、敵部隊が表示された。
“第一波はBSI部隊のみ。第二波で艦隊との連携…ナギ殿の作戦か”
内心でそう呟いたサンザーは、口元を引き締める。敵のアーザイル軍を指揮しているのが、現当主ナギ・マーサス=アーザイルである事は分かっていた。おそらくナギは、ウォーダ軍BSI部隊総監であるサンザーが、機動兵器戦の指揮を執っている事を考慮し、第一波ではBSI部隊のみを投入。ウォーダ軍のBSI部隊を疲弊させておいて、宇宙艦隊とBSI部隊の総合戦を企図したのだろう。となると敵は、ノヴァルナ部隊との決戦に温存しておいた戦力も、参加させているはずだ。
前回の第一回戦では、敵連合軍はほとんどアーザイル軍だけが戦っており、アザン・グラン軍は消極的な遠距離砲撃を行うに留まっていた。しかしその結果、敵の作戦は失敗し、時間的余裕は無くなって来ている。このままでは目的を果たせないと判断したアザン・グラン軍は、ようやく重い腰を上げたという事だろう。
サンザーが考えているうちに、コクピットの全周囲モニターに、急速接近して来る敵の反応が、赤いマーカーで無数に映し出される。まずはこれを撃破しないことには、全ては始まらない。全てのBSI部隊に交戦開始を指示し、自らも『レイメイFS』の重力子スロットルを開いていく。
「行くぞ。敵編隊の一番密度の高い箇所を目指す!」
十文字ポジトロンランスを大きくひと振りして、一気に加速を始める『レイメイFS』。ここまでの死闘で九機まで減った、“ハンター中隊”の『シデン・カイXS』がまず従い、さらに周辺のBSIユニットやASGULの中隊が続く。
一方でスーゲット=アーチが指揮する第6と、第33艦隊は、右方向から接近して来るアザン・グラン軍へ舵を切った。サンザーはこれに、BSI部隊の半数以上を随伴させる。
そして左方向から接近するアーザイル軍には、ここまで戦力を温存させていた、ヴェルージ=ウォーダの第35艦隊が向かっている。ウォーダ側の数的不利は変わらないが、その差を少しでも埋めようという、サンザーの意図だった。
“我ながら、このような下策をとるとはな…”
操縦桿を握りながら、サンザーは苦笑いを浮かべる。自分が行った戦力配置のその裏にあるのは、それぞれの将兵の命懸けの覚悟…つまり精神論で、戦力差を縮める事を期待したものだからだ。
自らが『レイメイFS』で戦場にある時は、“鬼のサンザー”とも呼ばれて恐れられる、カーナル・サンザー=フォレスタであるが、普段の指揮官としての戦術思考は、極めて論理的であった。そんな男が将兵の忠誠心と、覚悟を戦力の底上げに期待しなけれなならないのは、それだけサンザーとしても、切迫した状況だという事を示している。
目前に迫るは、アザン・グラン軍のBSI部隊。指揮官機と思われる、先頭の親衛隊仕様『ハヤテGC』が、超電磁ライフルの銃口を向けて来た。ヘルメット内に鳴るロックオン警報。その時にはすでに、サンザーは操縦桿を一気に倒し、機体を九十度ダイブに入れている。
「ASGUL隊は援護射撃。BSI隊は近接戦闘でかかれ!」
サンザーは自分に撃ち掛けられる、複数の銃弾を悉く回避しながら命令を発し、敵編隊の只中に突入する。瞬時に間合いを詰めた敵の『ハヤテ』に鑓を一閃、十文字に形成された穂先が、機体を真っ二つにする。
「カーナル・サンザー=フォレスタここにあり! 我こそはと思いし者は挑んで参るがいい!!」
敵の爆発光を背後に、全周波数帯で名乗りを上げるサンザーであった。
▶#21につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる