183 / 526
第7話:目指すは皇都惑星
#13
しおりを挟むキノッサの命令で回線がつながると、通信ホログラムスクリーンが開き、厳つい顔の大男が映し出される。
「どうかしたッスか、親分」
昔の上下関係の癖で今でも、つい“親分”と呼んでしまうキノッサを、ハートスティンガーは苦笑いと共に窘めた。
「おいおい。今の親分はそっちだろうがって、いつも言ってるだろ」
「こりゃどうも…」
手指で頭を搔くキノッサに、ハートスティンガーは本題を伝える。
「ここは一旦、撤退すると見せ掛けて…そうさな、四十分ほど置いて、城に再攻勢をかけてはどうだ?」
「再攻勢ッスか?」
ハートスティンガーの提案に、キノッサは考える眼になった。損傷艦が続出している現在の自軍の状況は芳しくない。再攻勢を仕掛けるにしても四十分後では早過ぎであり、各艦にもっとしっかりとした応急修理と、補給・整備を行ってからにするべきだとも思う。
「四十分は、どんなもんスかねぇ…」
煮え切らない返事を返すキノッサ。そこでハートスティンガーは、四十分の理由を告げた。
「警戒する人間の集中力ってのは、何も起きなきゃそんぐらいで一旦緩むもんだ。その隙を突いて一気に城へ接近して、まず城塞砲を破壊するのさ」
「………」
なおも考えるキノッサ。自分が攻城作戦の指揮を任されているのであるから、慎重にならざるを得ない。今回は“スノン・マーダーの一夜城”作戦のような、ペテンじみた作戦ではなく、敵の支城を陥落させる正面作戦としては、初めての経験なのだ。するとそこに軍師であるハーヴェンから、主観的意見が出された。
「私もハートスティンガー殿の提案を、別の理由からも支持致します」
キノッサは「それは?」と訊きながら、顔を振り向かせる。
「今の敵の動きで、我々が停止した事に対し、宙雷艇部隊は反転攻勢も、追加増援も行って来ませんでした。これはおそらく、ほぼ全ての宙雷艇が魚雷を撃ち尽くしたのだと思われます。となると今は城内で、新たな魚雷を装填し、それに合わせて補給や乗員の休息が行われているはず。それらが完了してしまう前に、再攻勢を仕掛けるのは、理に適っております」
家臣達の意見を正しく判断し、容れるのも指揮官の才である。キノッサはハートスティンガーとハーヴェンの言葉に納得して、「わかったッス。それでいくッス」と大きく頷いた。確かにこちらの損害状況を見ればリスクはあるが、このまま同じ事を繰り返しても、ジリ貧になるだけだ。指針が決まった以上、キノッサに躊躇いはない。
「四十分後に、ミーテック城へ急進開始するッス。それまでに出来る限りの、応急修理と補給を行うッス!」
キノッサの命令でミーテック城攻略部隊は、城のある第五惑星近郊から一時的に第六惑星公転軌道の近くにある、小惑星帯へと後退した。無論これはハートスティンガーとハーヴェンの進言を採用した作戦である。ウォーダ家に召し抱えられる前は、鉱物資源の採掘と密売を行っていたハートスティンガーが、小惑星帯へ向かう途中の通信で悪党顔をして言ったものだ。
「逃げたと見せ掛けて、仕掛ける…コイツはどっちかってぇと武人じゃなくて、裏稼業同士の喧嘩のやり方だがな」
果たしてキノッサらの思惑通り、ミーテック宇宙城の司令官イズモルト=ジョルダーはじめ指揮官達は、小惑星帯まで後退したウォーダ軍攻城艦隊が、戦力の立て直しに入ったものと判断した。そして再攻勢までには三、四時間は掛かるものと見積もりを行う。それはまさにキノッサが本来、艦隊の立て直しに費やそうとしていた時間である。
これはキノッサの最初の思考が誤っていたのではなく、むしろ正しかったというべきであろう。ハートスティンガーが告げた通り今回の作戦は邪道であって、イズモルト=ジョルダー達は有能であるがゆえに、セオリーに基づいた判断を行ったのだ。そこでミーテック宇宙城守備隊は、宙雷艇部隊への修理と補給、乗員の休養に入った。
そして、そのまま四十分が経つ―――
「時間ス。全艦発進、最大戦速!」
キノッサの命令一下、再び動き始めるミーテック宇宙城攻略部隊。損傷艦のほとんどは、まだ修理率が二十パーセントにも満たない。しかしそれらを含めてすべての艦が小惑星帯から抜け出し、艦の速度を一気に最大へと持って行った。
「急げ、急げ! いま俺達に必要なのは一に速度、二に速度、三四がなくて、五に速度だ!!」
そう強い口調で煽るハートスティンガーは、自分からこの作戦を持ちかけただけに、自身が乗る重巡航艦で先陣を切って突っ走る。おかげで艦隊は陣形も何もあったものではなくなった。しかしそれがかえって、ミーテック宇宙城側に焦りを誘発させる。宇宙魚雷の補充を終えた宙雷艇から次々と発進を開始するが、統制を欠いた数隻ずつの襲撃では脅威にはなり得ず、迎撃されて追い払われるだけだ。
するとさらにキノッサのもとへ意見具申が行われる。増援の第1艦隊のナルガヒルデからであった。その内容を聴き、キノッサは即座に許可を出す。そこから見せたナルガヒルデの指揮ぶりは巧妙だった。戦艦戦隊と宙雷戦隊を分離、宙雷戦隊にミーテック宇宙城の宙雷艇部隊を“狩らせ”、戦艦戦隊はさらに別方向へ移動しながら城へ接近。キノッサの直卒部隊と二手に分かれて、城への砲撃を開始したのである。
▶#14につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる