316 / 526
第12話:天下の駆け引き
#18
しおりを挟むノヴァルナとノア、そしてゲイラとの夕食を兼ねた会談は、それから一時間半ほど続き、ムツルー宙域周辺でダンティス家を取り巻く、モルガミス家やセターク家にウェルズーギ家、さらに皇国暦1589年の世界でノヴァルナが戦った、アッシナ家などに関する話も聞く事が出来た。
もっとも現在はまだ、ダンティス家も対外的に大きな戦いを起こしておらず、小競り合いと、外交のせめぎ合いを繰り返しているに、とどまっているようだ。
そして会談の最後に、ゲイラはノヴァルナに「ひとつ、真意をお尋ねしたいのですが…」と、真顔で切り出す。
「何なりと。私はナクナゴン卿に対しては、嘘偽りは申しません」
「ノヴァルナ様はこの度、“銀河布武”を公式に標榜されたそうですな?」
「はい」
「覇気に富んだお言葉ですが、要らぬ敵を作る、危険なお言葉でもあります…それをご理解された上での、ご発言と考えて宜しいのでしょうな?」
ゲイラが問い質したのは、先日ノヴァルナが公式にぶち上げた、“銀河布武”という、パワーワードについての真意であった。
聞き取りようによっては“銀河を武力で平伏させる”と、まるで全ての星大名に挑戦状を叩きつけたとも思える、過激な言葉であるのは間違いない。
酒の飲めないノヴァルナは、ワイン代わりに用意させたグレープジュースを一口啜ると、「無論です」と応じて続けた。
「私の“銀河布武”とはあくまでも、“銀河皇国を復興させるための武力を、我等ウォーダ家が担う”という意味です。強い印象を与えたのは、その決意を内外に示すためです」
「なるほど…」
「勿論の事、我等に賛同し、協力してくれる星大名は、どこであろうと、幾らでも歓迎致します。しかしながら…」
「しかしながら?」
「自らの星大名家と領国の利益のみを求め、必要以上の野心を抱く者は、この“銀河布武”の意味を曲解し、我等に対する開戦の口実にするはずです」
ゲイラの眼を真っ直ぐ見詰めて、静かに語って来るノヴァルナ。これを聴いたゲイラは「ふーむ…」と声を漏らしながら、難しい表情を浮かべる。眼の前の若き星大名が、危険を承知で賭けに出ようとしている覚悟を、感じ取ったからである。語る言葉の中身は分かるが、下手をすればまた新たに、強大な敵を生み出しかねず、そしてその可能性は高いと言わざるを得ない。
「銀河皇国はもう百年も、戦国の世を続けて来ました。同じ事をあと百年、続けるわけには参りません」
ノヴァルナは、きっぱりと告げた。
「新たな敵を生み出し、それらを倒してまで、戦国の世を終わらせる…それが、ノヴァルナ様のお覚悟なのですか?」
真剣な眼差しのゲイラに尋ねられ、ノヴァルナは一度、ノアと顔を見合わせてから、「仰る通りです」と応じる。
「残念ながら今の時代は非情です。軍事力という力の背景が無ければ、他家との話し合いもできません。しかも相応の戦力を保有していなければ、話し合いにおいても足元を見られるだけ。力無きものが沈黙を強いられる時代は、終わりにしなければならないのです」
「ノヴァルナ様…」
敢えて困難な道を歩まれるか…胸の内でそう呟いたゲイラは、それもまた良し、と思った。
皇都惑星キヨウを勢力下に収め、自分の息のかかったジョシュア・キーラレイ=アスルーガを、星帥皇の座に就けた事で、ノヴァルナはひとまず立ち止まってもいい時を迎えた。足場を固め、日和っている勢力に腰を据えて説得して味方に付け、自らの権力とウォーダの家勢を大きく飛躍させる伸長期、あるいは充電期と呼ぶべきものに入ってもいい時期である。
だがしかし、ノヴァルナ・ダン=ウォーダという若者にとってそれは、停滞であるらしい。ついて来られるものだけを従えて、さらに先に進むつもりなのだ。そしてその性急な歩みは無論、より大きな波乱を生み出すのを、認識した上の覚悟に基づいている。
するとノヴァルナはゲイラの想いに勘付いたかのか、ふと遠い眼をして呟くように言った。
「生前…爺が、私の後見人であった次席家老のセルシュ=ヒ・ラティオが、最期の瞬間に私に言い残したのです。“思いのままに征け”と。だから私は…立ち止まる事は致しません」
「………」
ノヴァルナの幼少の頃からの後見人であった、ナグヤ=ウォーダ家次席家老のセルシュ=ヒ・ラティオは皇国暦1556年、“恒星ムーラルの戦い”でイマーガラ家宰相のセッサーラ=タンゲンと、相討ちとなって六十有余年の生涯を終えた。
ノヴァルナにとって悲しみに満ちたその別れは同時に、自分自身が感じた使命に対し真摯に、そして停滞する事無く邁進する事への、誓いとなったのである。
無言で考える眼をしていたゲイラは、「ノヴァルナ様のお覚悟、承りました」と大きく頷いた。おそらくノヴァルナ自身が想像している以上に、困難が待ち受けているであろうが、最後までこの意志は貫き通されるであろう。
「この上は、ノヴァルナ様の武運長久を祈らせて頂きます」
そう告げて三人の会食は終わりを迎えた………
▶#19につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる