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第5話:ミノネリラ征服
#18
しおりを挟む当主ナギ・マーサス=アーザイル直卒のアーザイル軍第1艦隊の出現は、コーガ家打撃艦隊にとって全くの想定外であった。情報ではアーザイル軍第1艦隊は、オウ・ルミル宙域中心部の超巨大暗黒星雲、ビティ・ワン・コーの付近にいるはずであったからだ。
オペレーターの「さらに後方に二個艦隊」という追加報告を聞き、コーガ家の参謀長は即座に、作戦の中止と撤退を決定した。
これに対しアーザイル艦隊は彼等に通信を入れ、追撃は行わないゆえ、行動不能に陥っている味方を収容して、立ち去るよう告げた。アーザイル艦隊の目的はあくまでもフェアンの出迎えであって、コーガ艦隊の撃滅ではない。
ただこの時点でもまだ、戦い続けていた者がいた。トゥ・シェイ=マーディンの『テンライGT』と、ザラヌラ=ミーヴェの『バンフウOZ』である。両者の配下である『トルーパーズ』と“コーガ五十三家”は、すでに残弾とエネルギーが乏しくなって撤収を始めていたが、BSHOにはまだ余力がある上に戦いが白熱して、退くに退けない状況となっていたのだ。
「あはははははは!」
笑い声こそ朗らかだが、両眼を野生の肉食獣のようにギラギラ輝かせ、ザラヌラは操縦桿を引く。マーディンの『テンライGT』と、機体を密着させるような間合いの取り方で迫り、逆手に握った二刀流のクァンタムブレードを、残像が残るほどの勢いで連続して繰り出す。
大型ポジトロンランスでは防ぎきれないと思ったのか、マーディンはランスを宇宙空間に放り出し、自らも機体を前進させた。ザラヌラにすれば意外な行動だ。だがもっと意外であったのは、『バンフウOZ』が繰り出す斬撃に対し、『テンライGT』は素手で防御を行った事だった。間合いを詰めて『バンフウOZ』のブレードを握る腕の手首を、平手打ちで悉く打ち払ったのだ。
一瞬呆気に取られたザラヌラだったが、マーディンの技量にますます興奮する。
「やだ、凄ぉーーーい!!!!…あはははははは! あはははははははは!!!!」
そこへ届く司令官イディモス=モティガンからの全軍撤収命令。しかしザラヌラは聞く耳を持たない。より複雑な動きの斬撃を繰り出し始めて、『テンライGT』への攻撃をやめない。
「ひゃああっ! 殺す! 殺す! コロスぅ!!」
さすがにこれは対処しきれず、『テンライGT』の機体各所に裂傷が続出する。それでも深手にならないのが、マーディンの操縦技術の高さであった。
だがそんな高い技量を見せていたマーディンに、窮地が訪れる。ザラヌラの二刀流からの無数の突きの一つが、『テンライGT』の腰部に装備されていたクァンタムブレードを破壊したのである。
すでにポジトロンランスを宇宙に手放してしまい、近接戦闘での反撃手段を失ったマーディンは、機体を翻して急加速。一気に離脱を図った。距離を取ればまだ超電磁ライフルという攻撃手段がある。しかし『バンフウOZ』は引き剥がせない。『テンライGT』が右に行けば右に、左に行けば左に、どのように機体を機動させても、まるで短い鎖で繋がっているかのようだ。
「あははははは!! 逃がさないんだからぁ!!!!」
笑いながら追撃するザラヌラ=ミーヴェ。そこへ再び総指揮官のイディモスから通信が入る。
「ミーヴェ、どうした! 撤収しろ! 聞こえんのか!?」
だがやはり聞く耳を持たないザラヌラ。操縦桿を握り締めて煩わしげに言う。
「うるさい。うるさい。うるさいぃいい!!」
マーディンは操縦桿とフットペダルを同時に操作して、機体を錐揉み状態にし、なおかつランダムなターンを加えて、再度、『バンフウOZ』の引き剥がしにかかる。マーディンのその動きは華麗ですらあり、ザラヌラは魅入られたように『テンライGT』のあとを追う。しかもそれだけでなく、マーディンのコースを読んだザラヌラは、ついに『テンライGT』を完全に捕捉した。
「追いついたぁーーー!」
鬼ごっこに勝利したような声を上げるザラヌラ。しかし少女のあどけなさを残したその顔に浮かぶのは、無邪気な天使の笑顔ではなく、邪悪な悪魔の笑みだ。二刀流のクァンタムブレードがとどめとばかりに、マーディンのいるコクピットに向かう。
その時であった。いつの間にか『テンライGT』の手に収まっていた、ポジトロンランスの穂先が『バンフウOZ』へ向けて突き出されたのである。
「きゃああああああ!!」
自分から鋭い鑓に突っ込む形となった『バンフウOZ』は、頭部からバックパック上部を貫かれ、メインセンサー類と対消滅反応炉の片方が、使用不能となった。マーディンはザラヌラとの戦いが長引く中で、彼女の集中力が一点に集中し過ぎる癖を見抜き、離脱行動を取っているように見せ掛けて、予め宇宙空間に放り投げておいたポジトロンランスが、慣性で飛んで来ていた位置まで、ザラヌラをおびき寄せたのである。
ダメージの度合いから、相手の交戦能力を奪い取ったと判断したマーディンは、ザラヌラの『バンフウOZ』を置いて、さっさと去って行った。
「おいミーヴェ、いい加減にしろ! 撤収だと言っているだろう!!」
ヘルメット内のスピーカーでイディモスの声が再び響き続ける。そのヘルメットを脱ぎ、荒々しく膝の上に置いたザラヌラは、拳を作った両手でポコポコ叩いて、子供のように言い放った。
「あーーーん!! くやしーーーー!!!!」
▶#19につづく
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