銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#10

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 ティガカーツの懸念は現実のものとなっていた。この時すでに、イェルサスが直卒するトクルガル軍第1艦隊は、複数のアザン・グラン軍FTFの襲撃を受けていたのである。

 アザン・グランFTFの戦術は巧妙であった。

 戦線が絡み合った状態で、トクルガル軍各基幹艦隊の陣形が、かなり乱れているのを察知したアザン・グラン軍司令部は、FTFの投入を決定。三つの集団がそれぞれの母艦から発進する。
 FTF三個集団は、星間ガス濃度の高い箇所を選び、別々のコースを取ってトクルガル軍第1艦隊に接近。各個に襲撃行動に入ったのであった。

 群青と紫の星間ガスが、墨流しのように濃淡のベールを広げた宇宙空間に、白い閃光が走る。閃光が終息したそこにあるのは、引き裂かれた宇宙戦艦の巨体だ。

「戦艦『レブリセン』爆発。行動不能!」

 緊張したオペレーターの声が、トクルガル軍の総旗艦『ショウカク』の艦橋に響く。爆発した戦艦は、『ショウカク』と同じ第1戦艦戦隊を組んでおり、イェルサスの座乗艦にも、危機が迫っている事を示している。
 ただ、司令官席に座っているイェルサスの、幾分ふくよかな顔には、うろたえる表情は無い。かつてウォーダ家で人質として暮らし、ノヴァルナの弟分であった少年時代から、普段は臆病な面があるものの、いざという時には肝が据わるのがイェルサスだった。

「右舷より宙雷艇三隻、突っ込んで来る!」

 『ショウカク』を攻撃圏内に捉えた、アザン・グランFTFの三隻の宙雷艇が、横に並んで宇宙魚雷の発射態勢に入る。慌てず命令を下す『ショウカク』の艦長。

「右舷副砲群、咄嗟射撃。照準はいい、弾幕で対処」

 命令を受け、『ショウカク』の右舷側にズラリと並んだ三連装副砲塔が、茫然とビームを連射し始める。戦艦の副砲と言えば、駆逐艦では主砲クラスであり、三隻の宙雷艇は、壁のように立ち塞がった防御火箭にあえなく爆発を起こす。

 それでも二本の魚雷が爆発寸前に発射された。「魚雷接近、本数2」の報告に、今度は『ショウカク』から迎撃誘導弾が放たれる。自律思考機能を持つ宇宙魚雷だが、一本は誘導弾に挟撃される形で破壊。残る一本は誘導弾を躱し、さらに『ショウカク』に肉迫したものの、CIWS(近接防御火器システム)の小口径ビームによる集中攻撃で、命中寸前に撃破された。

 しかし全く油断はできない。総旗艦と同じ第1戦艦戦隊に属する戦艦を喪失し、総旗艦自身が迎撃砲火で敵に応戦しなければならない事自体、ただならぬ状況だという事である。
 
 トクルガル軍にすれば、この宙雷艇を主力兵器として使った、FTFの襲撃は想定外のものであった。機動性こそ優れてはいるが、恒星間航行能力を持たず、宇宙魚雷の搭載数も多くない宙雷艇は、本来であればこの“アネス・カンヴァー星雲”のような、恒星間領域の大きな戦闘で、大量投入される兵器ではないからだ。セオリー重視のアザン・グラン家の戦術からは、外れたものと言える。

「宙雷戦隊の状況はどうなっている?」

「もう一方の敵集団との戦闘に拘束され、動きが取れないようです」

 イェルサスの問いに、艦隊参謀が心苦しげに報告する。艦橋に張り巡らされた外部ビュアーには、艦の周囲で起きている激しい戦闘の光が、無数に映し出されていた。FTFが巧妙であるのは一方の集団が、トクルガル軍第1艦隊に所属する宙雷戦隊を引き付けて、もう一方の集団が総旗艦『ショウカク』に、集中攻撃を行っている点だ。

 宙雷戦隊の主要戦力である駆逐艦とは、大昔の惑星表面で行われていた海戦において、当時は大型艦の脅威であった新兵器の魚雷艇を、“駆逐”するために生み出された兵器である。そしてそれは、武装宇宙船が“宇宙艦”として発達した、今の時代も変わってはいないはずであった。
 ところがアザン・グランFTFは、一方の集団がその駆逐艦を主力とした、宙雷戦隊を狙って来た。腕利きの宙雷艇とBSIユニットの組み合わせは、宙雷戦隊を戦艦戦隊や重巡戦隊から引き剥がし、拘束したのである。

 このため集中攻撃にさらされた総旗艦、『ショウカク』を守るのは戦艦や重巡航艦といった大型艦ばかりになり、小回りも利かず、自らを総旗艦の盾代わりにするしかなかった。
 無論、『ショウカク』をはじめ、戦艦や重巡からは直掩のBSIユニット隊も出撃し、迎撃に当たってはいるが、練度の高いFTFのBSIユニット隊に苦戦を強いられ、宙雷艇の掃討までは手が回らない状態となっている。そこに告げられる、新たな喪失艦の発生。

「重巡『フォーゼラー』大破! 航行不能!」

 この圧迫される戦況に、参謀長がイェルサスに意見具申する。

「キルバラッサ様の第3艦隊か、イシカー様の第5艦隊に、援護を要請してはいかがでしょうか?」

 だがイェルサスは前を向いたまま、軽く首を左右に振って却下した。

「駄目だ。どの艦隊も下げる訳にはいかない。今は我慢するんだ」

 するとこの窮地を切り開く者が駆けつけて来る。ティガカーツ=ホーンダートの操る、漆黒のBSHO『カヅノーVC』だ。発する言葉の口調はのんびりだが、響きは強い。

「ティガカーツ=ホーンダート推参。みんな、僕が相手になるよ!」



▶#11につづく
 
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