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第6話:皇国再興への道
#09
しおりを挟むソーンとイヴァーネルの意見に、ナーガスは迷いの表情をになる。その直後、眼前に小振りな通信ホログラムが浮かび上がって、呼び出し音を響かせた。それに指を触れさせると、「ナーガスだ」と応答する。通話に出たのは彼の側近だった。側近からの言葉を聞いたナーガスは、僅かに眼を見開く。
「なに? ハノーヴァ卿とセランドル卿が、もう到着されただと? わかった。すぐに向かう」
そう応じたナーガスは通信を切り、ソーンとイヴァーネルに向き直った。三人は頷き合って、歩く速度を上げ始める。どうやら彼等には会談の予定があって、その相手が定刻より早く到着したらしい。しかもミョルジ家の事実上の支配者たる三人を急がせる相手となると、余程重要な立場にある人物のようである。
歩を速め、五分ほど廊下を進んだ三人は、途中で待っていた四人の家老と共に、豪華な内装に包まれた上級貴族向けの応接室へ入った。するとグレーの軍装に白いローブを重ねた、二人の初老の男がソファーから立ち上がる。二人の背後には、それぞれの副官らしき、同じグレーの軍装を着た女性士官が立っている。
ナーガスは軽く両腕を広げて、歓迎の意を表しながら、愛想良く軍装の男達へ声を掛けた。
「これはお待たせ致した。ハノーヴァ卿、セランドル卿」
「いいえ。私どもが、予定より早く到着致しましたので、どうぞお気になさらず」
愛想笑いを返した二人に、ナーガスは改めて着席を促す。ソファーに座った五人の中で、最初に口を開いたのはハノーヴァであった。
「まずは、計画通り事が運んでいるようで、重畳ですな」
実はこのハノーヴァという男には、ノヴァルナも面識がある。五年前のキヨウ上洛の際、惑星ガヌーバの温泉郷と金鉱脈の問題で、ノヴァルナが『アクレイド傭兵団』の一部とトラブルを起こし、その仲裁のために姿を現したのだ。この時は自分が『アクレイド傭兵団』最高評議会の一員である事、中央本営第3艦隊司令長官である事を告げていた。
「ありがとうございます。これもご貴殿らからの、技術供与のお陰にて」
ナーガスの礼の言葉と共に、ミョルジ側の全員が頭を下げる。すると家老の一人が、追従口気味に言う。
「あれはすっかり、自分がテルーザ陛下の双子の弟だと、思い込んでおります。深層意識からの記憶インプラント…凄いものですな」
これに応じたのはセランドルという名の男であった。
「思い込んでいるのではありません。彼にとってはそれが唯一無二の事実です」
窘められた家老が「これは失礼しました」と、薄笑いを受かべて言葉を返すのを軽く睨み、ハノーヴァが切り出す。
「早速ですが本題に」
「どうぞ」とナーガス。
「まず兼ねてからお願い致しておりましたように、我が『アクレイド傭兵団』に、ヤヴァルト宙域とタンバール宙域の交易特権を頂きたい」
「それは以前からのお約束でしたので、当然の事と承知しております」
ソーンが頷きながら応じる。ただハノーヴァの発言には追加事項があった。
「つきましてはこれに、『アクレイド傭兵団』宇宙艦隊の、超空間ゲート使用権を付与して頂きます」
「なんと…」
「そ、それは…」
皇国直轄軍以外の武装宇宙船が超空間ゲートを使用する事は、銀河皇国規約で固く禁じられている。例外は星帥皇室から許諾を得た星大名家の軍船のみで、例えば五年前のノヴァルナの上洛の際、戦闘輸送艦『クォルガルード』が使われたが、これでも“自己防衛能力を持った輸送艦”という、グレーゾーン的な扱いだった。それが星大名でもない私兵集団の武装宇宙船を、艦隊単位での超空間ゲートの利用を許可するとなると、事は重大である。
超空間ゲートがあるのは、宙域国の首都星系などの、各宙域における主要植民星系だ。そのゲートを軍事利用できるとなると、宇宙戦争の戦略というものが根本から覆される。
これまでは星帥皇室がNNLの最終統括能力によって、超空間ゲートを軍事利用出来ないようにしていた。このため侵攻側は目的地まで、超空間転移を繰り返す必要があり、防衛側はそれを迎え撃つ場所と時間を設定する事が可能であった。
ところが侵攻側がゲートを自由に使用できるとなると、侵攻側は圧倒的に有利となる。目的地と侵攻のタイミングを自由に設定し、任意の時間に目的の主要植民星系へ侵攻できるようになるからだ。
そうなると防衛側は、進攻が予想される全ての植民星系に、防衛戦力を張り付けておくか、戦力的に不安な星大名は、戦略的要衝となる植民星系に防衛戦力を集中し、あとは見捨てるしか生き延びる道はなくなる。『アクレイド傭兵団』が要求しているのは、そういった戦略的優位性だった。
