銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#29

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 総旗艦『ソウリュウ』を離れたナギは、重巡航艦『バロクド』へ向かうシャトルの中で、あらためてこの戦いの難しさを考えた。

 超空間狙撃を『ソウリュウ』が喰らって、行動力を大幅に低下させた直後から、ウォーダ軍第4艦隊のナルガヒルデ=ニーワスの名で、再三再四、降伏を呼び掛ける通信が入り始めた。もはや勝敗は決したという判断からだろう。

 ところがナギは、これを受け入れる訳にはいかなかった。

 もし降伏してウォーダ軍の捕虜となった場合、本国に残る父のクェルマスが、ノヴァルナの妹であるフェアンの身と引き換えに、ナギの返還を求めて来る可能性が高い。

 そしてこれが問題だった。

 差別的で冷淡なようだが、アーザイル家当主のナギとフェアンでは人質としての価値が違う。それを承知で交換に応じる事は、今のノヴァルナには無理なはずだ。自分の妹を取り返すために、捕らえた星大名家当主を逃がすなど、この戦いで死んでいった兵士の遺族達が、許さないに違いないからであった。なぜならウォーダ家の領民にとって、アーザイル家は憎むべき裏切り者であり、すでに“カノン・ガルザック撤退戦”で、多くの死傷者を出していたからである。

 ノヴァルナであっても…いや、新進気鋭が売り物の、今のノヴァルナであるからこそ、領民から失望の眼差しを向けられるわけには行かない。そう考えれば幾ら大切な妹であっても、切り捨てる覚悟はあるはずだろう。それが戦国武将というものだからだ。

 ただナギからすれば、自分の命より大事な妻と三人の娘の命を、切り捨てさせるような事は到底許容できない。だからこそ自分はここで命を捨て、エイン・ドゥが停戦と引き換えに、フェアンと娘達をノヴァルナのもとへ返す事を、期待したのである。

 だがその覚悟は、トゥケーズ=エイン・ドゥの説得によって不発に終わった。しかし今はそれでいいのだろう。再起を期し、捲土重来。まだ諦める時ではない。妻や娘達はやはり、最後まで自分の手で守り抜くべきなのだ。

 重巡航艦『バロクド』へ移乗したナギは、即座に全軍に対し、エイン・ドゥの第2艦隊を残して、撤退行動に移るように命令を発した。その上で味方のアザン・グラン軍の、最新の状況を確認する。アザン・グラン軍も撤退を始めており、一部の部隊のみが踏みとどまって、トクルガル軍を必死に防いでいるようだ。冷静さを取り戻したナギは、参謀長に告げた。

「アザン・グラン軍の総旗艦『サイオウ』と連絡を取り、我が軍と相互支援しながら、撤退するべきと提案してくれ」
 
 そしてその踏みとどまったアザン・グラン軍の中心にいたのが、モルンゴール帝国製BSHO『キョウマ』と、これを操るネオターク・ジュロス=マガランだ。

「ぬおおおおおおお!!!!」

 雄叫びと共にマガランは、『キョウマ』が右腕に握る豪刀『タイロン』を、真横に一閃する。二機まとめて両断される、トクルガル軍のBSI『リュウビ』。そこへ背後から、ポジトロンパイクで斬りかかって来る別の『リュウビ』。しかし“トランサー”を発動中のマガランには見えている。瞬時に機体を半回転させ、パイクの刃を『タイロン』で強く打ち弾くと、一瞬バランスを崩した相手を、返し太刀によって斬り捨てた。

 このマガランの『キョウマ』の周囲では、アザン・グラン軍総旗艦艦隊を追撃しようとしているトクルガル軍と、その頭を押さえて行く手を阻もうとするアザン・グラン軍双方の艦隊が、激しい機動戦を展開していた。間断なく煌くビームと爆発の閃光が、『キョウマ』の豪刀『タイロン』の長大な刀身を輝かせる。マガランの無双ぶりに、トクルガル軍のBSI部隊指揮官が、悔し紛れに呪詛の言葉を吐く。

「くそっ。右腕しか動かない状態で、なんて強さだ!」

 敵の指揮官の言う通り、BSHOの『キョウマ』は、ティガカーツ=ホーンダートとの戦いで受けた損害が、専用母艦の喪失で応急修理すら行えず、左腕が動かない状況のままであった。それでいてここまで、全く敵を寄せ付けないでいるのは、マガランの鬼神の如き技量によるものだ。

 ただ、無論トクルガル軍指揮官も、何も考えが無かったのではない。ASGUL隊を『キョウマ』の死角となる左側へ大量に回り込ませ、ビーム砲の集中射撃で動きを制約した上で、これを援護射撃としたBSIユニットによる、接近戦を企図したのであった。
 しかしマガランの方も当然、相手が死角を突いて来る事は予測しており、左側からの攻撃に備え、自分の配下の“インヴィンシブル中隊”の残存機を置いていた。単騎駆けが信条のマガランであったが、もはや戦況は、それにこだわっていられるような余裕が無いのだ。

 しかもそれだけではない。母艦を失った『キョウマ』は、機体のエネルギーが尽きようとしていた。
 新たに斬りかかって来たトクルガル軍の『リュウビ』を、袈裟懸けに両断するとマガランは、コクピットのパネルの隅で、エネルギー残量の警告表示の光の色が、黄色から赤色に変わった事に気付いた。ジロリとそれを一瞥して、「ふん…」と鼻を鳴らす。



▶#30につづく
 
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