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第7話:目指すは皇都惑星
#15
しおりを挟むミーテック宇宙城が降伏したのは、ロッガ家の想定より相当早かった。これにはハートスティンガーとハーヴェンが進言した、速攻策の影響も大きい。
さらにロッガ家の防衛戦力の主体であった基幹艦隊群は、ウォーダ軍の作戦に翻弄されて全く戦闘に関与できず、八時間もの時間を無駄に費やして重力子チャージを完了。本拠地星系のオウ・ルミルに引き返したものの、先に到着していたウォーダ軍の第6艦隊と第1艦隊の半数に追いつくには、時差が大きすぎる。
そして基幹艦隊が去り、ミーテック星系同様孤立無援となったワーデルマ星系の支城と守備隊は、全くの逆方向から悠然と現れた、“ミノネリラ三連星”の艦隊に対し、無抵抗で降伏した。この辺りはミーテック城の降伏と、攻め手の“ミノネリラ三連星”の異名に、ワーデルマ城側が畏怖した事も大きい。
そして本拠地星系のオウ・ルミルであるが、こちらでも思わぬ事が起きた。ロッガ家当主のジョーディー=ロッガが、重臣連中と共にクァルノージー城を捨てて、戦わずして逃走したのである。
それはミーテック城が降伏後、僅か三時間後の出来事であった。カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊と、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータが預かった第1艦隊の半数が、ロッガ家の本拠地惑星ウェイリスへ迫り、さらに別動隊としてノヴァルナがミーテック星系で分離した三個艦隊が、ウェイリスからの退路を断つ動きを見せた事で、当主ジョーディーは嫡男ゲルバードと主だった重臣を従え、温存していた高速空母部隊で脱出。ウォーダ軍の別動隊に捕捉される前に、本拠地星系オウ・ルミルから離脱した。
「ふーん…」
総旗艦『ヒテン』の司令官執務室で、ジョーディー=ロッガの逃走に関する、各艦隊からの報告を受けたノヴァルナは、それを伝える副官のラン・マリュウ=フォレスタに、どこか気のない返事をしていた。
すでに『ヒテン』はキノッサ艦隊と合流し、ミーテック星系を離れてオウ・ルミル星系へ向かっている。続けられるランの報告によれば、ジョーディーらを乗せた空母部隊からと思われる暗号通信を、先にオウ・ルミル星系へ向かっているブルーノ・サルス=ウォーダの第4艦隊が複数回傍受。予想では“コーガ五十三家”の本拠地である、コーガ恒星群に逃げ込むようであった。
「トクルガル様の艦隊からの報告によれば、別行動中であった“コーガ衆”の艦隊も、コーガ恒星群へ引き返しているようです」
「そいつは有難いこった」
ここでも興味なさげにノヴァルナは応じる。おそらくジョーディーは、一時的にコーガ恒星群へ移動し、軍の立て直しを図るつもりなのであろうが、ノヴァルナの頭の中では、クァルノージー城を捨てた時点で、ロッガ家の敗退はすでに決定的であったのだ。
実のところノヴァルナの方でもロッガ家の内情は把握しており、二年前の“クァルノージー城騒動”によって、ロッガ家の屋台骨は大きく揺らいだ事を、知っていたのである。
その騒動の元凶であるジョーディーと嫡男のゲルバードが、居城を捨てて逃亡したとなると戦略的理由であっても、家臣達―――特に、今までロッガ家に従って来ていた、独立管領達の気持ちが離反するのは確実だった。
皇国暦1563年4月24日。惑星ウェイリスの衛星軌道上に進駐したウォーダ軍宇宙艦隊に、クァルノージー城は無血開城する。その前後に、ワーデルマ星系から引き返して来たロッガ家基幹艦隊群も、本城が降伏した以上、ウォーダ軍への抗戦の意志は見せず、第九惑星付近で武装解除に応じた。
ヤヴァルト銀河皇国の名門貴族で、かつては星帥皇室の最大の支援者であった、ロッガ家が一夜にして凋落してゆく姿を見て、クァルノージー城と相互支援を行うはずの十八の支城は、ノヴァルナがクァルノージー城に入ると、ほぼ全てが先を争うように恭順の意を示して来る。これには抵抗したミーテック城と城主のイズモルト=ジョルダーに対しても、ノヴァルナが温情を見せて、領地を安堵した事が大きかった。ロッガ家家臣達の離反を予想していたノヴァルナにすれば、“案の定”といったところだ。
ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを乗せて後方に待機させていた、第12艦隊がウェイリスへ到着したのは二日後の4月26日。クァルノージー城へ降下したジョシュアは、謁見の間で玉座を空けて待っていたノヴァルナと重臣達に対し、労いの言葉を掛けた。
「ノヴァルナ殿。こ…此度の働き、天晴であった。まこと天下無双の強さ。これから…これからも余と皇国のために尽くしてもらいたい」
「は…勿体なきお言葉。これもみな、ジョシュア様の御威光の賜物にて」
正直、ノヴァルナにすればほとんど意味を成さない、ジョシュアの慰労の言葉であった。たどたどしさがあるのはおそらく、側近のトーエル=ミッドベル辺りが用意した原稿を、急いで暗記でもしたのだろう。
それでもここはノヴァルナも謹んで受け入れる。今回の遠征はあくまでも、ジョシュアが主役の上洛戦であり、ウォーダ家はそれに従っている事になっているからだ。もっともひと昔前のノヴァルナであれば、どのような反応を見せたかは分からないが…
「ノヴァルナ公にはのちほど、ジョシュア様より感状を賜る。どうぞお受け取り下さりますよう」
感状とは、戦功を褒め称える“賞状”の事であった。これもまたノヴァルナにとっては、意味の無いものだったが、「ありがたき幸せ」と言って、片膝をついたまま頭を下げる。
ノヴァルナが玉座の間を退出すると、ジョシュアは玉座から側近のトーエルに振り向き、頼りなさげに尋ねた。片田舎の惑星で考古学に没頭していた星帥皇未満のこの若者は、いまだ学生然としており、兄のテルーザのような鋭い刃物を思わせる覇気が感じられない。
「トーエル…ノヴァルナ殿には、あれで満足してもらえたのだろうか?」
「無論にございます。今回の感状はジョシュア様が発された初の感状。その価値が分からぬノヴァルナ様では、ありますまい」
トーエル=ミッドベルの口調には、ジョシュアを安心させるため以上に、自身もそう信じている節があった。これに対して隣に立つ義弟のフジッガ・ユーサ=ホルソミカは、微かに首を捻る。芸術的センスに優れたフジッガだが、武将としても有能なこの男は、ノヴァルナと対面した時に一目で、相手がそういった慣習に、価値を見出さない人間だと理解していたのだ。
そしてまたジョシュアも安心したように、「そうかそうか」と何度も頷く。これを見るフジッガの眼は、何事を想っているか図り知る事は出来なかった。
一方のノヴァルナは謁見の間をあとにすると、真っ直ぐに衛星軌道上に浮かぶ総旗艦『ヒテン』へ向かった。ロッガ家の十八の支城から届いた恭順の申し出の処理が、途中であったためである。ノヴァルナからすればオウ・ルミル宙域に長居するつもりは全くなく、出来るだけ早く通過して、NNLシステムのハブステーションがある、ク・トゥーキ星系へ入らねばならないからだ。
シャトルを使って『ヒテン』へ上がり、その足で執務室へ入ったノヴァルナを、妻のノアが出迎える。
「中継見てた。ジョシュア様への拝謁、お疲れ様」
頷いて「おう」と返事し、紫紺の軍装の上着を脱ぐノヴァルナ。その上着を受け取ってやりながら、ノアはさらに言う。
「大人しくしてて、偉い偉い」
「は? なにがだ?」
訝しげな眼をして振り返るノヴァルナに、微笑むノアはどこか、からかうような口調で告げた。
「だって昔のあなただったら、感状もらってもその場で、“こんなもんいらねー”とか言って、放り出して帰って来てたでしょ」
「俺はだって、いつまでもガキじゃねーし」
どうだか…といった顔で上着を持ち、クローゼットへ向かうノア。ノヴァルナはロッガ家の各支城から届いていた、恭順を示す請願書類のホログラム書類を、執務机の上に展開する。先に降伏したミーテック城とワーデルマ城を除き、十六の書類があるはずである…ところが請願書は十五通しかない。恭順の意を示していない支城がまだあるようだ。
“十五通しかねぇだと?…まだ逆らう気でいる奴が居んのか、面倒臭ぇ”
そう思ってノヴァルナは各支城のデータを、別のホログラムスクリーンに呼び出して、恭順の請願書を出していない支城の名を照会した………
▶#16につづく
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