405 / 526
第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#27
しおりを挟むク・トゥーキ家がノヴァルナ側について二日後、旗艦『クォルガルード』以下、ノヴァルナ分艦隊はク・トゥーキ家の恒星間打撃艦隊に護られて無事、ヤヴァルト宙域へ到達した。
程なくしてヤヴァルト宙域に駐屯している、フジッガ・ユーサ=ホルソミカと、マスクート・コロック=ハートスティンガーの艦隊も駆けつけて来て、万全の態勢をとる。オウ・ルミル宙域から出る間際になって、ノヴァルナ分艦隊の存在に気付いたアーザイル家の警備艦隊が接近して来たが、圧倒的な戦力差に手を出せないまま引き上げて行った………
しかしウォーダ軍の試練はまだ終わってはいない―――
「六番哨戒駆逐艦より、“敵艦見ユ。我ヨリノ方位252プラス15、距離およそ5万6千”!」
殿軍を務めている第36艦隊旗艦『ヴェルセイド』の艦橋に、オペレーターの緊張した声が響く。しかも報告はその一つではない。
「十一番哨戒駆逐艦より敵艦隊発見の報あり! 方位051マイナス08、距離約7万2千、艦数6」
新たな哨戒情報が戦術状況ホログラムに書き込まれ、敵艦のマーカーが、自軍の左右にそれぞれ追加表示された。間違いなく、追って来たアザン・グラン軍の主力部隊だ。司令官席に座るキノッサは大きなため息をつき、左手に抱えていたカップヌードン赤ミーソ味の、スープの残りを飲み干す。
「やっぱり、捕捉されちまったッスね…」
仕方ない…といった表情で話し掛けるキノッサに、傍らに立つ参謀長のハーヴェンは、苦笑いを浮かべて冗談を返す。
「夕食をカップヌードンで済まされて、正解でしたね。良きご判断でした」
「てへへ…」と笑い声を発したキノッサは、艦隊参謀に問い掛ける。
「全艦の重力子チャージ完了まで、どれぐらいッスか?」
「駆動系にダメージを受けた一部の損傷艦に、チャージの遅れが出ています。全艦の完了を待つのであれば、まだ四時間はかかります」
艦隊参謀の言葉はつまり、その一部の損傷艦を見捨てるなら、残りの艦はもっと早くDFドライヴを行って、このエリアから離脱できるという事を示している。ただこれはあくまでも艦隊参謀という立場からの、艦隊司令官への判断材料の提示であった。そしてキノッサには、損傷艦を見捨てる選択肢は無い。
「ここで損傷艦を見捨てて転移しても、次の転移先で捕捉されたら同じ事ッス」
そう応じたキノッサは席を立ち、ダストシュートまで歩いて、行儀よく自分の手でカップヌードンの空容器を捨てながら命令を発した。
「全艦戦闘態勢ッス!」
キノッサの艦隊とそれに従うミディルツ艦隊。さらに、独立管領イ・クーダ家の二個艦隊が戦闘態勢を整える間にも、出現するアザン・グラン軍の主力部隊は、その数がどんどん増えていく。『カノン・ガルザック』宇宙城攻防戦から始まって、これが四度目の戦いとなる。
四つの自軍艦隊がそれぞれに、防御主体の球形陣を組み始めるのを、艦隊情報ホログラムで確認しながら、キノッサはどこかのんびりとした口調で、ハーヴェンに問い掛けた。
「さて、軍師どの。次はどんな手をお考えッスか?」
これに対して、ハーヴェンは苦笑いを浮かべて応じる。
「困りましたな。何らかの手を打つにも、戦力が足りそうにありません」
一戦目は宇宙城の自爆。二戦目は第1特務艦隊が残した補給部隊の活用による、潤沢な兵装での効果的迎撃。そして三戦目は一転、小部隊に分散しての執拗な囮戦術によって、アザン・グラン軍の足止めに成功していたキノッサ軍だったが、それでも圧倒的な戦力差を前に損耗は増え続け、ボディブローの如くダメージは蓄積して来ていた。天才的なハーヴェンの頭脳をもってしても、戦術を実行するだけの戦力と補給がなければどうしようもない。
「どの艦隊も、現状戦力は…六割強ってとこッスかねぇ」
キノッサは自分の艦隊情報をNNLで呼び出し、戦力状況を口にする。六割もの損害が出ているなら、兵科の常道として、普通の戦場であれば撤退すべき数値だ。しかし彼等が戦っているのは殿軍戦であり、撤退するにも自分達の勢力圏までは、自力で逃げ切らなければならない。
「オウ・ルミル宙域方面軍も動いてくれておりますゆえ、どうにか次のDFドライヴまで持ち応える事が出来れば、何とかなるでしょうが…」
ノヴァルナ分艦隊とは違い、キノッサの殿軍はその存在を隠す必要はなく、むしろ敵を引き付けるべく目立つ方がいい。そのため殿軍は三戦目を終えた直後から、ウォーダ家オウ・ルミル宙域方面軍に向けて、救援要請を続けていた。
そして現在、これに応じて方面軍司令官ナルガヒルデ=ニーワスが、自ら複数の艦隊を率いて救援に動き出していたのだ。
双方はおそらく次のDFドライヴで合流できると思われ、そうなればアザン・グラン軍も追撃を諦める可能性が高い。つまりこの戦いが、キノッサの殿軍の命運を懸けた戦いになるはずである。
「我が軍の右舷方向に、恒星系の外縁小惑星帯があります。まずはここで防御戦闘を行いましょう」
落ち着いた口調で提案するハーヴェン。彼が見る宇宙地図には、HKー8730912という名の恒星系が表示されていた。
▶#28につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる