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第17話:銀河に脈打つ謎
#19
しおりを挟むカートライトの問いを受けてランヴェラ艦長は、モルンゴール星人の厳めしい顔をさらに険しくし、状況を述べ始める。
「すべては、海賊どもと侮った我々、艦長達のミスだ―――」
彼等四隻のモルンゴール自衛艦隊を襲撃して来たのは、ノア達もある程度は予想していた通り、やはり“メラガーム独立軍”の部隊であった。
“メラガーム独立軍”がこの周辺に現れ、あちこちの星系を荒らし始めたのは、昨年の秋…皇国暦1564年の10月辺りから。旧モルンゴール帝国領の半自治星系を狙って、略奪行為を繰り返し始めたという。
このアーワーガ宙域は、“ミョルジ三人衆”の本拠地宙域ではあるが、三人衆は“メラガーム独立軍”の略奪行為に対し、討伐部隊の派遣などの対策は一切行おうとせず、傍観している状態らしい。
およそ半年の間、放置され横行する略奪に荒廃が進む一方の、半自治星系群が上げる悲鳴に動いたのは、銀河皇国でも“ミョルジ三人衆”でもなく、銀河皇国から行政の代行を委託されている、“モルンゴール行政機関”だった。
かつての軍事大国モルンゴール恒星間帝国は約三百年前、銀河皇国との戦いに敗北したのち解体され、小規模な自衛戦力の保有しか許されなくなっている。
それでもモルンゴール行政機関は、自分達の旧領地が賊徒に蹂躙される状況を、見過ごすに耐えられず、自前の討伐部隊を編制して、各星系に分派したのである。
今回のここイルクルス星系へ派遣されて来た四隻も、今のモルンゴール自衛軍にとっては、貴重な戦力であったのだが、返り討ちという結末に終わったようだ。
「事前情報では、敵の略奪集団の戦力は、武装改造した高速貨物船しかないとされていた…だが、その敵の数と武装貨物船の性能の高さは、我等の想定を遥かに超えていたのだ」
事前情報では、イルクルス星系に居座る“メラガーム独立軍”部隊は、武装貨物船が二十隻のみという事であった。衰えたとはいえ、旧モルンゴール帝国の二等艦が四隻もあれば、普通に考えればすぐに撃滅できるはずの戦力差だ。
ところがランヴェラ艦長の話によれば、独立軍は事前情報の倍の四十隻で、討伐部隊を待ち伏せしており、しかも使用している船は、武装貨物船のレベルを超え、軽巡並みの砲雷撃戦能力と駆逐艦並みの機動性、そしてさらに一隻あたり、四機のBSIユニットまで搭載していたという。これではまるで戦闘艦そのもので、ノアはウォーダ家が運用している、『クォルガルード』型戦闘輸送艦を連想した。
ランヴェラ艦長はさらに、絞り出すように言葉を続けた。
「転移直後に、十隻ほどの敵集団を発見した我等は、これを追った。そしてこの第八惑星の裏側で、残る三十隻の待伏せ部隊に、背後から奇襲を受けたのだ」
攻撃を仕掛けて来た“メラガーム独立軍”は、私兵集団とは思えないほどの統制の取れた動きを見せ、四隻のモルンゴール宇宙艦は高速機動戦に敗北。最後には、いずれの艦もとどめの宇宙魚雷を喰らって、爆発を起こしたという事だった。
「私の艦は幸か不幸か、私と三名…いや今はもう、二名が生き残ったが、他の艦は全員死亡した。奴らは艦から脱出した救命ポッドにまで、攻撃を加えて破壊したのだ。全てな」
これを聞いてノアは「なんて酷い…」と、苦々しげに呟く。
「きみ達が向かおうとしている、第五惑星のイルサムだが、あそこも惑星が全土にわたって、かなり荒らされている。この星系に奴等が居座っているこの状況では、近寄らない方がいい」
ランヴェラ艦長の意見も尤もなものであった。ノア達がこの星系に転移して来てすぐに、“メラガーム独立軍”の船に拿捕されそうになったのも、モルンゴール自衛軍部隊との交戦直後で増援を警戒し、哨戒網を張っていたのだろう。判明して来た状況を考えると、確かに今この星系に留まっているのは危険だった。
「そうですか…しかし困りました」
