銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#14

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 言い方こそ素っ気ないが、ノヴァルナの表情には面白がるものがあった。ジークザルトの前任者のキノッサなどもそうなのだが、自己主張のはっきりしている相手は、嫌いではないノヴァルナである。

 ジークザルトはキノッサを饗応役に選んだ理由を、ノヴァルナに過不足なく説明した。

 トゥ・キーツ=キノッサは対人交渉術に長けている。これは“スノン・マーダーの一夜城”の際は密輸集団を味方につけ、ミノネリラ宙域攻略戦ではイースキー家の武将複数名を寝返らせ、さらに浪人となっていた稀代の軍師デュバル・ハーヴェン=ティカナックを、自分の参謀長に迎え入れただけでなく、強大な経済力を持つザーカ・イー自治星系のトップ、ソークン=イーマイアとウォーダ家への従属交渉を、成功させた実績からも明らかだ。

 そんなキノッサをエーケースの饗応役としたのは、キノッサの人たらし・・・・の才能を見込んでの事だった。
 キノッサには、エーケースの為人ひととなりを見定めさせるとともに、個人的に友誼を結ばせようというのだ。そしてキノッサならば言わずとも、そうするであろうという確信がノヴァルナにはあった。

 そしてそのキノッサにエーケースとの友誼を結ばせる理由こそ、将来的にウォーダ家がモーリー家と敵対関係となった際、交渉の窓口を残しておくためである。
 今のところ開戦にまで至る可能性は低いが、万一の場合のための布石を、打っておくに越したことはないだろう。

 ジークザルトの返答を正解と認めたノヴァルナは、ニヤリ…と相好を崩して告げた。

「ま。サルの奴が、アンクルジーに出し抜かれなけりゃ…の、話だがな」



 その後エーケース=アンクルジーは、二週間の間バサラナルムに留まり、ノヴァルナとの会談を重ねただけでなく、各武将との面会や宇宙艦隊の演習視察に加え、バサラナルム各所の見物などの日々を過ごした。
 この間の饗応役はすべてキノッサが務めており、ノヴァルナの思惑通り、個人的な友誼も深めたようである。

 バサラナルム逗留の最終日となるこの日も、二度目の艦隊演習を視察。キノッサの旗艦『ヴェルセイド』に同乗して、ウォーダ軍中央集団を二分しての模擬戦闘を観戦していた。
 遠征用の中央集団は精鋭揃いで、演習であっても実戦さながらに白熱しており、各艦で飛び交う報告と命令の声にも緊迫感がある。

「いや…これは壮観ですな、キノッサ殿」

 旗艦『ヴェルセイド』の艦橋内に浮かぶ戦術状況ホログラムや、幾つもの光学映像ホログラムスクリーンに視線を巡らせ、エーケースは感嘆の声を漏らす。
 
 エーケースの賛辞にキノッサは、自分が総司令官でもあるかのように、「そうでありましょう!」と胸を張る。

「ノヴァルナ様が鍛え上げられた、ウォーダの将兵。いかなる相手にも引けは取りませぬ…すべては、“銀河布武”実現のためにございます」

「なるほど、銀河布武ですか」

「はい。銀河皇国に秩序と安寧を取り戻すのが、ノヴァルナ様の目指されるところにございますれば家臣一同、その剣となり、盾となる決意を固めております」

 ノヴァルナの方針に、盲目的に従っているように見えるキノッサ。その姿を背後から眺めて、エーケースは探るように疑問を伝える。

「しかし危うい言葉でもありますな。無駄に敵を作る事にもなりかねない、強すぎる言葉に思うのですが」

 するとキノッサは「いやぁ~」と右手で頭を掻きながら、エーケースに振り返って、苦笑いと共に応じた。

「残念ながら、仰る通りにございます。ですが今の戦国の世は、力が全て。これはノヴァルナ様のお言葉ですが、“話を聞かない相手はぶん殴ってでも、聞かせる事が出来る実力”が必要なのも、また真実でありましょう」

「ふーむ…」

 キノッサを見据え、小さく声を漏らすエーケース。この二週間に饗応役として、自分の傍らに居続けるこの小柄な若者が、見た目ほど単純な人間では無い、不思議で興味深い人物だという事が知れた。
 今の態度も、おそらくノヴァルナの“銀河布武”を、本心から全面的に信じている一方で、信じている自分を演じるもう一人のキノッサが、内面に潜んでいるに違いない。そして二律背反であるはずの相反する人格が、この若者に限っては奇妙な事に、矛盾せずに存在しているのだ。

“これは面白い若者であるな。そしてそれを見抜いて、重用するノヴァルナ殿も、これまた面白い…”

 そしてエーケースが興味を持ったのは、このキノッサだけではない。ウォーダ家の重臣達の大半が、まだ若いのも注目に値する。当主のノヴァルナもまだ二十代半ばだが、基幹艦隊の司令官のおよそ半数がノヴァルナと同年代である。後の半数は年長者であるが、元はイースキー家やロッガ家の武将、そしてウォーダの一族に連なる者達となっていた。
 こういった家臣編制であるから、ウォーダ家の気風そのものが若々しい。しかも若い武将達は皆、今の自分に奢る事無く、さらなる高みを目指そうとしていた。いま自分が観ている艦隊演習もそうであり、本物のブラストキャノンや宇宙魚雷こそ使用していないものの、各艦の動きを見れば、どれだけ真摯に取り組んでいるかが分かる。

“ノヴァルナ殿のウォーダ家…我等モーリー家が敵にするには、今はまだ荷が勝ちすぎるな”

 自分に艦隊演習まで包み隠さず見せたのは、もしそちらが本心では敵対するつもりであるなら、ウォーダ家の実力を見誤るな、というノヴァルナからのメッセージであると理解したエーケースは、この現状はアン・キー宙域に帰ってから、必ず報告しなければならない、と強く思ったのであった………


 
 エーケース=アンクルジーがアン・キー宙域への帰途に就いたその頃、タイミングをに計らっていたかのように、皇都キヨウを訪れる使者があった。モーリー家ではない。エテューゼ宙域星大名のアザン・グラン家からである。

 使者の名はヴァゼリエ=エヴァーキン。アザン・グラン家の重臣の中でも中心的な存在として、アザン・グラン家当主ウィンゲートの信任も厚い、五十代後半のヒト種の男だ。白髪を七三にきちんと分けている辺りに、実直さが感じられる。

 ジョシュア政権への従属を渋っていたアザン・グラン家からの、キヨウへの使者となると、普通に考えるなら従属の承諾か拒否かを、星帥皇へ奏上するためのもののように思える。ところが皇国行政府『ゴーショ・ウルム』へ入った、エヴァーキンが向かったのは星帥皇への拝謁ではなく、バルガット・ヅガーサ=セッツァーら上級貴族のいる、貴族院であった。

 小会議室の一つで会談するセッツァーとエヴァーキン。このアザン・グラン家からの使者は、星帥皇ジョシュアや側近達にも知らされていない。

「…計画の方、クェルマス殿もご同意下さり、こちらの手筈は、全て整いましてございます」

 エヴァーキンの報告に、セッツァーは眼を細めて「それは重畳」と頷いた。そして続く言葉には、不吉な響きがある。

「タ・クェルダ、ウェルズーキ、ホゥ・ジェンに続き、モーリー家が賛同した今こそが、奢れるウォーダ家に訓戒をたれる好機」

「仰せの通りにございます。我が主君ウィンゲートも、“銀河布武”などと大言壮語を吐く輩に従うわけにはいかぬと、強く申しております」

 エヴァーキンのノヴァルナ批判に、セッツァーは渋い顔で大きく頷く。

「さよう。“皇国の秩序を取り戻す”と口では言いながら、事もあろうに星帥皇陛下に対し、意見書を突きつける。これではミョルジ家が、キヨウに居座っていた頃と、何ら変わりませぬ」

「野心を現して来た…という事でしょうな」

 エヴァーキンが舌打ち顔で言い捨てると、セッツァーは表情を哀しげにして、ノヴァルナへの同情の言葉を述べる。無論、演技に過ぎないが。

「初心の頃は、真に陛下と皇国の行く末を案じての、上洛であったのだと思いまするが…いざ、皇国の中心たるキヨウを己が手中に収めてしまうと、ノヴァルナ公ほどの人物でも権力に眼が眩むのでしょう。まこと哀れな事です…」


革新の風を求めるノヴァルナに今、旧態依然を望む抵抗勢力という、逆風が強く吹こうとしていた―――


 



▶#15につづく
 
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