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第14話:齟齬と軋轢
#12
しおりを挟むかつてのミョルジ家は代々、ホルソミカ家とヤーマナ家の二大上級貴族派閥のうち、ホルソミカ家支持派武家階級の中心的存在にあった。
両上級貴族家が、全面的な武力衝突を起こした“オーニン・ノーラ戦役”でも、ホルソミカ家側に立って多くの戦功を挙げ、戦役の勝利に大きく貢献したミョルジ家は、ナーグ・ヨッグが当主となった頃までは、まさに蜜月関係だったのである。
ところがそのような関係は、長くは続かなかった。今から約二十年前、ナーグ・ヨッグに暗殺の危機が訪れたのだ。
未然に察知したナーグ・ヨッグは幸いにも難を逃れ、皇都惑星キヨウから脱出。セッツー宙域の拠点へ入城したのだが、そこでナーグ・ヨッグが知ったのは、自分の暗殺を計画した黒幕が、時の摂政でミョルジ家が代々支持していた、ホルソミカ家のハル・モートン=ホルソミカだという事であった。
ハル・モートンが摂政であったこの時代、すでに上級貴族達は“オーニン・ノーラ戦役”の戦勝に奢り、現在のように自らの権勢に溺れ、私利私欲に走ろうとしていた。これをナーグ・ヨッグは常々苦々しく思っており、星帥皇と上級貴族が構成する星帥皇室の、改革の必要性を訴えていたのであるが、それがハル・モートンや上級貴族には目障りとなって来ていたのだ。
そしてナーグ・ヨッグが目障りの理由はもう一つあった。
キヨウのあるヤヴァルト宙域とその周辺宙域で、同じように星帥皇室と上級貴族達に不満を持つ武家階級勢力から、多くの支持を集め始め、反星帥皇室の旗頭とされるようになった事である。
当時の武家勢力は個々であれば、星帥皇室に太刀打ちできるものではなかった。しかしそのような小勢力でも、多数が集まれば脅威となる。ハル・モートンと上級貴族は、早めにその芽を摘んでおこうと、ナーグ・ヨッグの暗殺を目論んだのだ。
しかもこの企てには当時の星帥皇で、テルーザ・シスラウェラ=アスルーガの父親、ギーバル・ランスラング=アスルーガまで加わっていた。
議論を重ねてより良い方向を見出すのであればともかく、首魁と目されている自分を暗殺して、反抗勢力の分解を図ろうとする皇国のやり方に、心底失望したナーグ・ヨッグは、皇国行政の根幹をなすNNLシステムの完全自動化と、超空間ゲートの独占運営権の開放を目的として、賛同する勢力の糾合に本格的に着手したのである。
するとこれを知った皇国は1549年、セッツー宙域へナーグ・ヨッグ討伐軍を差し向けて来た。この討伐軍を指揮するのは、ナーグ・ヨッグと同じミョルジ一族の傍流で、政敵であったマルーサ=ミョルジだ。一族の内訌を皇国に利用された事も、また腹立たしい。
そしてミョルジ家と皇国軍は皇国暦1549年6月12日、セッツー宙域のエィグティ星雲で激突した。
この戦いは、周辺星系も巻き込んで約二週間も続き、皇国側司令官のマルーサ=ミョルジの戦死をもって、ミョルジ側の勝利に終わる。
ただ双方ともこの会戦の結果、艦隊戦力の消耗が予想以上に激しく、その後の戦略に大幅な変更が余儀なくされる事となった。
そしてこのような状況でミョルジ家に接近して来たのが、『アクレイド傭兵団』である。強大な艦隊戦力を有する傭兵団は、消耗したミョルジ軍主力に代わり、自分達が戦力の中核を担う事を申し入れて来たのである。
当初、ミョルジ家の当主ナーグ・ヨッグは、『アクレイド傭兵団』からのこの申し入れを一笑に付して、取り合わなかったという。
ところがこの直後、星帥皇室を支援する星大名のロッガ家が、対ミョルジ家用の艦隊戦力を、秘密裏に増強している事が明るみになった。
ちなみにこのロッガ家による、極秘の艦隊戦力の増強を露呈させたのは、当時十七歳であったノヴァルナの仕業によるもので、これを機に両者の因縁が発生したと言っていい。
