銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#27

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「両舷爆雷投射用意!」

 副長の指示に、砲術長も「用意よし!」と即答する。すでに投射準備を行っていたのであろう。砲術長もベテランであった。戦いの流れを読んでいたに違いない。小型の駆逐艦は古来の水上艦であった時代から、巡航艦以上の大型、中型艦に比べて、乗員達の仲間意識が強くなる傾向があった。それが大きな艦以上に、“阿吽の呼吸”を生み出すのである。そこにまた、艦長の針路変更の指示が聞こえる。

「針路変更、078プラスマイナスゼロ!」

 航宙長が復唱しながら舵を切る。九十度近い角度で右に舵を切る『ラズシーダ』が大きく揺れる。渦巻く星間ガスが猛烈な稲妻を生じ、回頭する艦の姿を一瞬、明るく照らした。いい針路変更だ…と小さく微笑む副長。今の針路変更で、追跡して来る二隻の敵駆逐艦が、真っ直ぐ横並びになったからだ。砲術長に短く命じる。

「投射!」

「投射はじめ!」

 復唱し、二本のレバーを引く砲術長。『ラズシーダ』の艦尾両舷下側に装備されている、爆雷投射機が扇状に開き、ラグビーボール型の爆雷が二十四個ずつ投射された。それらは一定間隔を置き、回転しながら敵駆逐艦に近づいていく。二隻は至近距離に接近されるまで、爆雷に気付かなかったらしく、突然に舵を切った。そこに起こる爆雷二十四個の連鎖爆発。

 二隻の敵駆逐艦はその連鎖爆発に艦首から巻き込まれ、一隻は艦の前方部を完全破壊、もう一隻は艦底部を大きく引き裂かれた。前方部を破壊された艦はよろめきながら撤退を開始し、艦底を引き裂かれた艦は、推進力と爆発の威力が相殺されたのか、その場で漂い始める。

 爆雷が使い方を選ぶ兵器であるのは、宇宙魚雷や対艦誘導弾のような機動性を、持たないからであった。これはこの爆雷という兵器が本来、高々度ステルス艦…いわゆる潜宙艦を、攻撃するためのものだからである。
 高いステルス能力で潜む潜宙艦は、その能力を発揮する際は低速度で航行している。それを攻撃するのであるから、高い機動性は必要なく、代わりに機雷もある程度のステルス機能を有していた。今回の場合は濃密な星間ガスの影響を受け、駆逐艦のセンサー精度が低下していたため、発見が遅れたのである。

「上手くいったな、副長!」

 表情を明るくして振り向く艦長に、副長も頷いて応じる。

「はい。しかし油断は禁物、周囲の状況が不明です」

 そしてその言葉を待っていたかのように『ラズシーダ』の真上、赤いビームが前方から二十本以上、横切っていった。かなり太いビームは、相当な大型艦だ。
 
「なんだ、今のは!?」

 驚く艦長。ビームのサイズは戦艦以上、赤い曳光粒子はアーザイル軍のものだ。あんなものを喰らったなら、エネルギーシールドが健在でも、ひとたまりも無いだろう。

「我々がいる雲塊の外から撃たれたものと思われます。この艦を狙ったのではないでしょう―――」

 モニターに映る解析情報を見ながら報告する副長。今度は斜め後方から、青白いビームが十本以上飛んで来る。曳光粒子の色からすると味方の戦艦だろう。戦艦同士がこの雲塊越しに、主砲を撃ち合っているのだ。副長は言葉を続ける。

「なんにせよこの雲塊の中にいては、周りからは気付かれない代わりに、外の状況も不明です。敵と味方の正確な位置もわかりません。今のビームが飛んで来た方向で、判断するしかないでしょう」

「………」

 思案顔になる艦長。前へ進んで雲塊から出るか、後退して雲塊から出るか。だが超高速の宇宙戦闘で、長考は危険だ。

「副長―――」

 どうすればいいと思う?…と、迷いを含んだ声で言いかける艦長。だが無言で見返すベテランの副長の眼は、“それを決めるのが艦長の役目です”と語っていた。意を決した若い艦長は、きっぱりと命令を下す。

「前進して、雲塊を出る。針路013のゼロゼロ、両舷半速」

 復唱し艦の速度を落としながら、舵を切る航宙長。

「針路013ゼロゼロ、両舷はんそーく」

 この光景に副長は頷く。それがどのような結果を招こうとも、今の状況では何より艦長自身の、決断力が試される局面だからだ。
 ものの十分も経たぬうちに駆逐艦『ラズシーダ』は、壁のように前方を塞いでいた、濃密な星間ガスを突き抜けた。途端に精度を増した哨戒センサーが、大量の反応を表示し始める。

「さ、左右前方、敵反応多数!」

 声に緊張度の高い電探長の報告。視界には複数のアーザイル軍の戦艦が居て、盛んに主砲を射撃している。さらに正面には肉眼でも見える位置に、一回り以上も巨きな戦艦の姿があった。

「正面、ア、アーザイル軍総旗艦『ソウリュウ』です!!」

 雲塊の中で敵と撃ち合っているうちに、『ラズシーダ』はアーザイル軍総旗艦艦隊の間近にまで、意図せず潜り込んでいたようだ。逃げるか攻めるか、刹那の判断で艦長と、そして副長は同時に命じた。

「目標敵総旗艦、魚雷全弾発射!」

 すでに発射管に装填済みであった十二本の宇宙魚雷が、全て射出される。だが戦果を確認している余裕は無い。敵の複数の戦艦から、照準センサーの照射を受けた反応があったからだ。艦長が叫ぶ。

「左舷急速回頭! もう一度、雲塊の中へ逃げ込め!!」



▶#28につづく
 
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