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第7話:目指すは皇都惑星
#14
しおりを挟むナルガヒルデ=ニーワスは、ノヴァルナがBSHOで戦場へ出ている際に、全艦隊の指揮代行を任されるほど、今や信頼を置かれている。それだけに宙雷戦隊の分離のタイミングは完璧であった。そしてその宙雷戦隊―――第2宙雷戦隊を指揮しているのは、元『ホロウシュ』の筆頭ナルマルザ=ササーラだ。昇進したササーラは、ノヴァルナ直卒の第1艦隊を構成する宙雷戦隊司令官へ就任している。
第2宙雷戦隊旗艦である軽巡航艦『ファム・バンサー』の艦橋で、ササーラは司令官席に座る事無く、仁王立ちになって指揮を執っていた。普段でも怒っているような厳つい顔が特徴の、ガロム星人のササーラが仁王立ちになっていると、本物の仁王像のようにも見える。
「2宙戦各艦は散開。個々に敵の宙雷艇を迎撃せよ!」
ロッガ家の宙雷艇部隊が数隻ずつバラバラに行動している事から、ササーラは個艦で宙雷艇を撃破するように命じた。宙雷艇は主兵装の宇宙魚雷は大きな脅威ではあるが、これさえ警戒すればその他の装備は、僅かばかりのブラスターキャノンぐらいだ。機動性に富んだ軽巡や駆逐艦にとって、火力的に敵ではない。
ササーラの命令に従って、旗艦『ファム・バンサー』を含む四隻の軽巡と、十隻の駆逐艦は、思い思いのコースに変針。合わせて即座に攻撃態勢を取る。第1艦隊所属の宙雷戦隊だけあって、動きに隙は無い。
「方位281プラス18。敵宙雷艇3」
電探科オペレーターの報告に、『ファム・バンサー』の砲術長が攻撃を命じる。瞬時に左方向へ一斉旋回する六基の主砲塔。そして僅かに主砲の砲身が上を向いたかと思えば、一瞬後にオレンジ色の曳光粒子を纏ったビームがほとばしった。
軽巡『ファム・バンサー』は、建造から十年は経つ比較的古い艦である。そしてその間、常に第1艦隊第2宙雷戦隊旗艦を務めているベテラン艦であった。無駄な動きが一つも無く放たれた主砲は、初弾からロッガ家の宙雷艇を捉える。キノッサ艦隊に接近していた三隻の宙雷艇は、まず先頭を行く一隻が閃光と共に爆散。これを見て回避行動に移った残る二隻も、程なく仕留める。この光景にニタリと相好を崩したササーラは、キノッサに通信を入れた。
「キノッサ殿。宙雷艇は我等に任せて、攻城に専念されよ」
「こ、これはササーラ様。心強い限りにございます!」
ここでも攻城部隊司令官として、自分の方が上位ながら腰の低いキノッサに、ササーラはやれやれといった表情になって告げる。
「相変わらずだな。貴殿は」
腰は低くとも、やるべき事はやる。敵の宙雷艇部隊を追い散らすのはササーラに任せて、キノッサは直卒の艦隊に第1艦隊の重巡部隊を従え、ハートスティンガーの艦を露払いに、ミーテック宇宙城へ急接近した。
そこへ別方向から回り込み、先に射点に到達したナルガヒルデの戦艦戦隊が、主砲射撃を開始する。
「全艦、高速機動戦を行いつつ旗艦と同一箇所に砲火を集中。城のエネルギーシールドに過負荷点を生成し、誘導弾の一斉発射で穴を開けます」
ナルガヒルデの命令で、指揮下の五隻の戦艦は個々に高速回避運動を行いつつ、主砲を射撃し始めた。旗艦『ローバルード』も前面へ出て、果敢にビームを放つ。
無論、ミーテック宇宙城も、射程圏内に踏み込んで来たナルガヒルデの戦艦戦隊に、城塞砲を撃ち返して来た。司令官のイズモルト=ジョルダーは、ハーヴェンの情報通り長距離射撃に長けた人物らしく、早くも一隻の戦艦のアクティブシールドが、戦艦主砲を上回る城塞砲のビームを喰らって吹っ飛ばされる。
しかしミーテック宇宙城にも欠点はあった。それは城塞砲をはじめとする、迎撃火器の数の少なさである。以前に述べた通り、ロッガ家は本拠地であるクァルノージー城を中心に、十八の支城が球状に配置されて相互支援を行う、防衛戦略をとっていた。そのために各支城は艦隊への補給と整備機能が優先され、防御火力そのものはそれほど高くはなかったのだ。