引き返すべきという判断を正しく理解はしながらも、ノアは気落ちした様子を隠せない。このままでは肝心の、“双極宇宙論”についての情報を、得られそうにないからだ。次の機会と言っても、遠く離れたこの地まで、そうそう簡単に来られるものではない。そんなノアの表情を読み取り、ランヴェラ艦長は問い掛ける。
「どうしても第五惑星イルサムに行く必要が、何かあるのかね?」
そこでノアは正直に、イルサムへ向かう理由を告げた。理由とはおよそ百年前、イルサム出身のイルーク星人女性科学者シグルス・レフ=ファンクードが、“双極宇宙論”の論文を作成するにあたって参考にしたと思われる、モルンゴール帝国が研究していた、同理論についてのデータを自分達も入手するためである。
無論、何の手掛かりもない状態から探すのではない。科学者一族であったファンクード家は百年前の当時、自分達の研究所を保有しており、その時の資料は現在では全て、地元大学が収蔵しているという情報を、先日訪問したセッツー中央大学の次元物理学部長メルゲイトから、帰りの挨拶の際に聞くことが出来ていたのだ。
するとノアの旅の目的を聞いたランヴェラ艦長は、「うーむ…」と声を漏らし、自分の案を提示する。
「それなら…皇国領からはさらに遠くなるが、危険なイルサムに向かうよりかは、いい星がある」
「それは、どこですか?」
可能性を求める眼をするノアに、ランヴェラ艦長は静かに応じた。
「書庫惑星ヒュドラム…」
「書庫惑星ヒュドラム…初めて聞く名ですね」
「銀河皇国では、あまり知られていないからな。当然だろう」
「どのような惑星なのですか?」
「文字通り地表のほぼ全土が、書庫になっている惑星だ。現在までに帝国が集めたあらゆる分野の知識が、収められている。そちらの方がむしろ、より多くの情報を得られるだろう」
「書庫…というのは、電子データのアーカイブという事ですか?」
「いいや、書籍だ。いわゆる“紙の本”だよ」
「!!??」
ランヴェラ艦長の発言に驚くノア達、銀河皇国の人間。現在の銀河皇国では、紙またはそれに類似した物を使用して製作された書籍は、ほとんど存在しておらず、あったとしても、非公式に趣味の範疇で製作されたものだけだからだ。
「戦闘種族のモルンゴール人が、書籍を?」
カートライトの仲間の女性、マニスが意外そうに反応すれば、P1-0号が「これは興味深い」とセンサーアイを黄緑色に点滅させる。
「きみ達流に言えば、我々の野蛮なイメージにそぐわないかね? いやむしろ我々を、原始人として見るのであれば、似合っているというべきかな?」
そう言ってランヴェラ艦長は、爬虫類的な異星人の顔をニヤリと微笑ませる。これに対しノアは即座に、自分の意思を述べた。
「ご気分を害されたのであれば、謝罪致します、艦長。わたくし共は単に、書籍に対する双方の文明の、価値観の違いに興味を惹かれ、意外そうな反応を示したのですが、その表現の仕方に問題があったのかも知れません。以後、注意させて頂きます」
ノアの言葉を聞き、ランヴェラ艦長は「貴女は聡明な方だ、ウェーバー嬢」と眼を細め、次いで軽く頭を下げながら自分の発言を詫びた。
「私の方こそ、少々言葉に品格を欠いていた。申し訳ない」
「それで…その、書庫惑星ヒュドラムというのは、どこにあるのですか?」
「ここから向こう、きみ達銀河皇国の人間が、トゥーザと名付けている宙域との、境界付近だ。距離は…そうだな、ざっと二千二百光年といったところだ」
「!!………」
事も無げに言うモルンゴール星人艦長だが、その距離を聞いたノアは俄かに絶句する。二千二百光年と言えば、今いるこの場所からでさえ、行って戻って来るまでひと月近くかかるからだ。ここまで来るだけでも、かなりの日数をロスしているわけだが、流石にこれは―――
“ノバくん、怒るだろうなぁ…”
内心でそう呟き手指で頭を掻きながらも、ノアはカートライトに向き直り、自分の夫ならそうするであろう答えを口にした。
「わかりました。お願いできますか? 船長」
▶#20につづく
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