銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第7話:目指すは皇都惑星

#08

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 ジークザルトの言いように、カートビットは段々と本気で腹を立てて来た。

「勝手な思い込みとは、聞き捨てならん! そこまで言うのならば、お主には他に妙案があるのであろうな!?」

 怒りを押し殺した声で問い質す父上に、ジークザルトは落ち着き払って応じる。

「各星系で分散防御などせずに、ウェイリスを集中防御すればよいのです。実際にノヴァルナ殿は、オ・ワーリ=シーモア星系への集中防御で、イマーガラ家を撃退したではありませんか」

「あれはギィゲルト殿が、ノヴァルナ殿の命を奪う事を目的としたからだ。ウェイリスのみを防御して、他の星系を焼き払われたりすれば、オウ・ルミル宙域を治める星大名家の、沽券に関わることになろうぞ!」

「そんな事には、なりません」

 自ら示したロッガ家としての分散防御の根拠を、あっさりとジークザルトに否定され、カートビットはギリリ…と奥歯を噛み鳴らす。そのジークザルトは父親とは対照的に冷静なまま、自分の考えを理路整然と述べた。

「ジョシュア様を伴っての上洛はノヴァルナ様にとって、いわば“自分達の正義を示す遠征”…罪もない領民の住む植民惑星を、焼き払うような真似はなされますまい。このオウ・ルミル宙域におけるノヴァルナ様の狙いは、無事にジョシュア様を通過させるため、ジョーディー様を打ち破って、首都惑星ウェイリスを無力化する事のみ。したがって我等としてはウェイリスに戦力を集中し、ノヴァルナ様を迎え撃てばよいのです」

「む……」

 カートビットは堅物で通っているが愚将ではない。息子の物言いに怒りを爆発させるのではないかと、妻のキリアが不安そうな顔を向けるが、正論として聞くべき点は聞くだけの度量は有している。そしてジークザルトは、十四歳という年齢にしては大人びた笑みを浮かべ、さらに付け加えた。

「ですが、最上の妙案はノヴァルナ様を迎え撃たず、お味方する事でしょう…」



 若き才能の煌めきとは恐ろしいものである。それから四日後の皇国暦1563年4月22日、ジークザルト・トルティア=ガモフが指摘した通り、ロッガ家の迎撃作戦は僅か一日で崩壊した。
 ノヴァルナは戦略の常道とされる戦力の集中の逆をいき、上洛軍を三つに分けると、ロッガ家が想定していたワーデルマ星系だけでなく、挟撃部隊となるはずだった基幹艦隊を置いていたミーテック星系と本拠地オウ・ルミル星系へ、分散攻撃を仕掛けて来たのだ。
 
 戦力の分散は戦術の下策とされる。特に敵の方が数的優位にある場合、分散する事で個々の戦力が低下し、各個撃破される危険度が増すからである。これは今回のオウ・ルミル星系攻略戦が、まさにそうであった。

 ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを乗せ、後方に置いた二個艦隊は、攻略戦には参加しない。代わりに陸戦隊や輜重しちょう部隊を護衛している艦隊を回したとしても、攻略戦に使えるのは最大で十個。
 これに対して、ロッガ家は十二個の基幹艦隊に加え、戦力的には劣るが各支城に駐屯する恒星間防衛艦隊が十八個もあり、ロッガ家の球状防御陣戦略によれば、数だけ見ても、ウォーダ軍の三倍となる。それを考えると、ノヴァルナの取った分散戦術は、愚策中の愚策に思える。

 しかしそういった常識を打ち破るのが、ノヴァルナ・ダン=ウォーダの真骨頂であった。

 ノヴァルナは予め高々度ステルス艦―――潜宙艦を本拠地星系オウ・ルミルと、球形防御陣を形成する十八の恒星系すべてに、数隻ずつ派遣していた。そしてそれらが傍受したロッガ家の通信量の偏りから、迎撃の主力となる部隊がオウ・ルミル星系とミーテック星系におり、前方のワーデルマ星系の防衛部隊がこちらを足止めしている間に、両方向から挟撃する作戦である事を見抜く。そこで対抗策として考え出したのが、この一見、無謀と思える分散戦術だ。