ナルガヒルデ指揮下の個々の戦艦が猛撃を行うと、城の多くはない火砲もこれに対抗せざるを得ない。キノッサの艦隊は城の反対側に出て主砲射撃を始めながら、BSI部隊を発艦させた。ナルガヒルデの戦艦部隊より劣る主砲の火力を、BSI部隊で補うためだ。
ミーテック宇宙城の城主イズモルト=ジョルダーも、宙雷艇部隊指揮官のビラック・ゲルバ=タティーヴも、確かに有能な人物ではある。ただキノッサ側にもナルガヒルデやササーラといった、城側の指揮官を上回る人材は揃っていた。
そして敵を知れはその弱みも知れて来る。ジョルダーは長距離砲戦は得意だが、それは機動性を持つ艦隊を指揮しての事であるし、魚雷戦が得意なタティーヴも軽巡と駆逐艦で構成された、宙雷戦隊指揮官としての事で、動けない城や小型の宙雷艇での防御戦は勝手が違って、能力を生かしきれない部分があった。ナルガヒルデやササーラは、そこを突いたのである。
分離と連携を巧みに組み合わせた、ナルガヒルデとササーラの部隊行動により、必然的にミーテック城に防御の手薄な箇所が発生し、キノッサ艦隊の攻撃を容易にしてしまう。
城塞砲の大半をナルガヒルデの戦艦部隊と砲撃戦に回し、手薄になった個所をキノッサ艦隊に執拗に攻められたミーテック宇宙城は、それから一時間を経たずして降伏の意を示した。第八惑星付近で星系防衛艦隊が、ノヴァルナとルヴィーロの部隊に撃破された事と、ワーデルマ星系と本拠地オウ・ルミル星系にもウォーダ軍が出現しているという情報。そしてアーザイル家とトクルガル家の艦隊まで、領域に侵入して来たという情報を合わせ、孤立無援の状況でこれ以上の抵抗は、いたずらに兵を死なせるだけだという、城主ジョルダーの判断によるものだ。
するとここで、キノッサがまたもや彼らしい態度を見せた。ホログラム通信で直接降伏を申し出て来たジョルダーに、キノッサは勝利した自分の方から先に頭を下げ、礼の言葉を口にしたのである。
「よくぞ降伏して下さいました、ジョルダー殿。我等はジョシュア・キーラレイ=アスルーガ様のご上洛のため、ただこの宙域を通過したいだけにございますれば、お互いの兵を無駄に損なう事は、避けたく思っておりました。賢明なご判断にお礼を申し上げます」
聞きようによっては卑屈とも捉えられるキノッサの言葉だが、告げた相手にそうは思わせないのが、キノッサの持ち味だった。さらにキノッサは直ぐにノヴァルナに報告を上げ、その場で保証を取り付けるとジョルダーに対して、ノヴァルナの名で領地を安堵する旨を伝える。
元々降格人事でジョーディー=ロッガに不満を持っていた、ジョルダー達ロッガ家指揮官は、これで一気にノヴァルナ側に与する事となった。さらに続けてこの事を報告して来たキノッサに、総旗艦『ヒテン』へ戻っていたノヴァルナは、不敵な笑みで言う。
「やれば出来んじゃねーか、キノッサ」
正面戦闘での初勝利を褒めるノヴァルナに、キノッサは照れ笑いを交えながらも謙虚さを失わずに応じた。
「てへへ。いえいえ、これも全部、軍師のハーヴェン殿や副司令のコロック殿。それにノヴァルナ様にご増援頂いた、ニーワス様やササーラ様のご助力の賜物にて。わたくしめは皆様から具申頂いた案を、採用させて頂いただけにございます」
キノッサのこの物言いに、ノヴァルナは「ふん…」と鼻を鳴らして、不敵な笑みを大きくする。それはキノッサに対し、今回の攻城戦の結果に、合格点を与えた証左であった。ただノヴァルナも、元来のへそ曲がりは失っていない。
「次はもうちっと、歯応えのある課題をくれてやる。楽しみにしとけ!」
▶#15につづく
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