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第12話:天下の駆け引き
#19
しおりを挟むそしてゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナが懸念した通り、この頃すでにノヴァルナが打ち出した、“銀河布武”というパワーワードが各方面に広がり、新たな火種を生み出していた。それも強大な力を持つ、銀河各地の有力星大名家に…である。
まずはカイ/シナノーラン宙域星大名のタ・クェルダ家。こちらはイマーガラ家の勢力が衰退した、トーミ宙域やスルガルム宙域へ進攻し、領地を広げる戦略のため、ウォーダ家と同盟を結んでいる。だが当主のシーゲン・ハローヴ=タ・クェルダは、この“銀河布武”宣言に口惜しさをを禁じ得なかった。
トクルガル家を交えた同盟が、ウォーダ家のジョシュアを伴った上洛を支援する事になるのは理解していたものの、自他ともに認める武闘派星大名の自分を差し置いて、“銀河に武力による覇権確立”まで謳われるとなると、出し抜かれた気分にもなろうというものだ。
次いでは、そのタ・クェルダ家の宿敵である、エティルゴア宙域星大名のウェルズーギ家。銀河に正義を為すを矜持としている当主、男装の麗人武将ケイン・ディン=ウェルズーギも、ウォーダ家によるジョシュア上洛の動きを、注意深く観察していたが、ノヴァルナの“銀河布武”をやはり苦々しく思った。
頭脳明晰なケインは“銀河布武”に込められた、ノヴァルナの真意をも読み取ってはいたが、こういった危険な賭けに出る事自体、銀河に号令する人間のやるべき事ではないと、否定的な見解を示している。
またこの両家とせめぎ合いを続けている、サンガルミ/ムサッシ宙域の星大名であるホゥ・ジェン家は、そもそもイマーガラ家と深い繋がりがあるため、“銀河布武”云々の前に、ウォーダ家そのものに対して敵愾心を持っている。
さらにイーセ宙域星大名のキルバルター家。こちらもロッガ家同様、ミョルジ家側に寝返っており、端からノヴァルナの言動を敵視している。
一方、『アクレイド傭兵団』が新たな契約先とした、アン・キー宙域のモーリー家もまた、ノヴァルナの“銀河布武”を苦々しく感じていた。
当主後見人のモータナル・シェス=モーリーは、実は放浪時代のジョシュアの、アン・キー招聘を考えていた時期があり、キヨウまでの距離と言う地理的な問題さえなければ、自分達モーリー家がジョシュアを伴って、上洛を果たすべきであったと、不満を募らせているのもその要因となっている。
だが、このような星大名以上に、“銀河布武”という言葉を敵視し始めていた者達がいる。それは皇都に住まう者達―――バルガット・ヅカーサ=セッツァーをはじめとする、上級貴族達であった。
ノヴァルナとノアがゲイラと会食している一方、皇都惑星キヨウでは『ゴーショ行政区』の一画にある、再建されたばかりの高級料亭に集まる十二人の陰がある。他でもない、バルガット・ヅカーサ=セッツァーと上級貴族達だ。
海洋惑星ファビエンダで捕獲された、今が旬のファビエンダウスベニガ二のしゃぶしゃぶを食しながら、密談を行っていた。ファビエンダウスベニガ二は殻の直径が三メートルもある大きな蟹で、大味なイメージを与えるが、薄紅色の脚肉は甘さを含んだ濃厚な味わいとなっている。
「…にしても、ノヴァルナ公。困ったものですな」
男性上級貴族の一人が、薄くスライスした蟹肉を箸で口に運びながら、探るように言う。それに別の貴族の男が、小さな陶器の盃を満たした酒を飲み干し、頷いて応じる。
「さよう…“銀河布武”などと、少々はしゃぎ過ぎでは」
「それに皇国の武力を、ウォーダ家が担うなどと言ってはいるが、要はミョルジ家と同じ事。我々貴族院を無視して、武力を背景に星帥皇室を、支配したいだけであろう」
さらに別の上級貴族も苦々しげに言った。するとまた別の貴族が、「おお、その事よ」と反応して杯を空け、酒気を帯びた吐息と共に文句を垂れ始める。
「私の持つ荘園星系の一つは、傭兵団の連中に荒らされており、その復興を急ぐための優先権の付与を、ジョシュア陛下にお願いしたのだが、これが一向に認可されずにいてな―――」
「ふむ」何人かの貴族が相槌を打つ。
「あまりに遅いので、側近のミッドベルを通じて陛下にお尋ねしたところ、なんとウォーダ家が認可を差し止めており、星帥皇室としては如何ともし難い、との返答だったのだ!」
「それはまた…」
「横暴な!」
不満の声を漏らす複数の上級貴族。だたこれに関しては、ウォーダ家側に正当な理由がある。
この貴族の言っている、“所有する荘園星系が傭兵団に荒らされた”のは事実だが、“荒らされた”中身は、この貴族が直接経営する広大な農場を無断で、廃棄された宇宙艦や宇宙ステーションの解体場に変えられた、というものだった。
つまり損害を受けたのは、キヨウとは無関係のこの貴族の私有地であり、荒廃した皇都惑星キヨウで暮らす、民衆のための復興を最優先としているウォーダ家にすれば、急を要する案件ではないというのが、認可差し止めの理由である。
無論この理由は、当の上級貴族にも伝えられているのだが、どうやら当人は民衆の利益より、自分の利益優先であるようであった。
▶#20につづく
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