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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#11
しおりを挟むこの時、機体はティガカーツ=ホーンダートの『カヅノーVC』ただ一機。この若者が所属する、“ファイアフライ中隊”の他の機体は見当たらない。主君イェルサスから直接通信が入り、この事を問い質す。
「ティガカーツ。おまえ一人か?」
ティガカーツは『カヅノーVC』の近接警戒センサーを調整しながら、その問いに答える。
「うん。中隊のみんなは、別の敵集団と戦ってる」
「なに? 別の敵集団だと?」
「そう。隊長からもう一個の敵集団発見の連絡、入ってるでしょ?」
これを聞いてイェルサスは通信参謀を振り向いた。だが通信参謀は、首を傾げるばかり。どうやら“ファイアフライ中隊”からの通報は、どこかで齟齬が生じたのか、トクルガル軍司令部には届いていなかったらしい。星間ガスによる通信障害、あるいはアザン・グラン軍によるジャミング、または混乱した戦況が原因であろうか。
ただ一つ言えるのは、強引に敵集団へ自分の中隊を向けさせた、ティガカーツの判断は怪我の功名となった事だ。もしあのままFTF部隊を放置していたら、危険な状況で総旗艦『ショウカク』が、さらなる奇襲を受けていた可能性が高い。
「連絡いって無い?…まぁいいや。ティガカーツ=ホーンダート、“ファイアフライ00”。戦闘に入るから、サポートよろしく」
そう言って、一方的に通信を切るティガカーツに、参謀長が「ご主君との通信だと言うのに、規律も何もないのか。あのパイロット!」と憤慨するが、イェルサスは苦笑いを浮かべただけで、司令官席に深く座り直す。そしてこの緊迫した状況には、些か相応しくない冗談を口にした。
「気にしなくていいさ。ティガカーツが態度を改めるようなら、トクルガル家は滅亡寸前てことだよ」
すると、イェルサスがこの冗談を言い終えた時にはもう、ティガカーツは『カヅノーVC』を急加速させ、『ショウカク』の真上にいる敵部隊に向かっている。
これに対し、アザン・グランFTFのBSIユニットや、宙雷艇の乗員も警戒の色を濃くした。将官専用機のBSHOの出現は、否応なく戦場の流れを変えうる存在となるからだ。
「散開しろ! BSIユニットは迎撃を! 宙雷艇は敵の総旗艦を狙え!」
イェルサスの『ショウカク』を攻撃目標にしている、FTF部隊の指揮官が命令を下す。それを聞き、即座にBSIユニット二十四機が、『カヅノーVC』に立ち向かって来た。
「ふぅん…みんな強そうだね。じゃあ少し、本気を出そうかな」
敵の動きを見て、ティガカーツは“トランサー”を発動させる。
独特な“雑さ加減”で、サイバーリンク深度を深くしたティガカーツの意識に、複数の敵BSIユニットとの相対位置、速度差、進行方向が、感覚的に流れ込んで来る。
“左に2…上に1…右下にも2…か、一番早いのは―――”
「ここかな!?」
呟いて機体を翻したティガカーツは、超電磁ライフルのトリガーを引いた。銃口の先にあるのは何もない空間。ところが銃弾が飛び出した次の瞬間、その位置には上空にいたBSIユニットが降下して来ていたのだ。
「な―――!!??」
超電磁ライフルを構えようとしたところへ、『カヅノーVC』の銃撃を受け、パイロットは驚きの声を言い終える間も無く、機体と共に爆散する。
だがその間に、四機のアザン・グラン軍BSI『ハヤテ』が、『カヅノーVC』との間合いを詰めて来た。四機とも量産型の『ハヤテ』だが、その動きはまるで親衛隊仕様機のようだ。パイロットの腕がいいのだろう。ポジトロンパイクを構え、代わるがわるに斬撃を仕掛ける。
しかし“トランサー”を発動させているティガカーツには、そのすべてが見えていた。敵の機体のNNLシステムにまで、リンクしているからだ。四機の敵の一瞬の連携の乱れを突き、『カヅノーVC』が大型ポジトロンランスの『ドラゴンスレイヤー』を繰り出す。
その穂先が一機の『ハヤテ』を刺し貫くと、『カヅノーVC』はそのまま右へ急旋回。二機の『ハヤテ』がクロスファイアで放つ、ライフルの銃撃を回避。同時に後方へ振り抜いた『ドラゴンスレイヤー』の柄の反撃で、一機の『ハヤテ』を強く打ち据えた。内部機構に損傷を受けたらしいその『ハヤテ』はたまらず離脱。だがそこへ新たに、五機のBSI『ハヤテ』が群がって来る。しかもその中の二機は、親衛隊仕様の『ハヤテGC』だ。さらに接近中の、別の機体の反応もある。
ただそれでもティガカーツの表情に変化はない。機体をスクロールさせて超電磁ライフルを一連射する。微妙に角度を変えながら、一弾倉八発を撃ち尽くすと、八発目が敵機を捉えて仕留めた。
「効率悪いけど、向こうもいい腕してるから、仕方ないか…」
そう呟いたティガカーツは、サイバーリンクで敵の動きを頭の中に描きながら、ライフルの弾倉を交換。即座に未来予測位置に銃弾をバラ撒く。今度は照準修正も良かったらしく、五発目が敵機を撃破した。その直後、背後から迫って来る親衛隊仕様の『ハヤテGC』が二機。どちらもクァンタムブレードを右手に握っており、一気に間合いを詰めて来る。
▶#12につづく
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