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第7話:目指すは皇都惑星
#07
しおりを挟む皇国暦1563年4月17日、ウォーダ家上洛軍は国境を越え、オウ・ルミル宙域へ侵入する。それと同時にNNLのメインシステムが、銀河皇国のマスターシステムから遮断された。これにより上洛軍のNNLは、上洛軍内のローカルシステムでしか運用できなくなり、総司令部のあるバサラナルムへのアクセスも、不可能となる。しかしながらこれは想定されていた事であり、実際の総司令部は総旗艦『ヒテン』なのであるから、上洛軍の将兵に動揺は少ない。
さらにコレット=ワッダーを通して、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガの名で、上洛軍への協力を要請していたロッガ家からは、拒否とオウ・ルミル宙域への侵入を禁止する旨の返信があった。これもノヴァルナにとっては想定内であり、当然のように宙域進入を上洛軍に命じる。
オウ・ルミル宙域へ入って約二十分。総旗艦『ヒテン』のノヴァルナのもとに、通信オペレーターから報告が入った。
「前衛第4艦隊より連絡。ロッガ軍と思われる小型船を発見、さらにそこから発せられる暗号通信を傍受。哨戒艇と思われるとの事です」
「了解だ」
そう応じたノヴァルナだが、彼のいるのは私室であった。そして「通信終了」と音声入力した途端、不意に声を張り上げる。
「はぁ!? てめぇら、きたねーぞ!!」
叫ぶノヴァルナは頭にはVRのヘッドセット、両手にはグローブ型をしたコントローラーが装着されていた。両目を覆うゴーグル内のスクリーンには、レーシングコースのリアルなホログラム映像が映し出されている。視界の先では、Rのきついカーブを次々に駆け抜けていく、複数のバイクの後ろ姿があった。
「通信に気を取られてるからですよ!」
「お先ッス!!」
ヘッドセットのスピーカーから聞こえて来るのは、『ホロウシュ』のナガート=ヤーグマーとクローズ=マトゥの声だ。「クソッタレ!」と悪態をついたノヴァルナはグローブ型コントローラーに包まれた指を、バイクのハンドルを握る形にし、スロットルを全開にする。ゴーグル内の映像が、レーシングコースを加速していくものに代わり、自分を追い抜いて行ったバイクに迫り始める。不敵な笑みで言い放つノヴァルナ。
「待ちやがれ、てめーら!」
上洛軍がオウ・ルミル宙域へ進入したこの日この時、ノヴァルナは総旗艦『ヒテン』内の私室で、『ホロウシュ』達と“オンラインVRバイクレース大会”を開催していたのであった。
ノヴァルナがレースゲームに興じている一方、オウ・ルミル星系第二惑星ウェイリスに建てられている、ロッガ家の本拠地クァルノージー城内では、当主のジョーディー=ロッガを中心に主だった重臣が集められ、ウォーダ家上洛軍に対する迎撃計画の最終確認が行われていた。
三重の円卓状になった大会議室中央に浮かぶ、巨大な球体ホログラムスクリーンには、哨戒艇が発見したウォーダ軍の位置が宇宙地図に表示されている。
「現在ウォーダ軍は、CK‐3439871星系の近くにあり、次のDFドライヴのための重力子チャージを行いながら、通常航行中との事です」
ロッガ家の宿老コルモル=シドンがそう報告しながら、ウォーダ軍の現在位置から自分達がいる惑星ウェイリスまで、真っ直ぐな光のラインをNNLを使って引いて言葉を続けた。両眼の上の額に短い角が生えるラムニア星人である。
「そしてこれがウォーダ軍の予想針路。このオウ・ルミル宙域を抜けて、キヨウを目指すのであれば指揮中枢のあるここ、クァルノージー城の機能を奪っておく必要があります。そのためには最短距離で向かって来るに違いありませぬ」
これに対し、表示された予想針路を見上げたもう一人の宿老、褐色の肌のヒト種カトラス・ジザ=ゴードンが見解を述べた。
「この針路で来寇するのであれば、まず我が球状防衛陣の中のワーデルマ星系を抜く必要がある。ここを防御の要とするべきだと思う」
