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第17話:銀河に脈打つ謎
#13
しおりを挟むセッツー中央大学はセッツー宙域の、ラファエス星系の首都である第六惑星サーエスにあった。ノア達が訪れていたザーカ・イー自治星系はセッツー、イズンミ、カウ・アーチの三宙域の境界に位置しているため、ラファエス星系まではさほど遠くない。
ザーカ・イー星系をあとにしたノア達は、メンバーにテン=カイとP1-0号、さらに二名の男性と一名の女性が加わっていた。大まかな事情を話し、サーエスへ向かう事を告げられたソークン=イーマイアが、“そういう事でしたら役に立つ者達が、ちょうど今この街に居ます”と、案内役として呼びだした三名である。
「お客さん達、見えて来たぜ。あれがサーエスだ」
操縦士席に座り、背後にいるノアとランに首だけ振り向かせたのは、三人の中のリーダー格にある、ジョナサン=カートライトという名の男だった。長身瘦せ型で三十代後半のヒト種の男性だ。
副操縦士席に座るのはアフェーシ=セラン。頭部に蟻のそれを思わせる触角を生やした、アントニア星人の男性。まだ二十代前半でやや肥満気味、背はそれほど高くはない。
電探士席に座る女性はマニス=エイパー。二十代後半の褐色の肌をしたヒト種、黒髪をツインテールに結っている。三人はソークン=イーマイアお抱えの、美術品鑑定士だった。しかしその見た目は鑑定士というより、まるでトレジャーハンターのようだ。使用している宇宙船も、ノア達がザーカ・イー星系まで乗って来た、恒星間シャトルではなく、『ジュエルダガー』という名が付けられた、三人の持ち船の恒星間クルーザーである。
「予定通りの時間合わせですね。ありがとうございます」
操縦室のクロノメーターの表示を見て、ノアが礼の言葉を口にする。宇宙船が恒星間航行を行う場合、船内の生活時間を目的地の時間に少しずつ合わせ、到着時の現地時間が朝になるように調整するのが、上手いやり方だとされている。そうすれば夕方の到着などより、到着日を丸一日使う事が出来るからだ。
「いや、まぁ。サーエスにはよく来てるからな。慣れたもんさ」
砕けたカートライトの口調は、星大名の妻に対して不遜な印象を与える。しかしこれは無理もない話であった。ソークン=イーマイアは彼等を呼び寄せた際、ノア達の素性を隠し、イーマイア造船の重要な取引先の娘で、超空間転移航法の改良のために、次元物理学の研究を行っている、ライザ・メージェル=ウェーバーという名の女性だと紹介していたからだ。
「着陸地点はサーエス第三宇宙港。中央大学までは車で一時間ぐらいだよ」
副操縦士席のセランが、アントニア星人特有の蟻の触角を、上下に揺らしながら静かに告げる。
ここでもランとキスティスら四人を、情報収集の名目で街に送り出し、セッツー中央大学を訪れたノア達は、アポ無しだったにも関わらず、いきなり次元物理学部の女性学部長、アルメート・ゼル=メルゲイトとの面談が許された。
意表を突かれた表情のまま、学部長室のドアを開けたノアは、待っていた相手の姿を見た途端、サッ!…と俄かに緊張感を走らせた。執務机から立ち上がったのは東洋の龍のような頭の異星人、ドラルギル星人だったからだ。
ドラルギル星人で思い浮かぶのは、ノアの夫のノヴァルナにとって、かつての天敵であったイマーガラ家の宰相、セッサーラ=タンゲンである。夫を何度も窮地に陥れ、取り換えのきかない後見人、セルシュ=ヒ・ラティオの命を奪い去っていたタンゲンは、ノアにとってもトラウマを感じる相手だったのである。
ただノアが対面したメルゲイトは、そんなドラルギル星人へのノアの印象を、一瞬で払拭する、とても温厚な女性であった。
「ようこそ。お会いできて嬉しいわ、ウェーバーさん」
笑顔を浮かべ自分から歩み寄って来て、両手で握手して来るメルゲイトに、ノアも微笑まずにはいられない。ドラルギル星人の年齢は分かりづらいが、少なくとも学部長という地位にある以上、平均的に考えれば親子ほどの年齢差があるはずだ。
しかしノアもノヴァルナも知らないが、あのタンゲンも主君ギィゲルト・ジヴ=イマーガラの嫡子、ザネルには全くの好々爺ぶりを見せる、優しい一面を持っていた。本当のドラルギル星人は見た目と裏腹に、非常に穏やかな性格の種族なのである。
「と、突然の訪問、申し訳ありません。私の事は、ライザとお呼び下さい」
躊躇いがちに応じるノアに、メルゲイトは龍のような頭を、案内役のカートライトに向けて告げる。
「ジョナサンの頼み事とあれば、致し方ないわ」
ザーカ・イー星系のソークン=イーマイアが、案内役としてノアに付けたジョナサン=カートライトは、メルゲイトとは親しいようであった。ノアがいきなりメルゲイト学部長と面会できたのも、それだけのコネがあるのだろう。
「済まないな教授。今度ハル・ペリエの、1534年ものを進呈するよ」
「しょうがないわね」
溜息交じりの苦笑いを返したメルゲイトは、ノア達に応接コーナーのソファーを勧め、インターコムで秘書か誰かに、人数分の紅茶を用意するよう告げる。
「それで? ライザさんはDFドライヴの、推進効率の改善研究のため、色々と学術情報を集めておられると、ジョナサンから聞きましたが…本校には、どんなご用件で?」
尋ねるメルゲイト。
「はい。百年ほど前にこの大学に在籍していた、シグルス・レフ=ファンクードという方について、知りたく思いまして」
ノアがメルゲイトに訪問の目的を伝える。
「百年前ですか?…在籍とは、学生としてでしょうか? それとも教授か准教授ですか?」
「教授か准教授だと思います。その後は、皇国科学省研究員になられたようなのですが、ここの大学に在籍されていた頃の研究内容を、詳しく知りたいのです」
「なるほど。NNLでは個人の研究内容までは非公開にされていますから、データバンクで調べないと無理ですね。それでわざわざこちらまで?」
するとここでカートライトが、口を挟んで来る。
「本来なら、外部の人間が研究資料を閲覧するには、申請やら手続きが色々と必要なのは分かってる。そこを教授になんとかしてもらいたくてね。こちらさん達にはあまり、時間が無いんだ」
「やっぱり、そういう事ね―――」
やれやれといった口調で応じたメルゲイトは、カートライトにさらに続けた。
「貴方が出て来たって事は、ソークン様も関わっている話なんでしょ?…いいわ、ライザさんに特別に、レベル3までの閲覧許可を出します」
カートライトが口にした通り、大学が独自に保管している研究内容や、関連資料を外部の人間が閲覧するためには、閲覧許可申請が必要であり、閲覧資料の保管レベルが上がるほど、審査に時間が掛かる。ノア自身もそれは理解しており、当初はこの惑星に何日か、滞在するつもりだったのだ。
「ありがとうございます。でもご無理を申し上げたのでは…」
申し訳なさそうに礼を言うノア。レベル3までの閲覧許可は普通、そう簡単に下りるものではない。もっともノアの感覚は自分が在籍していた、セッツー中央大学よりランク上位の、キヨウ皇国大学の感覚であるから、この大学ではそれほどでは無いのかも知れないが。
「それは気遣い無用だ」
ここでも口を挟むカートライトは、首を傾げるノアに理由を続ける。
「この大学はイーマイア造船が毎年、多大な寄付をしてるからな。サービスの一つや二つ、あってもいいのさ」
この戦国の世で、教育機関が運営予算を獲得するのは難しい。地方の教育機関が宙域の有力企業や、星大名から多額の資金援助を得ている事も、珍しくはない。
「まったく…身も蓋もないわね、貴方は」
呆れた表情でカートライトに言い放ったメルゲイトは、その場で作成した学部長権限の閲覧許可証を、メモリースティックにダウンロードして、ノアに「どうぞ」と渡した。
「第二資料室を使って下さいな。古い記録はそちらに保管してますから」
▶#14につづく
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