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第6話:皇国再興への道
#08
しおりを挟む同じ頃、セッツー宙域トルダー星系第五惑星ガルンタ。緑がかった青空の下、銀色に輝く五つのリングが、球状の本体を包んでゆっくりと回転している、直径五百メートルほどの構造体が、海上約七十メートルの位置に浮かんでいる。そのさらに上空には、多数の宇宙艦が整然と並ぶ光景があった。
球状構造体の名は『ハブ・ウルム=トルダー』。銀河皇国の中にいくつかある、NNL統括・管理のハブステーションの一つである。
特に皇都惑星キヨウのあるヤヴァルト宙域に隣接した、オウ・ルミル宙域のク・トゥーキ星系、タンバール宙域のキャメオルガ星系、そしてここセッツー宙域のトルダー星系の三つに設置されたハブステーションは、中央行政府『ゴーショ・ウルム』で、NNLシステム統括機能に障害などが発生した時などに備え、代替統括機能を備えた大規模なものとなっていた。七年前のミョルジ家によるキヨウ侵攻の際には、星帥皇室はク・トゥーキ星系まで退避し、そこでNNLシステムの統括制御を行っている。
そしてこの『ハブ・ウルム=トルダー』の中心部に、新星帥皇エルヴィス・サーマッド=アスルーガは居た。白銀色に輝く、ナイトローブのような衣装に裸身を包んで、上部の三分の二ほどが開かれた、淡いライトグリーンをした金属製の繭のような装置の中で座っている。繭の中は白い光で満たされており、エルヴィスは静かに瞼を閉じていた。やはりそのエルヴィスの容姿は、テルーザと全くと言っていいほどに似ている。
台座に据えられたその繭のようなものが、星帥皇のみが使用できる、NNLシステムの最終統括制御用サイバーリンカーであり、今はそれを前にしてミョルジ家の当主、ヨゼフ・サキュダウ=ミョルジと、その三人の重臣―――通称“ミョルジ三人衆”が並ぶ。周囲は機械で出来た臓器のような、異様な装置で埋め尽くされていた。四人が待つ視線の先で、エルヴィスはゆっくりと瞼を開いて声を発する。
「たった今、全ての処理が終わった…これで『ゴーショ・ウルム』にいる、我等に従わぬ上級貴族達が、NNLシステムの制御に干渉する事は出来ないだろう」
それを聞いて四人は一斉に頭を下げて、“三人衆”の一人、ナーガス=ミョルジが礼と追従の言葉を口にした。
「ありがとうございます、陛下。さすがでございます」
頷いたエルヴィスは、機嫌を良くして微笑みと共に告げる。
「これでお前達の出す法案は、余の意のまま。銀河皇国の再興と繁栄のため、良いと思う案を余に差し出すがいい」
星帥皇のNNL制御の間を辞した四人は、長い廊下を歩きながら、思うところを言葉にして交わし始めた。もっとも当主のヨゼフはほとんど何も言わず、体の線も細いこの若い当主が、“三人衆”によって据えられたお飾りである印象を、殊更強調しているように見せている。
「これで、まずは第一段階が完了…だな」
第一声を発したのはナーガス=ミョルジ。急死した前当主ナーグ・ヨッグの従叔父にあたり、六十代半ばの小柄な男である。“三人衆”の筆頭格でヨゼフの配下ではあるが、ナーグ・ヨッグ亡き後のミョルジ家の事実上の支配者だ。
「うむ…エルヴィスの制御も、上手くいっている」
新星帥皇の名に“陛下”を付けず、呼び捨てにするのはソーン=ミョルジ。同じミョルジの分家一族でも、かつてはナーグ・ヨッグの主筋と、対立していた一派の出身である。四十代のスキンヘッドの男だ。
「そうだ。NNLと超空間ゲートの統括権を我等が手にした以上、もはや他の星大名らに簡単に手出しはできぬ」
何度も小さく頷くのは、トゥールス=イヴァーネル。こちらも四十代で、褐色の肌をした肥満体の男。ミョルジ一族ではなく、ヤーマト宙域のイヴァーネル星系を治める、独立管領の一族から登用された人物だった。
「だが問題は…」
そう言って僅かに眉をしかめるナーガス。言いたい事を察したソーンも、忌々しそうに応じる。
「ああ。マツァルナルガめ…本当に我等を裏切るつもりか」
