銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#03

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 皇国歴1564年6月30日。ノヴァルナはイーセ宙域星大名キルバルター家征圧軍を進発させる。艦隊戦力は中央集団とミノネリラ宙域軍、オウ・ルミル宙域軍から抽出した五個基幹艦隊である。

 戦力的に些か少ないようにも見えるが、実はこれに先立って3月、重臣のカーズマルス=タ・キーガーが自身の配下の特殊陸戦隊を率いて、オ・ワーリ宙域とイーセ宙域の国境近くにあったキルバルター側のカーニェ星系に侵入。城の乗っ取りに成功しており、それをきっかけにイーセ宙域の複数の独立管領が、ウォーダ家側に寝返っていた。これらの独立管領が提供した戦力を合わせると、キルバルター家の戦力を大きく上回る事になる。

 またさらにノヴァルナが直卒する第1艦隊に随伴する形で、ヨッズダルガ=クーギスとその娘のモルタナが指揮する、『クーギス党』の海賊艦隊も参戦していた。
 彼等の艦隊は正規なものではなく、いずれも旧式な重巡航艦8・軽巡航艦20・駆逐艦12・軽空母4という変則的な編制で、“海賊艦隊”の名の通りに小部隊に分かれて、敵側の通商破壊を行う事を目的としていた。

 このような『クーギス党』海賊艦隊であるから、本来なら大規模な正面作戦には参戦しないのであるが、かつてイーセ宙域のシズマ恒星群に住んでいた『クーギス党』にとっては、彼等を武力で故郷から追い出したキルバルター家との決着は、三十年越しの悲願というわけであり、ノヴァルナとしても参戦させて然るべき措置だったのだ。

 そのモルタナは自分の艦隊指揮は父親に任せ、総旗艦『ヒテン』へ乗り込んでいた。出身地であるイーセ宙域の情報には詳しいモルタナであるため、参謀格としてノヴァルナのもとへ呼ばれたのである。


 ギーフィー城を発って翌日。航行に落ち着きが出てきたところで、ノヴァルナはモルタナを昼食に誘っていた。男女間で“誘う”と聞くと、余計な想像を膨らませがちだが、ノヴァルナとモルタナの関係は、性別を超えた“戦友”的なものである事はウォーダ家で知らぬ者は無く、『ヒテン』の中を二人でうろついていても、誰もそういった目で見たりはしない。

「で、誰だい? あたいに会わせたい、人間ってのは?」

 総旗艦だけにある主君用の食堂で、向かい合って座るノヴァルナに、モルタナは問うた。食事が運ばれる前に会わせたい人間がいると聞いたからだ。プライベートな時間ならばモルタナにはこれまで通り、ノヴァルナに大して対等な関係が許されている。
 
 モルタナの問い掛けにノヴァルナは不敵な笑みを浮かべ、インターコムのスイッチを入れて「おい、入って来い」と告げる。その言葉に応じて「失礼します」若い男の声が、ノヴァルナの背後のドアの向こうから聞こえた。そしてドアが開き、入室して来た相手に、モルタナは僅かに眉を顰める。一瞬誰か分からなかったのだろう、しかしすぐに眼を見開いて言う。

「あんた。ヤスークかい」

 モルタナの視線の先に立ったのは、ヤスーク=ハイマンサ。ノヴァルナやモルタナ達が一年前、偽りの星帥皇バイオノイド:エルヴィスと対面するために、アルワジ宙域に向かった際に出逢った、黒人の少年であった。

 ヤスークは元はとある人身売買組織が、クローン技術を悪用して作り出した、高い身体能力を持つ強化奴隷であり、密林に覆われたユラン星系第三惑星のジュマに不時着した、人身売買組織の宇宙船の唯一人の生き残りである。
 宇宙船に搭載されていた、教育コンピューターの“フロス”のおかげもあって、公用語の会話能力と、基礎的な一般知識は備えていたヤスークたったが、当時の暮らしぶりは野生児に近いものだった。

 ただ現地でのヤスークの活躍には目覚ましいものがあって、その功績を認めたノヴァルナはこの少年を連れ帰り、自分の護衛兼事務官として召し抱えるため、再教育を施す事にしたのである。そしてその約一年がかりの再教育が終了したのだ。

 その姿は不時着した宇宙船の船内作業着に、ボサボサの髪だった当時とは打って変わり、黒いスーツに髪もきちんと分けられて、主君の護衛官らしくなっていた。

「ご無沙汰しております。モルタナ=クーギス様」

 姿勢を正し、軽く頭を下げて、硬い口調で挨拶の言葉を告げるヤスーク。その変貌ぶりにモルタナは、思わず口をポカンと開ける。

「どうだ? それらしくなったろ?」

 自慢げに言うノヴァルナ。ところが見違えるほどのヤスークを眺めていたモルタナは、次第に怪訝そうな表情になった。やがて視線をノヴァルナに移して、真剣な眼差しで見据える。

「な…なんだよ、その眼は?」

 期待外れのモルタナの反応に、ノヴァルナは渋面になった。その顔を覗き込むようにして問い質すモルタナ。

「まさかあんた…この子を、洗脳したんじゃないだろうね?」

 モルタナはヤスークのあまりの変わりように、この少年がウォーダ家によって、洗脳されたのではないかと危惧したのだ。だが「んなわきゃねーだろ!」と、ノヴァルナは強く否定した。




▶#04につづく
 
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