これでやむを得ない状況に陥ったミョルジ家は、当初の方針を変更して、拒否していた『アクレイド傭兵団』との契約を決定。対星帥皇室戦力の中核に据える事となったのである。
その後、ミョルジ家はタイムスケジュールを繰り上げ、皇国側の戦力が整わないうちに、皇都惑星キヨウへ侵攻。星帥皇室を傀儡にして、自分達を裏切ったハル・モートンら、ホルソミカ家の勢力を皇国中央から排除した。
ミョルジ家側の主観に立てば、ここまでの流れは全て、銀河皇国側が自分達ミョルジ家を一方的に排除しようとして、陰謀を張り巡らせて来たもので、自分達からすれば、身を守るための戦いだったという事だ。
皇都を事実上の支配下に置いたナーグ・ヨッグが、次に考えたのは、正しい理念を失った星帥皇や上級貴族が、自分達の利益のために皇国の政治を壟断する事を、今後にわたってやめさせる…つまり、彼等の権力と収益の根幹をなす、NNLシステムと超空間ゲートの独占制御を廃止し、これらを自動化してしまう事であった。星帥皇テルーザを複製したバイオノイドを製造しようとしたのは、このシステムの自動化までの繋ぎとするもので、本来ならばエルヴィスという疑似人格も与えられる事もない、生体機械として誕生させるはずだったのである。ナーグ・ヨッグも、テルーザのバイオノイドに人格を与える事の、非人道的行為は理解していたのだ。
モーリー家が『アクレイド傭兵団』と接触し始めたのは、このミョルジ家がバイオノイド:エルヴィスの製造に、着手した時期であるという。
ナーグ・ヨッグの考えはその印象とは違い、当時の星帥皇テルーザに対して穏健的で、穏便に星帥皇の座を退いたのちは、相応の経済力を持つ植民星系に隠居し、好きなBSIパイロット道に励む生涯を、送らせるつもりであったようだ。皇都を荒らす『アクレイド傭兵団』第三階層のBSIユニットを、テルーザが自ら操縦する専用BSHO、『ライオウXX』で迎撃する事を黙認していたのも、すべてナーグ・ヨッグの宥和策の一環であったのだ。
新興星大名のモーリー家は当初、ナーグ・ヨッグの皇国改革の考え方を理解し、同調していた。宿敵オルトモス家との戦いも小康状態であったため、傭兵団の引き抜きを急ぐ必要もなかったというのもある。
だが疑心暗鬼を重ねたナーグ・ヨッグは心を病んで、皇国暦1559年に自死。ナーガス=ミョルジとソーン=ミョルジ、トゥールス=イヴァーネルの“ミョルジ三人衆”が、ミョルジ家の統治を始めるようになると、周囲の事態も大きく変わって来る。
“ミョルジ三人衆”はナーグ・ヨッグより世俗的で、自分達が星帥皇室になり替わって、銀河皇国の独裁支配を目論んでいた。
そんな彼等が考えたのは、当時製造中であったバイオノイド:エルヴィスを、単なるNNLシステムの自動化への繋ぎとしての生体機械ではなく、人格を持った一個体として、自分達の言いなりにNNLシステムを操作する存在として、利用する事であった。エルヴィスに前星帥皇テルーザの双子の弟で、愚行を繰り返す兄を討ち、自分を支援するミョルジ家と共に、銀河皇国に正しい秩序をもたらす事こそ、自分の使命だという人格と、疑似記憶を与えたのは、“ミョルジ三人衆”であったのだ。
そしてこの一連の動きを見ていたモーリー家は、三人衆が支配するミョルジ家から、距離を置く事を決定する。新たに勢力圏内に置いたイール・ワミ宙域で産出される、豊富な鉱物資源を基にした『アクレイド傭兵団』の引き抜き工作も、この戦略の一部だった。
傭兵団はモーリー家と示し合わせ、バイオノイド:エルヴィスが完全体ではないまま、つまり肉体の維持に生体部品の定期補填が必要なまま、“ミョルジ三人衆”のもとへ納入したのだ。そしてその直後、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガの上洛が起こり、モーリー家との契約が完了した『アクレイド傭兵団』は、“ミョルジ三人衆”から離反したのである。
▶#13につづく
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