「いえ。これは何も我等が、銀河皇国をどうこうしようというのではありません。あくまでも安全保障の観点から、お願い申し上げているのです」
セランドルが丁寧な口調でそう言うが、“三人衆”や家老達は不安そうな眼で、互いに顔を見合わせるばかり。そこにハノーヴァが煽るように付け加えた。
「超空間ゲートの支配を目的としていたのは、あなた方も同じでありましょう?」
ハノーヴァが言った通りである。今回の星帥皇殺しという暴挙に出たミョルジ家の目的は、NNLの統括権もそうであるのだが、この超空間ゲートの支配もかなりのウエイトを占めていたのだ。
新たな星帥皇であるエルヴィスがどういう理由でか、ミョルジ家の言いなりである以上、ミョルジ家は宇宙艦隊をいつでも、相手からすれば突然に、戦略的要衝の植民星系外縁部に送り込む事が出来るのである。“三人衆”のソーンとイヴァーネルが今しがた、ウォーダ家を滅ぼすべきとナーガスに進言したのも、この戦術を応用すれば、戦闘を圧倒的有利に進める事が出来るからだった。
そしてそれはミョルジ家が、テルーザを葬った最大の理由でもある。事実上の傀儡であったテルーザだが、それでもNNLの統括と超空間ゲートの制御は、テルーザの意志によって最終決定がなされる。そうである以上、ミョルジ家が望んでも、最終的にテルーザが同意しなければ、目的は達せられないのだ。
セランドルもハノーヴァと同調して、ナーガスらに言う。
「我等にはザーカ・イー防衛の任務もあります。そのためにも、あなた方とは良い関係を続けていきたい…最高評議会は、そのように考えております」
ザーカ・イーは、カウ・アーチ宙域とセッツー宙域の間に位置する自治星系で、一個の恒星系でありながら、一つの宙域に匹敵するほど、莫大な経済力を保有している。『アクレイド傭兵団』はこのザーカ・イーが、メインスポンサーだという噂であった。
そしてミョルジ家が今回、NNLの統括権と超空間ゲートの制御権を完全掌握した事で、ザーカ・イーの権益まで侵犯される可能性が出て来た。実はミョルジ家の急激な軍拡には、ザーカ・イー自治星系からの国家予算並みの、多額の融資が行われており、ミョルジ家にとって今では重い負債ともなって来ている。ハノーヴァが言った、“安全保障”と“良い関係を続けて行きたい”とは、つまり…そういう意味合いもあるのである。
ハノーヴァとセランドルの言葉の重みを感じ、ナーガス達はたじろぎを見せた。『アクレイド傭兵団』の本営艦隊の実力には、NNLの統括権と超空間ゲートの制御権を得た彼等であっても、戦慄させるだけのものがある。
「わかりました。前向きに善処させて頂きます」
気圧された感のあるナーガスだったが、虚勢を張って冷静な態度で言葉を返す。それに対しセランドルは、余裕を感じさせる表情で応じた。
「なるほど。前向きの善処…ひとつ、宜しくお願い致します」
そしてハノーヴァが告げる事はまだあった。それは“ミョルジ三人衆”の戦略に対し、機先を制して水を差すものだ。
「それともう一つ。ノヴァルナ殿のウォーダ家には、手出し無用に願います」
「なっ…!?」
思わず前のめりになる“ミョルジ三人衆”。そのはずである。彼等はついさっきまで、NNLの統括権と超空間ゲートの制御権を利用して、ウォーダ家を滅ぼす算段をしていたところなのだ。
「なぜでしょう? ノヴァルナ殿は我等だけでなく、貴殿ら『アクレイド傭兵団』にとっても、脅威となり得る存在だと思いますが?」
イヴァーネルの問いに、ハノーヴァは以前口にしたのと似た言葉を述べる。
「ノヴァルナ殿には…利用価値がある。それが最高評議会の意思です」
「利用価値? それはどのような?」とソーン。
「それをあなた方が、お知りになる必要はありません」
セランドルは愛想のいい笑顔を見せながらも、質問を軽く突っぱねる。
「ともかく、我等はあなた方が考えておられるほど、ノヴァルナ殿を敵視してはおりませんので、その辺りは履き違えなさらぬよう」
「む…」
ノヴァルナに対する側面援護…というわけではないであろうが、この『アクレイド傭兵団』とミョルジ家の思惑の齟齬が、結果的にウォーダ家を救う事となった。
『アクレイド傭兵団』最高評議会の意思は、現在のミョルジ家の銀河皇国支配において、重要なウエイトを占める。銀河皇国の新たな行政機関『皇国中央評議会』に代表を送り、恭順の意を示したウォーダ家に対し、必要以上の敵対行動はとれなくなったのであった………
▶#10につづく
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