カトラスの意見に何人かの重臣が頷く。ワーデルマ星系は侵入したウォーダ軍から本拠地星系オウ・ルミルに向けて、一直線に伸びた予想針路を塞ぐ位置にあり、首都惑星ウェイリスを攻めるのであれば、まずこのワーデルマ星系の城を制圧しておく必要がある。
「カトラスの意見を是とする」
そう言ったのは当主のジョーディー=ロッガ。スキンヘッドで丸顔が特徴であるジョーディーは五十代後半のヒト種。歯痛持ちのように口の端を僅かに開けて息を吸うのが癖だった。
「全基幹艦隊のうち、半数の六個をここオウ・ルミル星系へ置き、残りの六個は隣接するミーテック星系へ置く。さらにワーデルマ星系には、周辺の星系から三個艦隊を集めて戦力を増強。ウォーダ軍がワーデルマ星系攻略に手間取っている間に、オウ・ルミルとミーテックから恒星間打撃艦隊と恒星間防衛艦隊を合わせて出し、二方向から挟撃するのだ」
重臣達が「おお…」と声を漏らすと、ジョーディーはシーシーと歯を鳴らしてのち、口許を大きく歪めてさらに続ける。
「そして挟撃を受けたウォーダ軍に、時間差を置いて各星系からの恒星間防衛艦隊が波状攻撃を仕掛けて、ノヴァルナめの命を含めて全てをすり潰す」
ジョーディーはさらに、ワーデルマ城周辺での戦闘開始に合わせ、“コーガ五十三家”部隊でウォーダ軍後方を襲撃、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを捕縛するか、もしくは殺害する事を命じた。毒を食らわば皿まで…といったところであろう。
ワーデルマ星系を主戦場にした、波状攻撃の罠…これならば、イマーガラ家に続いてイースキー家をも打倒したノヴァルナを斃せる。ジョーディー以下ロッガ家の武将達は、自信を深めていった………
ところでここに、一人の少年がいる。クァルノージー城を防衛する十八の支城の一つ、ヒーノス星系を領有する独立管領ガモフ家の当主カートビットの嫡男、十四歳のジークザルト・トルティア=ガモフだ。オークブラウンの長めの髪を後ろで纏め、理知的な印象の顔に緑色の瞳が目立つ。
ロッガ家の重臣の一人であり、惑星ウェイリスから帰って来た父のカートビットから、昨日の迎撃計画を聞かされたジークザルトは、十四歳とは思えない冷静さで父親に意見した。
「このままでは、我々は負けます。父上」
「なに?」
昼食中に突然言い返され、カートビットはナイフとフォークを持つ手を止め、訝しげな声を発する。
「我々は負ける、と申し上げたのです」
「何を言っている。おまえは」
「何度も同じ事を、申し上げる気はありません」
「我等が敗北すると言うのか」
「なんだ。聞こえておられるではありませんか」
さらりと言い放つジークザルトにカートビットは僅かに肩をすくめ、また始まったといった表情で、同席している妻のキリアと顔を見合わせた。ジークザルトはこのようにとぼけた事を言う反面、時折恐ろしく鋭い意見を口にして、周囲を驚かす事でガモフ家では有名であった。
「分散防御など、愚の骨頂です」
「愚の骨頂は、言い過ぎであろう」
嫡男の不躾な物言いに、カートビットは不快感を露わにする。しかしジークザルトはお構いなしだ。
「言い方など腹の足しにもなりません。それより事実を受け止めるべきです」
「またそのような…この計画の、何が気に入らんのだ?」
「ノヴァルナ殿には、わざわざこちらの計画に合わせて、攻めなければならない理由などないからです」
そう言ったジークザルトの言葉はまさに、ノヴァルナが『ヒテン』の中でミディルツに告げた思惑と一致していた。しかし納得できないのがカートビットだ。この男はロッガ家の中でも、堅物として知られている。
「惑星ウェイリスを十八の支城で相互支援するのは、ロッガ家の基本的な防衛方針となっているのだ!」
だがジークザルトも譲らない。
「ですからそれが、勝手な思い込みなのです」
▶#08につづく
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