銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#29

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 アザン・グラン軍の中で最初にソレを発見したのは、小惑星帯に対し迂回行動をとっている主力部隊の最後尾にいた、空母打撃群を護衛している旧式駆逐艦の一隻であった。

「後方から艦隊だと?」

「はっ! かなりの速度が出ている事から、複数の宙雷戦隊だと思われます」

 艦長の問いに、報告する電探長の表情も硬い。現在アザン・グラン軍はウォーダ軍に対し、砲撃主体の戦術を行っているため、各基幹艦隊の空母戦隊は全て後方に下げられている。そしてこれらの護衛に充てられていたのは、最前線では使い難くなった旧式駆逐艦だった。

「数は?」

「五十六です」

「五十六!? 宙雷戦隊四個分じゃないか!」

 驚く艦長に、敵反応の解析情報が届く。更新された戦術状況ホログラムには、十四個の反応が一列縦隊となったものが四本、真っ直ぐこちらに向かって来ている。まだ距離はあるものの、セオリー通りの宙雷戦隊による突撃陣形だ。

「すぐに護衛隊旗艦と、総旗艦に状況連絡! 急げ!!」

 旧式駆逐艦からの敵宙雷戦隊発見の報は、すぐさまアザン・グラン軍総旗艦『サイオウ』へもたらされた。

「後方にウォーダの宙雷戦隊が四個!? そんな戦力が残っていたのか!?」

 総司令官エヴァーキンも旧式駆逐艦の艦長と、同様の反応を見せる。当然であった。十四隻の艦数といえば、標準的な宙雷戦隊一個の編制数である。つまりここまでの三度の戦いを、喪失艦無しで切り抜けて来たという事だ。それが四つもあるのは想定外の事態であり、しかも後方の空母部隊を、襲撃しようとしている。

「如何致しますか? エヴァーキン様!」

 指示を求める参謀にエヴァーキンは、苦虫を嚙み潰したような顔で告げた。

「護衛部隊に迎撃させろ。 数が足りなければ、空母部隊に艦載機の一部を出させても構わん」

 エヴァーキンとしては、本当はBSI部隊などの空母艦載機は、まだ温存しておきたいところだったのだ。砲撃戦でウォーダ軍を圧して、相手の動きが鈍ったタイミングで艦載機によって戦果を拡大するため、空母部隊を後方へ下げておいたのである。それを宙雷戦隊の迎撃に使ってしまうと、収容のために時間を消費するか、その場で待機させておいて、戦力を減らしてしまうかの二択となる。だがそれ以上に四個宙雷戦隊による統制雷撃は、防御力の高くない空母部隊には脅威だった。

 しかしながら、これがハーヴェンの“子供だまし”戦術である事を、忘れてはならない。
 
 ウォーダ軍の四個宙雷戦隊の後方への出現は、アザン・グラン軍に動揺を走らせた。敵軍師デュバル・ハーヴェン=ティカナックの罠に、また嵌められたのではないかという思いを抱いたのだ。

 四個宙雷戦隊から距離を取るため、加速前進を開始した空母部隊と、迎撃のため後方に向かう旧式駆逐艦部隊が交錯して、進路妨害が多発。さらに空母部隊が艦載機の一部を、予定より早く発艦させ始めた事で、アザン・グラン軍主力部隊の陣形は、大きく崩れてしまった。
 しかもここでキノッサ軍は攻勢に出るのではなく、円盤状の小惑星群に沿って後退を始める。これによって、砲撃戦を行っているアザン・グラン軍前方の、戦艦部隊が釣りだされ、主力部隊の陣形は長く伸びた。必然的に前衛の戦艦の数も減り、キノッサ軍が受ける火力も減る。キノッサ側からすれば消極策だが、DFドライヴを行うための重力子チャージの時間稼ぎが目的であるから、これで正解であった。

「無様な! 何をやっている!」

 自軍の陣形が乱れる様子を表示する、戦術状況ホログラムを睨み付け、アザン・グラン軍のエヴァーキンは怒声を発する。

「指揮系統に乱れが生じているようで…」と、参謀の一人。

「そんな事は、言わずとも分かっておる!!」

 苛立ちを隠せないエヴァーキンは、吐き捨てるように言う。ハーヴェンの罠の存在を感じ取った各指揮官が、これを恐れて慎重になったり、怯懦に囚われたり、反対に攻撃的になったりした結果、このような陣形の乱れを生じさせたのだ。

