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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#26
しおりを挟むク・トゥーキ家が味方についた理由。まずはじめはヒルザードが述べた、簡易量産型『D-ストライカー』の大量使用による、殲滅砲撃戦術によるものだった。
ノヴァルナの『センクウ・カイFX』と、『ホロウシュ』が搭乗する二十機の親衛隊仕様『シデン・カイXS』による、超空間狙撃砲『ディメンション・ストライカー』の、敵艦隊各主力艦中枢への防御不能の超空間連続狙撃。
この恐るべき戦術を聞かされた時、ネッツァートはこれが本当に、実現化された戦術なのかを疑いはした。高齢のネッツァートをして初めて聞く戦術であり、実際の『D-ストライカー』を見た事もない以上、それほどの威力があるのかも不明である。
だが疑念を抱くネッツァートにヒルザードは、これが“実現化された”戦術で、『D-ストライカー』にはそれだけの威力が“ある”と断言した。
ヒルザードが展開した話法は、いわば大昔の“核兵器保有戦略”と、同種のものであった。皇都惑星キヨウが恒星間国家となる遥か昔、まだ統一が図られる以前の各国家が林立していた時代、幾つかの独裁主義の小国は“核兵器保有”の可能性を持たせる事によって、大国からの圧力に抵抗していた。そののちに起きた戦術核戦争で、これらの国は実際には、核兵器を保有していない事が露呈して滅んだが、少なくとも数十年の間は、生き残りに成功していたのである。
その次にヒルザードは『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』を有し、星帥皇室との繋がりも深いはずのク・トゥーキ家が、皇国直轄軍の資格を持つノヴァルナの軍に、攻撃を仕掛けようとしている事から、背後に皇国貴族院の存在があるに違いないと読み、上級貴族の思惑に乗る事の危険性を訴えた。
上級貴族による銀河皇国の事実上の支配は、時計を悪しき時代まで巻き戻すものであり、自分達武家階級はいずれ数々の制約を受けて、骨抜きにされていくに違いない事。一方、ノヴァルナ公が目指すものは、武家階級同士による戦乱の世を終息させ、皇国の秩序回復とそれに伴う、貴族階級の権益制限にある事を説くヒルザードに心を動かされたのは、後見人のネッツァートではなく、若き当主のモーテスだった。
幼い頃から、ク・トゥーキ家を存続させる事を、第一に教え込まれていたモーテスは、ここでノヴァルナと敵対して取り逃がした場合、上級貴族に自分達が切り捨てられる可能性に思い当たったのだ。物的証拠が無い以上…いや、物的証拠があったとしても、厚顔無恥な上級貴族達はノヴァルナに対して、“知らぬ存ぜぬ”を貫き通すだろう。
戦闘輸送艦『クォルガルード』は、ノヴァルナ専用艦として建造されただけに、身分が高い来賓に対する設備も整えてある。
会見を終了したモーテスとネッツァートを、ジークザルトに来賓用キャビンへ案内させたノヴァルナは、執務室に残したヒルザードと側近に労いの言葉を掛けた。
「二人とも、よくやってくれた。おかげで命拾いしたぜ」
これに対し、恭しく頭を下げて応じるヒルザード。
「ありがとうございます。これも偏に、ノヴァルナ様がこのヒルザードを信じて、彼らの説得をお任せ頂けたからこそにございます」
これに頷いたノヴァルナは興味津々といった眼になり、ヒルザードがどのようにク・トゥーキ家を説得して、味方に付けたのかを質問した。
別段、秘策というつもりでもなかったヒルザードは、ク・トゥーキ家の二人に告げた、簡易量産型『D-ストライカー』の集中使用による殲滅砲撃戦術を、ノヴァルナに開陳する。
するとその中身を聴いたノヴァルナは、「アッハハハハハ!」という高笑いと共に愉快そうに応じた。
「なんだそりゃ? ひでーハッタリじゃねーか!」
「それはもう。わたくしもその場の思い付きを、口にしたまでにございますれば」
「知らねーって事は、怖いってこったな!」
「さようにて」
実のところヒルザード自身も『D-ストライカー』の実戦使用を、自分の眼で見た事は無く、制約の多いこの兵器の的確な運用法など、考えた事もなかったのだ。
知らない者同士が、知らない兵器の運用法で脅し脅され、結果的に自分の命の危機が去ったのであるから、これもノヴァルナにとっては、運命の悪戯というものであろう。
「わかった。今回の功績には後ほど、これに見合った褒美を用意する。二人とも下がって休んでくれ。ご苦労だった」
ノヴァルナは穏やかな表情で、ヒルザードと側近を下がらせると、すぐに考える眼になった。“瓢箪から駒が出る”…今しがたヒルザードが解説した、『D-ストライカー』の殲滅砲撃戦術について笑い話をしている間に、脳裏に閃くものがあったのだ。
『D-ストライカー』のネックは、一発撃つごとに膨大なエネルギーが必要で、射撃の度に銃弾装填と、大型のエネルギーパックの交換を、行わなければならない事である。たとえ現状のまま量産化を進めても、この交換に要する時間が短縮できなければ、空間機動戦闘の主兵装としては使えない。しかし…と、ノヴァルナは胸の内で呟いた。
“三機一組の三段構えで射撃と装填、照準を繰り返せば―――”
ノヴァルナがヒルザードの架空の話から、新たな戦術のヒントを得ていた頃、そのヒントを与えた当人は遅めの昼食をとるために、側近を連れて悠然と『クォルガルード』の通路を歩いていた。
「ひと仕事…終えられましたな」
やや背後に下がって続く側近が、のんびりとした口調で話し掛ける。
「うむ…」
頷くヒルザード。興味深げに側近は問いを続ける。
「しかしながら、今回はまた随分と、ノヴァルナ公に肩入れなされたもので」
「それはそうであろう」
口角を上げたヒルザードに、古い付き合いの側近はさらりと言う。
「“売り時”を、考えられましたな?」
「フッフフフフ…お主、見抜いておったか」
裏切りの印象が強いヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガだが、今回のク・トゥーキ家の説得で見せた熱心さは、その印象を覆したように思える。ところがこの男の根底で稼働している思考回路はやはり、単純にノヴァルナへの忠誠を示すものではなかった。それが側近が口にした、“売り時”という言葉に集約されている。
「今、ノヴァルナ公を売り渡しても、足元を見られて買い叩かれるだけだからな。売るのであれば、充分に高値が付いてからよ」
そう続けるヒルザードの本心は、自分自身もノヴァルナと共にあって窮地に陥っているこの状況で、ノヴァルナを裏切って討ち取ったとしても、大して利益にはならないだろう、というものであった。
たとえヒルザードの秘めていた野心がどうであろうと、この状況でノヴァルナを殺害するなりして、ク・トゥーキ家やアーザイル家に差し出した場合、自己保身に走ったという理由付けが為され、申し訳程度の報酬…最悪、ヤーマト宙域内の領地の安堵という、現状維持に留まる可能性も高い。そしてそのような結末は、野心家のヒルザードにとって、到底受け入れられないものだった。
そうであるなら、ここはノヴァルナに生き延びる道を拓かせ、その中で大きな功績を立てた方が、今の時点ではより大きな報酬が見込める。これがヒルザードをして、自らク・トゥーキ家の説得に足を運ばせた、真の理由であったのだ。
恐ろしい計算を当たり前のように立てるヒルザード。しかしそんな男でも、舌を巻かざるを得ない事がある。
「だが、我を見ていたあの若造の眼…」
おそらくそれらの真意を全て洞察した上で、ノヴァルナは自分をク・トゥーキ家へ説得に向かわせたに違いない。ヒルザードは側近に振り向いて、攻撃的な笑みと共に続けた。
「思うた以上に、面白い」
▶#27につづく
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