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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#09
しおりを挟むこれと同じ頃、トクルガル艦隊から出撃したティガカーツ=ホーンダートは、専用BSHO『カヅノーVC』で、敵中を突き進んでいた。
ティガカーツのここまでの戦果は、宇宙攻撃艇6機・ASGUL21機・量産型BSIユニット11機・親衛隊仕様BSIユニット2機と、すでにかなりの撃破数を稼いでいる。次々と敵が押し寄せるのは、それだけ状況が混戦となっており、そのうえ対戦しているアザン・グラン軍の方に、勢いがあるのだとも言える。
「“ファイアフライ01”より“00”。また前に出過ぎてるぞ」
ティガカーツのヘルメット内のスピーカーに、所属する“ファイアフライ”中隊指揮官からの、注意が聞こえて来る。
「うん。了解」
緊張感のない声で応答するティガカーツは、パイロットの技量は超一流だが、まだ指揮官としては熟成中であり、“01”が指揮権を持っていた。指揮権を持たないBSHOに、“00”の符牒は与えられる事が多い。そこに中隊の僚機から指揮官機に、隊内通信で連絡が入る。
「“04”より“01”。方位225から敵編隊!」
これを聞いたティガカーツが、センサーの画面を切り替えると、左方向の濃度の高い星間ガスが柱状になったものが、林のように不規則に密集した箇所から、次々と敵機の反応が出て来るのを見た。自分の“ファイアフライ中隊”の約二倍、五十機以上はいるだろう。
しかも解析反応では全機がほぼBSIユニットで、簡易型のASGULが見当たらないところから、かなりの精鋭部隊だと思われる。するとその精鋭部隊の向こう側に、新たな集団が出現した。反応がBSIよりかなり大きい事から、宙雷艇の部隊であるらしい。どうやら宙雷艇の部隊を、BSIの精鋭部隊が護衛しているようである。その一団は“ファイアフライ中隊”に向かって来るのではなく、そのまま直進して行く。
「これ…マズいんじゃないかなぁ?」
センサーに映るこの敵反応の動きを眺めながら、おっとりとした口調で懸念を表すティガカーツ。
「どういう意味だ? “00”」
僚機の“ファイアフライ08”が尋ねる。それに答えたのは指揮官機の“ファイアフライ01”である。
「たぶんあれは、イェルサス様の総旗艦を狙うための、“特務部隊”だ」
これを聞いてティガカーツは頷き、中隊の何人かが「えっ!」と、驚きの声を発した。確かにこういう局面で宙雷艇の部隊が、精鋭BSI部隊と共に行動しているというのは、特殊な任務を帯びている可能性が高く、まず考えられるのが、イェルサス=トクルガルの総旗艦の撃破であった。
このティガカーツや指揮官機の考えは正しく、発見した宙雷艇とBSIユニットの一団は、アザン・グラン家内部で“FTF(前衛作戦群)”と名付けられた、基幹艦隊集団とは別系列の特務部隊集団であった。
FTF(Front Task Forces)の主任務は、占領した他家の植民星系に防衛能力がない場合、星系防衛艦隊が編制されて配置されるまでの間、その星系へ先んじて進出し、防衛を代行する事。敵艦隊が戦力不明のまま急速侵攻して来た場合、これに威力偵察を行って、敵戦力の分析と足止めを行う事。さらにはこの“アネス・カンヴァー星雲”のような、特殊環境下で戦場が入り乱れるような状況で、統制を保った独立集団として、ピンポイントの目標を攻撃する事などがある。
これと似た集団はウォーダ家をはじめ、多くの星大名家が保有しているが、アザン・グラン家では主敵の一つに、隣国カガン宙域を支配しているイーゴン教団があり、彼等の戦術が小集団によるゲリラ攻撃を主軸にしているため、これへの対応も主要任務として、他国のものより戦闘能力が高かった。
アザン・グラン家では、一カ月前の“カノン・ガルザック追撃戦(ウォーダ側では撤退戦)”で、ノヴァルナとイェルサスの両方を取り逃がしてしまったのを、自軍の基幹艦隊の統制行動に固執してしまい、柔軟な追撃態勢を敷く事が出来なかったため…と、結論付けており、その戦訓から今回の戦いではFTFを投入して、敵の総旗艦を仕留めようと目論んでいたのだ。
「イェルサス様の『ショウカク』に、通報しますか?」
“ファイアフライ中隊”の一機が指揮官に問い掛ける。発見した敵FTFが、濃度の高い星間ガスの間を、抜けるように行動しているところから、イェルサスの総旗艦艦隊が、接近に気付いていない可能性もある。
するとここでティガカーツが口を挟んだ。
「通報するだけじゃ、駄目だよ。僕達も援護に行かないと」
「我々も?…だが我々に与えられた命令は―――」
「総旗艦を狙ってるのが、あの一団だけだと思う?」
指揮官の言葉を遮るティガカーツがの声には、この若者には珍しく、少々真剣な響きがある。これを聞いて指揮官も認識を改めた。このような大きな戦いで、総旗艦を狙っているFTFの一団が、一つだけであるはずがない。
「僕は戻るよ。また謹慎喰らうかもしれないけど」
ティガカーツがそう続けて『カヅノーVC』の針路を変更すると、指揮官は「待て、我々も総旗艦に向かう」と告げ、中隊全機に「総員続け」と命じた。
▶#10につづく
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