ソーンが口にしたマツァルナルガとは、“ミョルジ三人衆”と並びナーグ・ヨッグの重臣であった、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガの事である。ヒルザードは、ミョルジ家がキヨウを支配するようになって、ヤーマト宙域のシギ・ザン星系周辺を領地として得ていた。ノヴァルナの副官のラン・マリュウ=フォレスタと同じ種族、フォクシア星人の五十代半ばの男だ。
「それで?…マツァルナルガが逃がした、ジョシュア様の居場所は?」
イヴァーネルが問い質したジョシュアとは、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガ。殺害されたテルーザの弟で、当時はマツァルナルガの勢力圏にあるウロヴォージ星系で、考古学を学んでいた。
「ある程度は、把握している」と応じるソーン。
「オウ・ルミル宙域を抜け、今はエテューゼ宙域のアザン・グラン家に、匿われているようだ」
これを聞いてイヴァーネルは、考える眼となる。
「アザン・グランか。ウォーダ家が治めるようになった、ミノネリラへ向かうかと思ったがな」
「ロッガ家が裏をかかれたのだろう。“コーガ五十三家”の一部が離反して、ジョシュア様の手引きをしたという噂だ」
ソーンの言葉にナーガスは、吐き捨てるように言った。
「ジョーディ・ロッガめ…せっかく手を組んだというのに、存外使えぬ奴よ」
ミョルジ家が星大名の中で警戒するのは、やはりノヴァルナ・ダン=ウォーダであった。
ここでミョルジ家の視点からノヴァルナという人間を見てみると、ノヴァルナは今からおよそ八年前の皇国暦1555年。ミョルジ家と敵対関係にあったロッガ家が宇宙艦隊を極秘裏に増強するため、イーセ宙域星大名キルバルター家、そしてイル・ワークラン=ウォーダ家と手を組んで、水棲ラペジラル人の奴隷売買を行っていたのを妨害。
このロッガ家の極秘計画が露見した事で、ミョルジ家は兼ねてからの懸案であった『アクレイド傭兵団』との共闘を決定し、第一次キヨウ侵攻に踏み切った。
さらに皇国暦1556年。ノヴァルナは突然、ウォーダ家の宿敵であったミノネリラ宙域星大名サイドゥ家のノア姫と、戦場の真ん中で婚約を発表するという驚天動地の行動により同盟を締結。サイドゥ家とも敵対関係にあったロッガ家に圧力をかけた。
そして皇国暦1560年には、キヨウへの上洛軍を進発させた戦国有数の星大名イマーガラ家を、“フォルクェ=ザマの戦い”で撃破。
これらすべては、ノヴァルナ自身の目的があって行動したものであるが、結果的にどれもが、ミョルジ家のキヨウ支配に貢献してくれていた。
ところがその一方で、ノヴァルナは皇国暦1558年に、僅かな供回りのみでキヨウへ上洛。星帥皇テルーザと個人的に友誼を結ぶ事に成功し、星帥皇室を奉じるための上洛軍編制の勅許を得るという、ミョルジ家にとっても脅威となり始める。
この二年後にノヴァルナがイマーガラ家を破ったのはいいが、イマーガラ家から独立したミ・ガーワ宙域のトクルガル家、強大な軍事力を誇るカイ/シナノーラン宙域のタ・クェルダ家と同盟を組み、ついにはミノネリラ宙域を手に入れたウォーダ家は、今や油断ならない勢力である。
「そのウォーダ家、評議会に代表を出し、恭順の意を示しているというが…」
イヴァーネルが胡散臭さ満点といった口調で言うと、ソーンもまるで信用していないといった雰囲気を出して応じる。
「一応、外務担当家老の一人…テシウス=ラームという者を、送って来るらしい」
「その名は聞いた覚えがある。おざなりの存在ではないようだが」
そこまで言葉を交わすと、二人は揃ってナーガスに顔を向け、見解を問う。
「どうであろう、ナーガス殿。ノヴァルナは信用ならん。ウォーダ家は滅ぼしておくべきではあるまいか?」
「さよう。開戦の理由などどうとでもなる。この際、禍の根を断っておいては?」
▶#09につづく
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