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第12話:天下の駆け引き
#17
しおりを挟むカールセン=エンダーと妻のルキナは、今から八年前、皇国暦1589年のムツルー宙域へトランスリープしてしまった、ノヴァルナとノアを救ってくれた恩人であった。今のノヴァルナとノアがここに居られるのも、このエンダー夫妻と出逢う事が出来たためと言っても過言ではない。その後、この世界へ戻る際、危機に陥ったエンダー夫妻を守るため、やむを得ず二人も連れ帰った。
ただ夫妻はノヴァルナのもとに留まる事無く、時代と世界線は変わってしまったが、ムツルー宙域で暮らす事を選択。現地ではノヴァルナから貰った、“ウォーダ家の紹介状”が功を奏し、星大名ダンティス家へ仕官できたのであった。
またダンティス家といえば、皇国暦1589年の世界でノヴァルナと、親友の間柄になったマーシャルが思い浮かぶが、現在はまだマーシャルは生まれておらず、父親のティルムールが当主である。
今回、ゲイラの漫遊がムツルー宙域や、銀河皇国にとって最果ての地となる、エゾン宙域にまで及ぶ事を聞いたノヴァルナは、事前にゲイラに連絡を入れ、状況が許せばダンティス家で、カールセンにも会って欲しい旨を伝えていたのだ。
「まずお伝えしたいのは…ご夫妻、そして二人のお子様も、ご壮健であったという事にございます」
ゲイラがそう切り出すと、ノヴァルナとノアは僅かに眼を見開いた。二人目の子供が出来たのは、初耳だったからだ。ただゲイラは、子供の話はそこまでにとどめておく。ノヴァルナとノアの間にはまだ子供がおらず、後継者が重要な星大名という立場をも考慮しての事だ。
「さらに今年に入って、カールセン様はダンティス家内で、その地位を大きく上げられたそうです」
「ほう。それは?」
芽出度い話に、ノヴァルナは表情を明るくする。
「直属の家老が謀叛を企んでいる事を察知し、ティルムール様に事前に通報。これを阻止した事が、大きく評価されたとか」
それを聴いたノヴァルナは苦笑いを浮かべた。カールセンは以前はアッシナ家に仕えていた事もあり、この時の上司レブゼブ=ハディールも問題のある人物だったのだが、この経験から上司の怪しげな行動に対する警戒心が、強くなっていたのかも知れない。
「無論。カールセン様が今を時めくノヴァルナ様と、懇意のご関係にある事も、その地位を高める大きな要因となっている事は、疑い無き事にて」
ゲイラが、世辞などを言う人物では無いのを知るノヴァルナは、この言葉に照れ臭そうに頭を軽く下げる。
しかもゲイラが持ち帰ったのは、エンダー夫妻の現状報告だけではない。ナイフとフォークを一旦置いたゲイラは、上着の内ポケットから、メモリースティックの小さなホルダーを取り出した。大きさは人間の小指ほどであろうか。蓋を開くと、中には細く透明な六角柱をした、メモリースティックが二本入っている。
「私があれやこれやと申し述べるより、こちらをお渡しした方が、話は早いでしょう」
ゲイラはそう言いながら、ホルダーをノヴァルナに差し出す。「これは?」と問うノヴァルナにゲイラは穏やかな笑顔で答えた。
「一本にはエンダー夫妻から、お二方への画像メッセージが入っております」
「なるほど。それでもう一本は?」
この質問にゲイラは表情を変えず、口調だけをやや硬くして述べる。
「“例の件に関するデータ”とだけ、お伝えするようにと」
「そうですか。ありがとうございます」
二人揃って笑顔で礼を言うノヴァルナとノア。しかし二人とも“例の件”と聞いて、表情にこそ出しはしなかったが内心で緊張していた。“例の件”とはつまり、ムツルー宙域に存在する謎の恒星間建造物、“超空間ネゲントロピーコイル”に関するデータに他ならないからである。
エンダー夫妻がムツルー宙域へ戻ったのも、この謎の建造物を極秘裏に調査するというのが、理由の一つでもある。元の世界ではかつて、アッシナ家に仕えていたカールセンが、ライバル関係にあるダンティス家に仕官したのも、この建造物がダンティス領内に位置するためであった。
ゲイラからスティックを受け取ったノヴァルナは、気負いも見せず「食後の楽しみが出来ました」と告げ、さりげなくノアに渡した。メモリースティックにデータを入れたのは、NNLを使うと自分達の動きが、相手に察知される可能性があるという事を、ノヴァルナ達とエンダー夫妻で共有しているからだ。
その相手とは、可能性としてだが『アクレイド傭兵団』が考えられる。そして傭兵団がバイオノイド:エルヴィスを製造し、銀河皇国のNNLシステムそのものへ介入した事から、そういった事が可能な集団として、警戒感を強めていた。
一方のゲイラも単なる銀河漫遊に留まらず、時にはこういった他の星大名宛の、極秘めいた譲渡物を預かる場合もあるので、必要以上に関心を示す事は無い。ゲイラが星大名間で重宝され、どこかの星大名に捕らえられる事無く、銀河中を旅できるのも、こういった重要な役目を持っている、と言うのもある。
▶#18につづく
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