 ただ苛立ったとは言え、エヴァーキンもアザン・グラン家の筆頭家老である。状況が悪化する前に自ら対処に出る。司令官席から立ち上がると、ホログラムの操作パネルを自分の手許に展開し、自軍全艦への優先通信回路を開いた。

「総司令官エヴァーキンより総員! 落ち着け! 敵の策に惑わされるな!!」

 名門アザン・グラン家筆頭家老の重厚な言葉に、浮足立っていた将兵は即座に落ち着きを取り戻す。この辺りは流石であろう。

「後退中の敵の本隊は放置。深追いはするな! まず陣形を整え、後方からの別動隊の迎撃を第一目標とせよ!」

 これを聞いて前衛の戦艦部隊は、強引な進撃を中止。空母部隊も速度を緩め、迎撃部隊は空母艦載機の一部と共に、ウォーダ軍宙雷戦隊へ突撃してゆく。

 アザン・グラン軍のこの動きを見て、キノッサは眉間に皺を寄せた。

「なかなかどうして、立て直しも早いッスな!」

「まぁ。“子供だまし”ですので」

 そう応じてハーヴェンは苦笑いを浮かべる。
 
 するとウォーダ軍宙雷戦隊を迎撃に向かった、アザン・グラン軍の旧式駆逐艦部隊は、双方の距離が縮まった事で得られた、新たな解析情報に唖然とした。艦長同士が通信回線を開いて困惑の言葉を交わす。

「見ろ。なんだこれは!!」

「小惑星をワイヤーで繋いだだけだと!?」

 まさに“子供だまし”である。

 ハーヴェンの進言を受けてキノッサが用意したのは、高速が売り物の『ランバーライン』型軽巡航艦が四隻のみ。残りは小惑星群の中から、駆逐艦に近い大きさの岩塊を五十二個選び出し、十三個ずつワイヤーで連結。これを四隻の軽巡が牽引して、一列縦隊の宙雷戦隊が四個、統制雷撃を行うため突撃を仕掛けたように見せたのだ。

「ふざけおって!」

「とんだ子供だましではないか!!」

 ハーヴェンが口にした、“子供だまし”という声すら聞こえる有様だが、それに引っ掛かってしまったのは、紛れもない事実である。怒りと共にアザン・グラン軍の旧式駆逐艦と、BSI部隊が最大加速で突進し始める。

 一方の四隻の軽巡航艦は、牽引ワイヤーを切り離し急速反転。戦いもせずに“ざまあみろ”とばかりに逃げ出した。偵察を主目的に建造されている『ランバーライン』型軽巡は、ぐんぐんぐんぐん加速して遠ざかっていく。駆逐艦やBSIユニットも高速自慢だが、引き離されるばかりだ。

 印象として、BSIユニットなどの小型機動兵器は、宇宙艦船より高速であるように思えるが、それは惑星上で空を飛ぶ航空機と、海上を進む艦船の速度差を持ち込んでいるためで、真空無重力の宇宙空間で重力子推進を使用する場合は、単純に加速体の総質量に対する重力子ジェネレーターの出力の大きさで、加速度に差が出る。

 つまりBSIユニットは小型で質量も小さいが、重力子ジェネレーターの出力も艦船ほどではないので、高速艦には追いつけないのである。ちなみに戦艦などのさらに大きな艦は、重力子ジェネレーターの出力に対し総質量も大きいため、それほど加速度は高くない。要するに艦の総質量と、重力子ジェネレーターの出力比の関係から、軽巡航艦クラスが一番速度を出し易い事になるのだ。



「囮の軽巡隊、退避を開始。損害無しであります」

 通信参謀の報告に頷いたハーヴェンは、「キノッサ様」と主君に声を掛ける。キノッサも頷き返して、艦隊参謀に命じた。

「こちらも速度を上げて小惑星群を離脱。今のうちに敵の本隊を引き離すッス!」




▶#30につづく
 
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