銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#02

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 二人の諜報局員にノヴァルナは「二人ともご苦労」と声を掛け、「報告を聞かせてくれ」と促す。「はっ」と応じて一歩前に進み出たのは、ハーリントン大佐だ。恰幅のいいこの男が部長を務める諜報局第二部は、敵対勢力に対する諜報活動を担当する危険な部署であった。

「半年前にご命令を頂きました、“ミョルジ三人衆”の新たな資金源が、判明致しました」

 ハーリントンの言葉に頷くノヴァルナ。ノヴァルナは、新年早々に皇都を襲撃して来た“ミョルジ三人衆”が、アーワーガ宙域へ撤退後に予想以上の早さで再侵攻を行った事を不審に思い、何者かが戦費に対する経済支援を行ったのではないかと推測。諜報局にその調査を命じていたのである。

「結論から聞かせてくれ。三人衆を資金援助しているのは、何処のどいつだ?」

「二連自治星系のエイザンにございます」

 重要事項を勿体ぶりもせず、ハーリントンは端的に伝えた。その名を聴きノヴァルナは僅かに顔をしかめる。

「エイザンだと…?」

 エイザンとは皇都キヨウのあるヤヴァルト宙域内の、オウ・ルミル宙域との境界近くに位置した二つの自治星系だ。タウ・ヒーエスとシーメイの二つの植民星系によって構成されており、両星系の距離は約1.2光年しか離れていない。
 元々はイーゴン教の総本山イシャー・ホーガンのある、オ・ザーカと同じような宗教団体による自治星系であったが、約二百年前に銀河皇国から自治権を得た頃には、すでに住民の間で信仰心は薄れてきていた。さらに現在に至り、信仰心はほとんど失われてしまっているらしい。

 そして現在のエイザンは宗教星系ではなく、強大な金融星系と化しているといわれていた。ヤヴァルト皇国が惑星キヨウから、シグシーマ銀河系全体に版図を広げる際、これまでの宗教活動で得た膨大な資産をもって、銀河皇国の様々な箇所に貸し付けを行い、天文学的な利益を上げて以来、多くの…特に辺境宙域で、戦費の捻出に苦慮している星大名へ、金融支援を行っているとされている。

 ハーリントン大佐は、やや後ろに立つフォーゼッタ大尉に視線を遣り、ノヴァルナに告げた。

「彼女の率いるチームが、エイザンに近いビルガシーマ星系でエイザンの金融システムに侵入し、“ミョルジ三人衆”との交渉内容や経済支援のカネの流れを入手。持ち帰る事に成功致しました」

 これを聞いてノヴァルナは、考える眼になる。ここに来て自治星系エイザンが、皇国中央の争いにちょっかいを掛けて来るとは、思わなかったからだ。
 
「こちらがその、エイザンと三人衆との関係を示す、データを集めたものです」

 そう言ってハーリントン大佐は、フォーゼッタ大尉に目配せする。「はっ」と小さく応じたフォーゼッタ大尉は、軍装の胸ポケットから、細長い小さなカプセルを指先で摘まんで抜き出し、蓋を開けた。中に入っているのは透明な六角柱型の、メモリースティックである。

「どうぞご確認ください」

 フォーゼッタ大尉が捧げるように差し出したメモリースティックを、ノヴァルナは受け取って、執務机に内蔵されたコントロールパネルにセットする。すると執務机の上に、複数枚のホログラムスクリーンが浮き上がり、様々なテータを映し始めた。それらは何かの会談の動画映像であったり、グラフであったり、どこかの恒星間銀行の口座記録であったり、何らかの重要事項を記した電子書類であったり…どれも諜報局員が、命懸けで入手して来たものだろう。半年でこれだけの情報が集められたのは、大きな成果だと言える。ホログラムスクリーンの内容を、一通り確認したノヴァルナは顔を上げ、フォーゼッタに労いの言葉を掛けた。

「ご苦労だった大尉。短期間でこれだけの情報を、よく集めてくれた。礼を言う」

「ありがとうございます」

 表情を変えずに頭を下げるフォーゼッタ。事務的なやり取りだが、星大名家当主と現場指揮官の距離を思えば、それでいいのである。ここで自分にに求められるのは、いつもの砕けた調子ではなく、フォーゼッタとその部下達の労に対する、真摯な対応だという事を、ノヴァルナは知っていたからだ。

 そして言ってしまえば、ノヴァルナにとって一番重要なのは、集められたデータの中身ではなく、そこから諜報局が導き出した、“二連自治星系エイザンが三人衆を支援していた”という、事実のみなのである。その事実を導き出すために、命を懸けるのが諜報局の任務であり、そこから得られた情報で、ウォーダ家全体の戦略を練る事が、ノヴァルナのしなければならない仕事であった。

「悪いが、エイザンそのものに関する状況も、報告書にまとめて提出してくれ。期限は俺が、イーセ宙域から戻るまででいい。二週間程度で戻る予定だ」

 ノヴァルナは、ハーリントンとフォーゼッタにそう命じて下がらせ、執務机の上のホログラムを宇宙地図コスモチャートに切り替えると、二連星系エイザン周辺の恒星群を呼び出した。
 皇都キヨウのある、ヤヴァルト宙域…昨年までロッガ家が支配していた、オウ・ルミル宙域…アーザイル家が支配圏を広げつつある、オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群…そして、アザン・グラン家の支配するエテューゼ宙域…エイザンを取り囲んでいる勢力図に、ノヴァルナは何を思ったのであろうか………




▶#03につづく
 
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