銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第6話:皇国再興への道

#12

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 デュバル・ハーヴェン=ティカナックの住居はエフェンの街の北側、他の住居が少ない区画にあった。北側という事もあり、陽当たりは満点ではないが、木漏れ日が作る光陰は美しく、木々から飛んだのであろう種子を付けた白く小さな綿毛が、光の帯の中をキラキラ輝きながら漂っている。

 日課である朝の散策を終え、林の入り口からハーヴェンは帰って来た。この惑星固有種のラスキアスヒバの落とした無数の小枝が、歩を進める度にさくさくと小さな音を立てる。今日は体調も良さそうだ。
 舗装のされていない道を見れば、自分の住居の前で砂埃が舞った跡が、ぼんやりとした四角形に残っていた。反重力車が一時的に停車した跡だ。その車そのものは居ない事から、タクシーか何かの類いだろうと、ハーヴェンは推測した。

“客人かな?”

 そう思って玄関の白い扉を開けると、出迎えた妻のエルナがやはり、「あなた。お客様が見えてますよ」と告げる。

「お客?…こんなところにかい?」

 穏やかに問い掛けるハーヴェンに、エルナはにこやかに応じた。

「はい。キノッサ様と仰る方と、二人のお連れ様が」

 ハーヴェンは「ほう…」と声を漏らすと共に、妻の機嫌が必要以上にいい事に、一種の違和感を覚える。しかしすぐにその理由は分かった。妻がキノッサ達を待たせている応接室から、幼い息子のデュカードのはしゃいだ笑い声が、聞こえて来たからだ。

「デュカードがすっかり、キノッサ様を気に入ってしまったんですよ。まだ来られてから一時間ほどなのに」



「ほぉらぁ~デュカード殿ぉー。おサルさんスよぉ、ウキキキキ!」

 おどけた声を上げて、右手を頭のてっぺんへ持っていくキノッサ。基が猿顔の男の猿真似は完璧で、ソファーの脇に置かれたバスケット内のデュカードは、嬉しそうに両手を叩いて笑い声を発している。もっともまだ一歳に満たない赤子が、猿がどういうものかは知るはずがないが。それだけキノッサの動きが、滑稽だという事だろう。

 ウケの良さに気を良くしたキノッサは、隣にいたカズージまで引っ張り出した。

「そんでもって、こっちはおサカナさんスよぉー」

 困惑気味にカズージも両腕を小さく畳んで、手先をヒラヒラと振りながら言う。

「ザ…ザバザバ~」

「なんスかザバザバって、魚はそんな風に鳴かないッスよ!」

「いや。魚なんザ、最初から鳴かんバ!」

 言っている意味は分からなくとも空気は伝わるのか、二人のツッコミ合いにデュカードはまた笑い声を上げて小さな手で拍手する。そこにノックの音が軽く響き、ハーヴェンが入室して来た。

「どうもお待たせしました」
 
 入室して来たハーヴェンに、キノッサは顔を赤らめながら振り返る。

「あっ! こりゃどうも、お恥ずかしいところを!」

 振り返ったキノッサの笑顔を見て、ハーヴェンは“なるほど…”と感じた。裏表の無さを体現したような、屈託のない笑顔…イースキー家に仕えていた頃、“スノン・マーダーの一夜城”で名を馳せたこの人物の情報を収集した際にあった、“人心掌握術に長けている”一端がこれなのであろう。ミノネリラ攻略戦でマトゥーラ星系のリティ=ゲルバートや、ウネマー星系のジローザ=オルサーなどを寝返らせた実績も忘れてはならない。

「ハッハッハッ…いえ、デュカードと遊んでやって頂いて、むしろ感謝です」

 ハーヴェンは軽い笑い声と共に言葉を返して右手を差し出し、キノッサとカズージにソファーに座るよう促す。その間にエルナはデュカードを抱きかかえ、一礼して応接室を退出した。

「いやぁ、失礼しました。可愛いお子様でしたので、つい…」

 と言いながら、キノッサは実際に初対面となるハーヴェンの姿を見定める。病魔に冒されているという話の通り、肌の白さは健康的というレベルを通り越して白過ぎる。顔立ちは画像データで見たように、切れ長の眼が印象的で女性的だった。華奢で体の線も細い…だがその頭の中に納まっている脳は、キノッサにとっても稀代の名将たるノヴァルナに、一度ならず煮え湯を飲ませた恐るべき脳だ。

「子供の心は、相手の心を映す鏡…キノッサ様は、善人であらせられますね」

 いつぞやのジローザ=オルサーと同じような事をハーヴェンが告げると、キノッサは指先で頭を掻きながら、気恥ずかしそうに応じた。

「はは…わたくしめには、他に大した取柄もないもので」

「ご謙遜を。“スノン・マーダーの一夜城”で大功を挙げられ、ノヴァルナ公のご信任も厚く、今や飛ぶ鳥を落とす勢いと聞き及んでおります。私も一度、お目にかかりたいと思っておりました」

「滅相も無い。“一夜城”は、皆々様にお力添えを頂けたゆえ。おかげで分不相応な身分を頂き、ノヴァルナ様からは手に余るほどの宿題を、課せられている毎日でございます」

 これを聞いたハーヴェンは、“そうではあるまい…”と思いながら笑い声を発した。自分の観察眼がキノッサの苦笑いの向こうにある、秘めた野心を見抜いていたからだ。

「して…本日は我が家に、どのようなご用向きでしょう? スノン・マーダー城の城主殿が、わざわざ我が子の遊び相手をして頂くために、お越しになったのではございますまい?」




▶#13につづく
 
 
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