銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
435 / 522
第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#26

しおりを挟む
 
 数秒後、ナギの座乗する『ソウリュウ』は、D-ストライカーの直撃弾に激しく震動する。司令官席の肘掛けを掴み、上体を支えるナギのもとへ被弾報告が届く。

「左舷艦載機発着場付近に直撃弾!」

 それを皮切りに、三段構えによるD-ストライカーの銃撃は、次々に着弾。有効な対策を見い出せないまま、『ソウリュウ』は巨体を破壊されてゆく。
 そして総旗艦の機能不全は、アーザイル軍全体の劣勢をさらに加速させた。崩れた漏斗状陣形を、そこかしこで食い破ったウォーダ軍各艦隊は一斉反転、艦隊ごとの各個撃破を開始する。個々の艦の動きが一層、勝負の別れ目となる時間だ。



 ウォーダ軍駆逐艦『ラズシーダ』は、以前は戦闘輸送艦『クォルガルード』を旗艦とする、第1特務艦隊に所属していた。約一カ月前の“カノン・ガルザック撤退戦”のきっかけとなった、後方からの挟撃を企図したアーザイル軍を発見し、裏切りを意見具申した、あの駆逐艦である。

 その後の艦隊再編成の際、この時の功績からノヴァルナ直卒の第1艦隊に編入。第3宙雷戦隊第2分隊に所属していた。士官学校を出たばかりの若手艦長と、“下士官の提督”と呼ばれる特務大尉の大ベテラン副長とのコンビは、ここでも健在である。

「034マイナス08距離5千、敵艦接近。『クライス』型駆逐艦と思われる!」

 戦艦や巡航艦ほど広くない艦橋の中、電探士官が警戒の声を上げた。距離五千万キロは、宇宙空間の戦闘では指呼の距離だ。皺寄せたベールのような、赤い星間ガスの濃度差が生む電磁変動が、至近距離まで接近を感知できなかったのだ。即座に反応したのはベテランの副長だった。

「艦長! 回避と攻撃を!」

「針路324。前部主砲、右舷咄嗟射撃!」

 合いの手のような艦長の反応もいい。指揮権順位二位の副長が、艦の指揮を直接執る事は出来ないので、艦長自身の判断の速さが重要だ。超高速で航過する二隻の射撃タイミングは一度きり。相手の『クライス』型駆逐艦は、性能からしてほぼ互角とされている。
 左舷方向に舵を切る『ラズシーダ』の、前部四基の連装砲塔が逆に右へ旋回。敵駆逐艦との一瞬のすれ違いざまに発砲する。青白いビームが放たれ、敵艦が発砲した赤いビームと交差した。

 発砲寸前に僅かに左へ舵を切った事が功を奏し、『ラズシーダ』に命中した敵のビームは十八本中二本。反対に『ラズシーダ』の主砲ビームは、二十本中十四本が命中、敵駆逐艦はエネルギーシールドの一部が破れたらしく、右舷側からプラズマと破片をまき散らしながら通過して行く。
 
 しかし『ラズシーダ』に、詳しい戦果を確認している暇はない。敵の新たな駆逐艦が二隻、前方から急速接近して来たからだ。さらに周辺では敵の反応が次々に増える。どうやら『ラズシーダ』は、敵艦隊の真ん中に飛び込んでしまったらしい。

「018プラス05より軽巡1、309マイナス18より駆逐艦2、近い!」

 青みが強まった紫の星間ガスのカーテンを突き抜け、三隻の敵艦が姿を現した。

「軽巡には誘導弾、駆逐艦には主砲射撃でいいか!? 副長!」

 今度は先に艦長が問い質す。「オーケーです!」と即座に答えた副長は、砲術長を振り向き、「対艦誘導弾、用意!」と命じる。その間に艦長は『ラズシーダ』の針路変更を、航宙長へ指示した。

「針路242マイナス36!」

「針路242マイナス36。宜候ようそろー!」

 復唱と同時に操舵装置を操作する航宙長。駆逐艦は乗員も多くはないため、操舵は航宙長自らが行うのが普通だ。艦が大きく揺れ、左斜め下方へ大きく沈む。そこへ降り注ぐ敵軽巡からのビーム。

「副長、発射タイミングは任せる!」

 そう言って艦長は、敵駆逐艦二隻との間合いを計り、航宙長にさらなる針路変更を命じた。

「針路055プラス24!」

「針路055プラス24。宜候ようそろー!」

 今度は急上昇に入る『ラズシーダ』。ここで副長が攻撃命令を出す。

「対艦誘導弾発射! 続いて主砲、撃ち方はじめ!」

 近距離で放たれた大量の対艦誘導弾に、敵軽巡は迎撃と回避を行うため後退していった。一方の二隻の駆逐艦は、盛んに主砲を撃ち掛けて追撃して来る。捻り込みを掛けながら、左九十度に舵を切る『ラズシーダ』。その進行方向には、青と紫が墨流しのように入り交じる、濃密な星間ガスの塊が漂っている。『ラズシーダ』は主砲を撃ち返しながら、雲塊の中へ突入した。

 雲塊の内部は、圧迫された星間ガスが相互電子干渉を起こし、大量の稲妻を作り出している。この状況は若手艦長にとっては想定外であった。

「こ…これは」

 動揺する若手艦長だが、ベテランの副長の見解は違う。

「これは好機です! 爆雷散布を意見具申します!」

 爆雷は追跡して来る敵に対して、その針路上にバラ撒いて激突爆破する、自律型誘導兵器を指す。軽巡航艦と駆逐艦に標準装備されているが、使い方を選ぶ兵器であった。父親ほども歳の差がある副長に、絶大な信頼を寄せている艦長は、即座にその意見具申を採用する。

「分かった。任せる、副長!」



▶#27につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...