158 / 526
第6話:皇国再興への道
#10
しおりを挟むやがて月が変わり、皇国暦1563年の2月になると、オ・ワーリとミノネリラの両宙域へ『皇国中央評議会』の大使と、それに随伴する駐在員が合わせて二十名派遣されて来た。あからさまなミョルジ家のスパイであるが、NNLの統括権を押さえられていては、受け入れざるを得ない。
だがその一方で、やはりテルーザの時より深化した、ミョルジ家による星帥皇室支配と、そのテルーザを殺害したミョルジ家に対する敵視の眼は、ほぼ全ての星大名が抱く事となった。もはや星帥皇室の権威は完全に失われ、ヤヴァルト銀河皇国は疑念と蔑視、そしてそれに加え敵愾心が渦巻く、さらに混沌としたものへとなって行ったのである。
しかしそんな中でも、混沌とした空気などノヴァルナにとっては、どこ吹く風であった。ミョルジ家から派遣されたスパイなど、好きに探らせるよう放置して、キノッサへある指示を出す。かねてから構想にあった、デュバル・ハーヴェン=ティカナックのウォーダ家への勧誘がそれだ。
皇国暦1563年2月6日。キノッサは“スノン・マーダーの一夜城”以降、側近となった黒人の大男キッパル=ホーリオと、バイシャー星人カズージ=ナック・ムルを連れ、出発の挨拶にギーフィー城の執務室に居るノヴァルナのもとを訪れていた。この時は丁度、入れ違いで『ナグァルラワン暗黒星団域』の調査を終えて、一時的に帰って来たノア姫も、ノヴァルナと一緒である。
「いいな。ハーヴェンを仲間にするまで、帰ってくんじゃねーぞ」
「てへへ。こりゃまた相変わらずの、厳しいお言葉で」
キツめの口調でノヴァルナが言っても、キノッサはあっけらかんとしたものだ。しかしそうかと言って、ふざける気持ちは微塵もないのを、ノヴァルナも知っており、「ふん」と鼻を鳴らすのみで咎めだてたりはしない。それに比してノアの言葉は穏やかで優しい。
「デュバル・ハーヴェン=ティカナックは、私達ウォーダ家にとって、有益な人物になるはずです。しっかりね、キノッサ」
「はっ、ありがたきお言葉。このキノッサ、必ずや!」
打って変わって、あからさまにノアには礼儀正しいキノッサに、ノヴァルナは呆れた顔をする。
「なんだてめーは。ノアにはえらく、態度が違うじゃねーか?」
「そりゃぁ、もう」
「なにが“そりゃぁ、もう”だ」
ノヴァルナはキノッサに「とにかくいいな」と念を押すと、ホーリオとカズージにも、「おまえ達も頼むぞ」と声を掛けて送り出した。そして三人が立ち去ると、ノヴァルナはノアに声を掛ける。
「…で? そっちは、執務室までわざわざ押しかけて来て…なんかあったのか?」
ノアは「うん」と頷いて続けた。
「せっかくだし、お城の中を散歩しない?」
ノアの提案に同意し、二人は連れだって執務室を出る。長い廊下の壁に嵌め込まれた大窓の外は、低く垂れこめた灰色の雲から冷たい雨が降っていた。
「どう? 少しはこの星の環境に、慣れた?」
「まぁまぁだな」
「春になったら、西の大湿原に行きましょう。サンショクスイレンの大群生地が、すっごく綺麗で素敵なの」
「ふーん…」
取り留めのない話を続けながら歩いた二人は、屋根が透明のドームとなった、円形のホールへ辿り着く。この惑星特有の極方向に回転する、氷のリングを鑑賞するためのホールだった。外を眺めながらノアは本題を切り出す。
「ねぇ?…気付いてる?」
「なにが?」
妻の真面目な口調から、何か重要な事を言おうとしていると察し、ノヴァルナも眼差しを真剣にする。そしてノアはその内容を告げた。
「今の新星帥皇がやろうとしている事、私達が飛ばされた世界で、関白だったあなたがやっていた事だって」
ノアが口にした“飛ばされた世界”とは今から八年前、ノヴァルナとノアの出逢いとなった、“熱力学的非エントロピーフィールド”を抜けた先、皇国暦1589年の世界の事である。その世界では銀河皇国の関白まで上り詰めたノヴァルナが、NNLの統括権を占有し、忠誠を誓った星大名にのみ、NNLのロックを解除するという支配体制を敷いていたのだ。
「向こうの世界の、俺がやっていた事…だと?」
「そうよ。もしかしたらだけど、エルヴィスはあなたの代わりとなるため、姿を現したのかもしれない」
「は? どういう事だ?」
「前にも言ったでしょ? 私達があの世界と行き来した事で、分岐した別の宇宙が生まれたって」
「ああ」
「そうだとして、二つの宇宙が近似値的並行世界で、NNLの統括権を正統な星帥皇以外の誰かが支配する事が、両方の世界で因果律の必然となるなら、こちらの世界ではエルヴィスが、その役目を担うのかもしれないって話よ」
「なんだそりゃ?…なんでそうなる?」
「あなたが関白になる事を、拒んだからよ」
「はぁ?」
思わず頓狂な声を上げるノヴァルナ。そう言われると、思い当たる事がないわけではない。四年前に星帥皇テルーザに拝謁したノヴァルナは、意気投合した結果、将来的に皇国関白の地位をテルーザから打診されたが、これを断っていたのだ。しかしそれは半分以上が、冗談のはずであった。
このことを告げ、ただの冗談であってもそんな事になるのかを、確認するノヴァルナにノアは、思いのほか真面目に応じる。
「その時は冗談だったとしても、何年後かには本当のことになってるって話、よくあるでしょ?」
「………」
無言で考えたノヴァルナは、それでも半信半疑と言った眼をノアに向けた。
「…にしたって、えらくオカルトじみた話じゃね?」
「そうかもしれないけどエルヴィスの素性が不明で、不自然なのが気になるのよ。単なるクローンだと、NNLの統括権を得られるはずがないし、一卵性双生児の兄弟がいたなんて話は初耳だし」
「なんかウラがあるって事か?」
「ウラのウラかも知れないわ」
「ウラのウラねぇ…」
「とにかく、例の『超空間ネゲントロピーコイル』といい、今の銀河皇国にはおかしな事が多すぎるわ」
「戦国の世を利用して…だな?」
頷くノアの横顔に一瞬目を遣ったノヴァルナは、視線を雨に打たれる透明ドームに向ける。しかしその視界は今の銀河皇国の現状のように、厚い雲に暗く覆われていた………
▶#11につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる