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第6話:皇国再興への道
#11
しおりを挟む皇国暦1563年2月も半ば、新たに稼働を始めた『銀河皇国中央評議会』が、ウォーダ家へ派遣した“大使”達は、常備戦力に関する情報収集活動を始めた。
ウォーダ家首脳部の予想では、『中央評議会』はウォーダ家に対し、大幅な軍備縮小を要求して来ると考えられている。
その主だったものは、ウォーダ家がミノネリラ侵攻の際に、損害を受けた宇宙艦及び、イースキー家の残存艦の半数になるであろう。つまりオ・ワーリとミノネリラの、二宙域を領有するようになったウォーダ家だが、その戦力は一個宙域半程度となるという事である。
これはノヴァルナが、前星帥皇テルーザと懇意であった事が影響しており、現状維持を認められた他の星大名に比べ、不利な立場に置かれてしまったものである。ウォーダ家はこれを不服として、家老達は皇国大使に処遇の見直しを重ねて求め、その未練たらしさにむしろ失笑を買っていた。
ただ…当然ながら、このウォーダ家の反応は演技である。それが証拠に、筆頭家老のシウテ・サッド=リンが皇国大使の袖に縋りついて、廃棄艦の数を減らしてくれるよう頼み込んでいた、という話を聞いたノヴァルナは、笑い声を上げて「シウテの爺もやる時はやるもんだ」と、褒めたと言われる。
そして実際には、旧サイドゥ家のリーンテーツ=イナルヴァの進言が容れられ、皇国大使の情報収集網の及ばない辺境の各植民惑星に、相当数の艦隊戦力が隠されている。また一部は宇宙海賊『クーギス党』に臨時編入される形で、ウォーダ家を離れていた。無論これらは皆、テルーザに銀河皇国を託されたノヴァルナが、上洛を号令する日を待つためのものだ。
そういった下準備の一環が、現在のキノッサが向かっている惑星であった。バサラナルムを離れること約千六百光年。エテューゼ宙域のミノネリラ宙域との国境地帯にある、バリレヴン植民星系第三惑星リケがその目的地である。
リケは岩石のリングを持つ、気候の穏やかな惑星だった。この宙域を統治するアザン・グラン家にとっても戦略的要衝ではなく、数隻の旧式駆逐艦と宙雷艇部隊の警備隊がいるだけだ。
キノッサとカズージ、ホーリオの三人を乗せた恒星間シャトルは、明るい緑の地表が白い雲間から覗くリケへと近づいてゆく。このシャトルは“スノン・マーダーの一夜城”の時、マスクート・コロック=ハートスティンガーとその仲間を味方にするため、惑星ラヴラン行きで使用したものであった。大出世となったあの一件の縁起を担いだのだ。
「いよいよッス。頑張るッスよぉ」
両肩をグリグリと回しながら、キノッサは惑星リケで隠遁生活に入っているという、デュバル・ハーヴェン=ティカナックとの邂逅に期待を寄せた。
広大な草原に設けられたリケ唯一の宇宙港には、駐機してあるシャトルも疎らである。植民惑星としてまだ新しいこの星は、今キノッサ達が降り立った南半球に、約百万人が暮らす程度であるから無理もない。また宇宙港自体も、大昔の大気圏内航空機の地方空港と、大差ない外観をしている。
「さぁって、着いたッスよぉ」
景気づけにパン!パン!パン!…と両手を打ち鳴らしながら、宇宙港のエントランスを出たキノッサは、NNLの端末ホログラムを手元に呼び出して、オートタクシーを手配した。タクシー用駐車場で青色と黄色に塗り分けられたオートタクシーが一台、稼働ライトを点灯させて動き始める。その光景を眺め、バイシャー星人のカズージが、独特な訛りの公用語で言う。
「こんだバ、NNLちゅうもんザ便利なけんど、これからン星帥皇に逆らったバ、使えんくなるんじゃろ?」
「星帥皇室じゃないッス。ミョルジ家ッスよ」
吐き捨てるような口調で応じるキノッサ。しかしカズージは、魚類のようなバイシャー星人特有の大きな眼を、ギョロギョロとさせて核心をついて来る。
「同じべさ。今ンはぁ、星帥皇室もミョルジ家も、一緒でねっが」
「す…鋭いじゃないッスか」
たじろぐキノッサの前に、駐車場を出たオートタクシーが停車し、スライド式のドアを開ける。カズージとホーリオに先んじて乗り込んだキノッサは、ハーヴェンの舅のモリナール=アンドアから聴いた住所を、タクシーのコンピューター端末に口頭で告げた。反転重力を使ってふわりと浮き上がったタクシーは、スルスルと路面から三十センチほどの宙を滑り始める。
オートタクシーはなだらかな起伏のある草原の真ん中を、快適な調子で浮上走行していく。惑星リケの大地は、緑は多くとも森林は意外と少なめで、円形の小さな林が海に浮かぶ小島のように点在する。都市らしきものは全く見えず、かといって農地というわけではなく、どこまでも続く原野であった。
そんな中を一時間ほど走った頃である。それまでより二回りも大きな円形の林を中心にした、小さな集落が見えて来た。こじんまりとした白い壁の住居が、比較的多く建ち並び、さらにその外周を麦畑や野菜類の農園が囲んでいる。そして農園の上空には、幾つかの作業用小型プローブがゆっくりと飛び回っていた。キノッサは僅かに前屈みとなって告げる。
「見えて来たッス。あれがハーヴェン殿のいる、エフェンの街ッスよ!」
▶#12につづく
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