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第5話:ミノネリラ征服
#17
しおりを挟むコーガ家打撃艦隊までの距離は約一億キロ。通常兵器では射程圏外にもほどがある。それでも『センクウ・カイFX』の照準センサーでは、何も表示されない位置に向け、ノヴァルナは瞼を閉じたまま『D‐ストライカー』を発射した。銃口から放たれるのは青白い光だけである。
それはまるで魔法であった―――
別動隊指揮官のサキュラス=ヴァンから、襲撃に失敗した旨の連絡を受けたコーガ家恒星間打撃艦隊は、自分達のみでフェアン・イチ=ウォーダの確保を行う事を決断。サキュラスの報告した“輿入れ艦隊”の予想針路上に、艦を半球状に展開しようとしていた。
するとその中の巡航戦艦の一隻に、突如として爆発が発生する。艦の後部から閃光が眩く輝き、砕け散った重力子ノズルの破片が舞う。
「右舷重力子ノズルに爆発発生!」
「なっ!…何事だ!?」
「分かりません! 何の異常もなかったはずが、突然爆発して…」
「右舷重力子ノズル大破。機関部にも損害あり。速度低下します!」
「まさか。潜宙艦の待ち伏せか?」
それは二年前の“フォルクェ=ザマの戦い”で、ナルガヒルデ=ニーワスが指揮していたウォーダ軍第一艦隊が、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラのBSHO『サモンジSV』の、『D‐ストライカー』による狙撃を受けた時と同じ反応だ。
そしてそれから約三分後、今度は最初に爆発のあった巡航戦艦と並走していた、もう一隻の巡航戦艦にも爆発が発生すると、艦隊はいよいよ混乱し始める。超空間狙撃砲の存在を知らない彼等であるから、潜宙艦群の待ち伏せの罠に飛び込んでしまったと誤断するのも致し方ない。
ただこの『センクウ・カイFX』による長距離狙撃には、ギィゲルトの『サモンジSV』による狙撃とは、大きな相違点があった。
それは約一億キロもの超長距離狙撃を、測的艦なしで成功させた事である。ギィゲルトの場合は惑星間狙撃を行うのに、目標のウォーダ軍第1艦隊近くに狙撃諸元情報を収集する、複数の測的艦が必要であった。これに対しノヴァルナは測的艦を置く事無く、照準センサーもなしに命中させたのだ。魔法のような技だ。
その秘密は、ノヴァルナが“トランサー”を発動している事にある。NNLの電脳世界に意識を解放したノヴァルナは、このエリアにいるコーガ家の宇宙艦が接続中のNNLを通し、各艦の現在位置を特定して超空間狙撃を行ったのである。“トランサー”の能力を最大限に発揮した、ノヴァルナの離れ業だった。
さらにBSI部隊が主力の“コーガ五十三家”にとって、虎の子とも言える宇宙空母にまで謎の爆発が起きると、彼等の動揺はあからさまなものになった。
「打撃母艦『シグアス・ゼラ』に爆発発生! 機動兵器着艦不能!」
旗艦『ビエザス・イジャ』の艦橋の外部ビュアーを照らす、白色の爆発光とオペレーターの緊迫した声に、総司令のイディモスに代わって艦隊指揮を執っている参謀長が、顔を青ざめさせて叫ぶ。
「宙雷戦隊は何をしている! 早く潜宙艦を炙り出せ!!」
無論、潜宙艦など辺りには存在しない。幾ら周囲に質量体スキャンをかけても、反応などあるはずはない。ましてやジャルミス暗黒星雲の星間ガスによって、走査精度が低下しているとあっては、精神に苛立ちが募るばかりだ。
「間もなくウォーダ艦隊と接触します。半包囲陣はいかがしますか?」
艦隊参謀の問いに、参謀長は感情を露わにして言い返す。
「無理に決まってるだろう!」
そしてこの直後、旗艦空母『ビエザス・イジャ』にも爆発が発生。艦橋付近で発生したこれにより、参謀長以下全員が激しい衝撃で床に投げ出された。倒れる際にコントロールパネルに頭部を強打させた参謀長は、出血したこめかみを指先で押さえながら、足元をふらつかせたままの艦隊参謀に命じる。
「む…無傷の巡戦と重巡を、ウォーダ艦隊へ向かわせよう。敵艦隊はこの戦力だけでも何とかなるはずだ。空母と損傷艦は退避。宙雷戦隊には引き続き、潜宙艦の探知と撃破の指示だ」
コーガ艦隊にはまだ、二隻の巡航戦艦と四隻の重巡航艦が無傷で居る。ウォーダ艦隊の戦闘輸送艦は五隻。砲戦能力はこちらが圧倒的有利なはずだ。
しかし一縷の望みとしていた、参謀長のこの思惑も叶う事は無かった。無駄足の潜宙艦狩りを行っていた駆逐艦の一隻が、所属不明の新たな艦隊の出現に気付いたからである。
「駆逐艦『ズラール』より、所属不明の艦隊発見の報あり。本艦からの方位288プラス03。距離8万8千」
「方位288だと?」
側頭部を手で押さえたままの参謀長が、オペレーターの報告に眉をひそめる。方位288は、ウォーダ艦隊のいるであろう位置とは、真逆の方向だからだ。もしこれが味方ならば、識別信号を発しているはずだが…と不審げな参謀長に、駆逐艦からの続報がその正体を告げる。
「所属不明艦隊に総旗艦『ソウリュウ』発見! アーザイル家の第1艦隊です!!」
顔色を失うコーガ艦隊首脳部の遥か前方。『ソウリュウ』の艦橋ではナギ・マーサス=アーザイルが、花嫁の乗る艦隊の無事を知り、安堵の笑みを浮かべていた。
「間に合ったみたいだね」
▶#18につづく
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