銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
457 / 526
第17話:銀河に脈打つ謎

#12

しおりを挟む
 
「たとえタ・クェルダ家が、UT‐6592786星系第四惑星の学術調査に対して、全面的に安全を保障したとしても、あの昆虫型機械生命体が居るところへ、調査隊を降ろすのは危険過ぎます」

 そう言うP1-0号の口調には、アンドロイドでありながら、嫌悪感を感じさせる響きがあった。もしこれが本当に嫌悪感を示しているのであっても、無理はない話である。“スノン・マーダーの一夜城作戦”の際、P1-0号はこの昆虫型機械生命体に寄生され、彼等の支配を受けた経験があったからだ。
 しかしそのおかげでP1-0号は、かつて銀河皇国科学省によって封印された、百年前の銀河皇国の情報を復元する事が出来、これがキノッサがザーカ・イー星系をウォーダ家に従わせるための交渉に、役立った事もあった。今の外交官の地位を得たのも、その時の功績によるものであるから、弊害ばかりではないとも言える。

 そもそもの経緯は皇国暦1560年に銀河皇国科学省が、UT‐6592786星系第四惑星へ、科学調査船『パルセンティア』号を送ったのがきっかけだ。

 すでに百年以上もの間、科学の進歩が滞っている銀河皇国において、新たな科学技術の獲得は、科学省への予算割り当ても考えれば喫緊の課題であった。そこで眼をつけたのが、銀河皇国とは全く技術体系の違う異星文明が造り出した、この昆虫型機械生命体である。
 その存在自体は昔から銀河皇国科学省でも把握しており、昆虫型機械生命体は機械化が高度に進んでいた第四惑星を、元の自然な星の姿に戻すため、機械都市を解体しつつそのパーツを利用。自己増殖を繰り返して無数に存在していた。

 第四惑星に文明を築いていた種族は何らかの理由で、大昔に一人残らず姿を消しており、科学船『パルセンティア』号の調査隊は昆虫型機械生命体を、サンプルとして相当数捕獲し、皇都惑星キヨウへ戻ろうとした。
 ところがその道中、オ・ワーリ宙域とミノネリラ宙域の間に設けられていた、中立宙域に入ったところで、『パルセンティア』号内で昆虫型機械生命体が脱走。乗員を全員殺害する事態となる。
 するとこの無人となって漂流中の『パルセンティア』号を、密輸業者と思われる一団が捕獲。当時ドゥ・ザン=サイドゥが、オ・ワーリ宙域内に密かに建造したのち、放置していた補給基地に運び込んだ。そこをアジトとして無断使用していたからである。

 何も知るはずもなく『パルセンティア』を基地にドッキングさせ、内部を漁ろうとした密輸業者達だったが、船の中から大量に出て来た昆虫型機械生命体により、彼等もまた全滅。基地は占拠されるに至った。そしてキノッサはこの基地を、“一夜城”に利用するため、昆虫型機械生命体を排除したのである。
 
 P1-0号の解説に、ノアは「私も報告書を読みました」と頷き、「貴方も苦労したようですね」と労う。

「ありがとうございます。あまり愉快な体験ではありませんでしたが、おかげで封印されていた、百年前の銀河皇国の様々な情報も、再構築出来ましたので、苦労ばかりとは申せません」

 P1-0号がそう応じる一方、考え込む表情になってノアは呟いた。

「…しかし困りましたね」

 “超空間ネゲントロピーコイル”について、新たな手掛かりを得られたと喜びはしたものの、その情報を実際に入手するには壁が大きすぎる。特に昆虫型機械生命体が脅威だったのは、これが銀河皇国のNNLシステムに侵入してしまうと、皇国そのものを滅ぼしかねないからだ。前回はキノッサとP1-0号の必死の努力で、どうにか水際でくい止める事が出来たが、下手に第四惑星に手を出せば、今度は最悪の事態を招く恐れがある。

 するとここでP1-0号が「しばらくお待ちください」と言い、頭をやや俯かせてライトグリーンのセンサーアイを激しく明滅させ始めた。自分の中にある銀河皇国に関する古い情報を、検索しているのであろう。しばらくするとセンサーアイの明滅が停止し、P1-0号はノアに顔を上げた。

「一番の解決策は約百年前、UT‐6592786星系第四惑星から第一次調査隊が持ち帰った、該当データの開示を科学省に働きかける事ですが…」

 P1-0号の言葉にノアは首を左右に振る。

「それはもちろんそうです。しかしはじめに言った通り、“超空間ネゲントロピーコイル”に関する私達の動きを、あまり公に知られたくはありません」

 ノアの懸念は当然だった。“超空間ネゲントロピーコイル”の建造に、『アクレイド傭兵団』が関わっている可能性が高いのであれば尚更だ。P1-0号は「そうでしょうね」と同意し、次の案を提示する。

「ではやはりこのメモリープレートの、第四惑星人の文字データを、解読するべきですが、いま私が保存している皇国科学省の古いデータを検索したところ、鍵を握るのは、ここに“双極宇宙論”の論文を収めた、シグルス・レフ=ファンクード女史のようです」

「あのホログラムの女性ですか?」とノア。

「はい。データにもありましたが、女史がこの中の論文を発表した時は、セッツー中央大学で研究員をしていました。そしで告発文の方での肩書は、科学省研究員となっております。これは女史がこの論文で科学省に評価され、研究員として招かれたもののようです。まずはセッツー中央大学で、女史の身辺を調べるのが良いかも知れません」

「なるほど。“急がば回れ”というわけですね」



▶#13につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...