 ワーデルマ星系への最終統制DFドライヴを控えた上洛軍は、その手前で細長く広がるエティガン星雲を越えたところで、全部隊を三つに分けた。
 そして通常の分散戦術とは、違う動きが始まったのはここからである。三つに分けた部隊の内、先行してワーデルマ星系に向かったのは、ミノネリラのリーンテーツ=イナルヴァら“ミノネリラ三連星”の三個艦隊。残る七個艦隊は星系外縁部で一時待機する。
 これをジョーディーをはじめとするロッガ軍総司令部は、ノヴァルナがこちらの挟撃作戦に気付いて、主力部隊に備えさせているのだと判断したが、むしろ分散した事で戦力比がさらに開き、戦闘がより優位になったと、ノヴァルナの判断の甘さ嘲笑。予定通りにオウ・ルミル星系とミーテック星系から、六個の基幹艦隊と二個の恒星間防衛艦隊を出撃させる。

 一方のウォーダ軍はロッガ家の動きを、潜宙艦部隊の監視によって正確に把握。オウ・ルミル星系とミーテック星系からの迎撃部隊主力が、それぞれの恒星系外縁部に達し、ワーデルマ星系に向けて、統制DFドライヴを行ったのとタイミングを合わせ、意外な行動に移る。ロッガ軍総司令部が、ワーデルマ星系外縁部で迎撃部隊を待ち受けているものと判断していた、ウォーダ軍七個艦隊がどこかへ向けて、二手に分かれ統制DFドライヴを行ったのだ。
 
 この時のノヴァルナがとった戦術は、ミディルツ・ヒュウム=アルケティに舌を巻かせ、デュバル・ハーヴェン=ティカナックをして、“ノヴァルナ様はやはり敵には回したくないお方”と感嘆させた。

 ロッガ家の迎撃艦隊が、ワーデルマ星系へ超空間転移で到着するのと入れ替わるように、ウォーダ艦隊が向かったのはオウ・ルミル星系とミーテック星系である。

 オウ・ルミル星系とミーテック星系にウォーダ軍が転移して来た事に、ロッガ軍総司令部は驚愕し、動揺した。ワーデルマ星系に差し向けた迎撃艦隊主力を呼び戻そうにも、一度DFドライヴを使用してしまうと、次の重力子チャージが完了する約八時間後まで、戻っては来られないからだ。
 そうなると星系を防衛できるのは、城と星系防衛艦隊しかなくなる。しかもワーデルマ星系からの情報では、残ったウォーダ軍三個艦隊も城へ攻めて来ず、どこかに姿を消したらしい。星系内にいるのは間違いないだろうが、広大な恒星系の中で探し出すのは簡単ではない。つまりはロッガ軍迎撃艦隊主力は戦わずして、最短でも約八時間は無力化されたも同然となってしまった。

 しかもさらに意外であったのは、ウォーダ軍主力が向かったのが本拠地星系のオウ・ルミル星系ではなく、これに隣接するミーテック星系だった事だ。ノヴァルナ以下五個艦隊半の大部隊が出現。ミーテック支城と、恒星間航行能力を持たない星系防衛艦隊一個に対して、圧倒的戦力をぶつけて来たのである。
 首都星系オウ・ルミルに隣接する位置にあるミーテック星系だが、実際の位置関係はオウ・ルミルより奥になり、ここが陥落すると、オウ・ルミルから後方の航路の大半が断たれる。この戦略的要衝を先に押さえようというのが、ノヴァルナの目的であった。



 ただノヴァルナによって驚かされたのはロッガ家だけではない。味方のウォーダ軍もである。ミーテック星系支城の攻略を命じられたのが、トゥ・キーツ=キノッサだったからだ。

「いいっ!! 俺っちですか!?」

 ノヴァルナからの直接通信で、支城攻略部隊の指揮を命じられたキノッサは、思わず頓狂な声を上げた。それもそのはず、キノッサが率いる第2護衛艦隊は、上洛軍の物資補給を担当する輜重部隊の護衛を目的としており、戦力的にも重巡8・軽巡4・駆逐艦16・軽空母2と、それほど強力なものではない。

 無論キノッサの懸念は、ノヴァルナも最初から承知の上だ。

「おう。俺の第1艦隊の残りを、ナルガごとてめーに貸してやる。それで何とかして見せろ」




▶#09につづく
 
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