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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#26
しおりを挟む数秒後、ナギの座乗する『ソウリュウ』は、D-ストライカーの直撃弾に激しく震動する。司令官席の肘掛けを掴み、上体を支えるナギのもとへ被弾報告が届く。
「左舷艦載機発着場付近に直撃弾!」
それを皮切りに、三段構えによるD-ストライカーの銃撃は、次々に着弾。有効な対策を見い出せないまま、『ソウリュウ』は巨体を破壊されてゆく。
そして総旗艦の機能不全は、アーザイル軍全体の劣勢をさらに加速させた。崩れた漏斗状陣形を、そこかしこで食い破ったウォーダ軍各艦隊は一斉反転、艦隊ごとの各個撃破を開始する。個々の艦の動きが一層、勝負の別れ目となる時間だ。
ウォーダ軍駆逐艦『ラズシーダ』は、以前は戦闘輸送艦『クォルガルード』を旗艦とする、第1特務艦隊に所属していた。約一カ月前の“カノン・ガルザック撤退戦”のきっかけとなった、後方からの挟撃を企図したアーザイル軍を発見し、裏切りを意見具申した、あの駆逐艦である。
その後の艦隊再編成の際、この時の功績からノヴァルナ直卒の第1艦隊に編入。第3宙雷戦隊第2分隊に所属していた。士官学校を出たばかりの若手艦長と、“下士官の提督”と呼ばれる特務大尉の大ベテラン副長とのコンビは、ここでも健在である。
「034マイナス08距離5千、敵艦接近。『クライス』型駆逐艦と思われる!」
戦艦や巡航艦ほど広くない艦橋の中、電探士官が警戒の声を上げた。距離五千万キロは、宇宙空間の戦闘では指呼の距離だ。皺寄せたベールのような、赤い星間ガスの濃度差が生む電磁変動が、至近距離まで接近を感知できなかったのだ。即座に反応したのはベテランの副長だった。
「艦長! 回避と攻撃を!」
「針路324。前部主砲、右舷咄嗟射撃!」
合いの手のような艦長の反応もいい。指揮権順位二位の副長が、艦の指揮を直接執る事は出来ないので、艦長自身の判断の速さが重要だ。超高速で航過する二隻の射撃タイミングは一度きり。相手の『クライス』型駆逐艦は、性能からしてほぼ互角とされている。
左舷方向に舵を切る『ラズシーダ』の、前部四基の連装砲塔が逆に右へ旋回。敵駆逐艦との一瞬のすれ違いざまに発砲する。青白いビームが放たれ、敵艦が発砲した赤いビームと交差した。
発砲寸前に僅かに左へ舵を切った事が功を奏し、『ラズシーダ』に命中した敵のビームは十八本中二本。反対に『ラズシーダ』の主砲ビームは、二十本中十四本が命中、敵駆逐艦はエネルギーシールドの一部が破れたらしく、右舷側からプラズマと破片をまき散らしながら通過して行く。
しかし『ラズシーダ』に、詳しい戦果を確認している暇はない。敵の新たな駆逐艦が二隻、前方から急速接近して来たからだ。さらに周辺では敵の反応が次々に増える。どうやら『ラズシーダ』は、敵艦隊の真ん中に飛び込んでしまったらしい。
「018プラス05より軽巡1、309マイナス18より駆逐艦2、近い!」
青みが強まった紫の星間ガスのカーテンを突き抜け、三隻の敵艦が姿を現した。
「軽巡には誘導弾、駆逐艦には主砲射撃でいいか!? 副長!」
今度は先に艦長が問い質す。「オーケーです!」と即座に答えた副長は、砲術長を振り向き、「対艦誘導弾、用意!」と命じる。その間に艦長は『ラズシーダ』の針路変更を、航宙長へ指示した。
「針路242マイナス36!」
「針路242マイナス36。宜候ー!」
復唱と同時に操舵装置を操作する航宙長。駆逐艦は乗員も多くはないため、操舵は航宙長自らが行うのが普通だ。艦が大きく揺れ、左斜め下方へ大きく沈む。そこへ降り注ぐ敵軽巡からのビーム。
「副長、発射タイミングは任せる!」
そう言って艦長は、敵駆逐艦二隻との間合いを計り、航宙長にさらなる針路変更を命じた。
「針路055プラス24!」
「針路055プラス24。宜候ー!」
今度は急上昇に入る『ラズシーダ』。ここで副長が攻撃命令を出す。
「対艦誘導弾発射! 続いて主砲、撃ち方はじめ!」
近距離で放たれた大量の対艦誘導弾に、敵軽巡は迎撃と回避を行うため後退していった。一方の二隻の駆逐艦は、盛んに主砲を撃ち掛けて追撃して来る。捻り込みを掛けながら、左九十度に舵を切る『ラズシーダ』。その進行方向には、青と紫が墨流しのように入り交じる、濃密な星間ガスの塊が漂っている。『ラズシーダ』は主砲を撃ち返しながら、雲塊の中へ突入した。
雲塊の内部は、圧迫された星間ガスが相互電子干渉を起こし、大量の稲妻を作り出している。この状況は若手艦長にとっては想定外であった。
「こ…これは」
動揺する若手艦長だが、ベテランの副長の見解は違う。
「これは好機です! 爆雷散布を意見具申します!」
爆雷は追跡して来る敵に対して、その針路上にバラ撒いて激突爆破する、自律型誘導兵器を指す。軽巡航艦と駆逐艦に標準装備されているが、使い方を選ぶ兵器であった。父親ほども歳の差がある副長に、絶大な信頼を寄せている艦長は、即座にその意見具申を採用する。
「分かった。任せる、副長!」
▶#27につづく
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