銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#01

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 皇国歴1564年の年明け早々に起こった、“ミョルジ三人衆”の軍勢による皇都急襲。そこから約半年が経ち、年始の不穏な空気を引きずるように、ウォーダ家と星帥皇室との距離は次第に開き始めていた。

 その最大の原因は星帥皇ジョシュアの―――ノヴァルナに言わせれば独善的な、諸宙域の星大名家への干渉だ。

 問題の発生はまず1月。三人衆を撃退した直後、星帥皇ジョシュアと貴族院は、ノヴァルナに相談する事無く、アン・キー宙域星大名モーリー家と、ブンゴッサ宙域星大名オルトモス家の紛争に介入。それぞれに上級貴族の一人を使者として遣わし、紛争状態にあった両家に和睦を勧めようとした。新星帥皇ジョシュアによる、新たな銀河皇国の秩序の回復の、第一歩という名目でだ。

 ただこれは、アン・キーとその周辺宙域に強大な勢力を持つモーリー家に、皇都を襲撃して来た“ミョルジ三人衆”の本国、アーワーガ宙域へ侵攻させるのが裏の目的であった。つまりは私怨のようなものである。
 そしてこの仲裁は、両家の和睦条件の調整が上手くいかず、失敗に終わった。ろくな外交経験のないジョシュアもそうだが、上級貴族達の目先の事しか考えていない外交施策が、成功するはずもない。そもそも今のモーリー家は勢力拡大のため、あの『アクレイド傭兵団』と契約を結んでいるではないか。

 ギーフィー城でこの話を聞かされたノヴァルナは、怒りより先に呆れの感情が沸き上がり、この若者には珍しく、乾いた笑い声を発しただけであった。
 契約が全ての『アクレイド傭兵団』であれば無論、数ヵ月前まで蜜月関係にあったミョルジ三人衆にでさえ、容赦なく攻撃を仕掛けるであろう。ノヴァルナが呆れたのはそれらを知ったうえで、モーリー家にアーワーガ宙域侵攻を持ち掛けようとした、上級貴族達の厚顔無恥さだ。


 さらに2月に入るとジョシュアと上級貴族はこれも独断で、年始の三人衆撃退に功のあったセッツー宙域の独立管領、カトラス=イ・クーダとティーカウォック=イ・ターミ、そして元“コーガ五十三家”で幕臣のコレット=ワッダーの三人で、セッツー宙域を分割統治する事を命じる。
 その後“セッツー三守護”と呼ばれるようになる彼等だが、宙域には他の独立管領も居り、統治に関する星帥皇室の仲介調整が不十分であったため、早くも様々な軋轢を生じ始めていた。

 最初は批判的な眼で見ながらも静観していたノヴァルナだったが、三守護の支配下に入れられた、他の独立管領からの苦情はやがて、ノヴァルナの方へ訴えがもたらされるようになる。星帥皇室が動かないため、実力者のノヴァルナへ相談を持ち掛けて来たのだ。
 この時ノヴァルナは、星帥皇ジョシュアの銀河皇国への従属を拒んでいた、キルバルター家が治めるイーセ宙域への進攻を準備しており、皇国内の各勢力に余計な軋轢を生み出したくはなかった。

 そこでノヴァルナは、出陣の挨拶を兼ねてキヨウに上洛した際、各所から不満の声が起こり始めている事を、自分の口で直接ジョシュアに上奏し、十六か条からなる意見書を提出。速やかな善処を要請する。これに対しジョシュアと上級貴族達は承諾の意を示したが、特に上級貴族達の反応は煩わしそうに見えた。

 出陣前とあって皇都に長居も出来ないノヴァルナは、駐留中の防衛艦隊司令官のミディルツ・ヒュウム=アルケティとフジッガ・ユーサ=ホルソミカ、そしてマスクート・コロック=ハートスティンガーに、星帥皇室の動きをよく見張っておくように命じて、ミノネリラへの帰途につく。
 いまだ星帥皇室から超空間ゲート運用権の分与は受けていないが、年始に実験的に行った“超空間リレー転移”が、ヤヴァルト星系とミノネリラ星系の間で、僅かながら正式稼働を始めており、上洛に使用した戦闘輸送艦『クォルガルード』と五隻の護衛艦は、翌日にはバサラナルムへ到着していた。

 するとギーフィー城へ入ったノヴァルナに、諜報局から報告したい事があり、担当官を待機させているという連絡がある。情報部と聞いて心当たりがあるノヴァルナは、イーセ宙域進攻部隊に出航準備を続けさせながら、執務室に諜報局担当官を呼び寄せた。

 心当たり…というのは、昨年夏に故国のアーワーガ宙域へ撤収した“ミョルジ三人衆”が、短期間で戦力を立て直し、約半年後に皇都惑星キヨウに侵攻して来た事に対する情報収集。特に不足するはずの戦費の不自然な抽出に関して、新たな協力者が三人衆に現れたのではないか、という疑念について、諜報局に調査を命じた話だ。

 待ち時間を利用して、主君への上申書に眼を通し、認可の成否をサインしているノヴァルナに、副官のラン・マリュウ=フォレスタが、諜報局担当官の到着を告げる。そのまま通すように告げ、椅子の背もたれに上体を預けるノヴァルナの前に、軍装姿の五十代半ばの男と三十代前半の女性が現れ、綺麗な敬礼を見せる。

「諜報局第二部部長、ビング=ハーリントン大佐であります」

 男性士官に続いて女性士官が自己紹介する。

「同じく第二部、グリエラ=フォーゼッタ大尉です」

 グリエラ=フォーゼッタと名乗った女性士官は数日前、ビルガシーマ星系第五惑星のゼバンハで、何者かの操縦する反重力機の襲撃から生き延びた女だった。




▶#02につづく
 
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