銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第17話:銀河に脈打つ謎

#20

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 一週間後、建設中のアデューティス城に居るノヴァルナは、昼食中にノアから届いた超空間電信を読んで、案の定むくれていた。

「…ったく、とんでもねぇ鉄砲玉だぜ」

 この日はサクータ星系を新たな領地としたキノッサを招いての昼食で、近接するアーザイル家やアザン・グラン家に関する情報や、今後の方針を打ち合わせるためのものだ。これにアデューティス城の建設責任者で、第4艦隊司令官のナルガヒルデ=ニーワスと、ノヴァルナの事務補佐官を務める、ジークザルト・トルティア=ガモフも同席している。

「まぁ、ノア様の行動力は、ノヴァルナ様並みッスからねぇ」

 昼食に出された、地元産のフライドチキンを口に運びながら、キノッサはあっけらかんと言い放つ。

「チッ! 他人事ひとごとだと思いやがって」

 不満そうに言い捨てたノヴァルナは、グラスの水を大きく飲んで喉を鳴らした。妻からの超空間電信の内容が、“調査旅行に延長の必要が発生して、ひと月ほどは帰れない”という、一方的なものだったから尚更だ。

 その事をノヴァルナが口にすると、こちらも主君の性格を知り尽くすナルガヒルデが、落ち着いた口調で意見する。

「もし奥方様からの便りが一方的ではなく、許可を求める内容でしたら、ノヴァルナ様は許可されないと、分かっておられるのでしょう」

「なんで、そんな事が分かるんだよ?」

 面白くも無さそうに問い質すノヴァルナ。それに答えたのはナルガヒルデではなく、キノッサだった。明らかに冷やかす口調である。

「そりゃあノヴァルナ様が、“奥さん大好き人間”だからっショ!」

「はぁ!? ちっげーし!」

 唇を尖らせて否定するノヴァルナだが、キノッサもナルガヒルデもジークザルトも、“自分のBSHOの高機動戦闘モード動作音声に、奥さんの声を使ってる人が、なに言ってんだか…”と、内心で声を揃える。

「でもカレンガミノ姉妹やフォレスタ様、ハーシェル殿達もご一緒されておられるのですから、心配は要らないのではないですか?」

 ただ、十代半ばのジークザルトにそう言われるとノヴァルナも、ゴネる自分に気恥ずかしさを覚えるというものだ。不承不承といった面持ちで、ノヴァルナは話を本筋に戻した。

「…で、キノッサ。アーザイル家が動き出しているのは、間違いねぇのか?」

 問われたキノッサは、真面目な表情になって応じる。

「はい。大きな規模じゃ無いッスが、このところ艦隊演習の回数が、増えて来てますです」
 
 今日は皇国暦1565年3月の26日。“アネス・カンヴァーの戦い”の終結から、まだひと月ほどしか経ってはいない。それでありながら、かなりの損害を与えたはずのアーザイル家が早くも軍を動かし始めたのは、ノヴァルナにとっても意外な出来事であった。

 軍事演習とは無論、各部隊の練度を上げるための習練であるが、敵対勢力に対する示威行動の意味も持つ。“アネス・カンヴァーの戦い”での敗北に対し、アーザイル家の戦意は、いまだ衰えていない事を示しているのかもしれないが、それでも戦力の立て直しは終わっていないはずで、少々早すぎる気がする。

「アーザイルの再編状況はどうなんだ?」

 ノヴァルナはキノッサに問い掛ける。“アネス・カンヴァーの戦い”の勝利で、キノッサが領地として得たサクータ星系は、オウ・ルミル宙域のノーザ恒星群内に有り、アーザイル家の本拠地ナッグ・ハンマ星系とは、二百光年ほどしか離れていない戦略的要衝であった。
 このサクータ星系と、元はアーザイル家に従属していた独立管領で、“アネス・カンヴァーの戦い”の直前にウォーダ家に寝返った、ホリス家の領有するカヴァネスバ星系は、共にアーザイル家の本拠地ナッグ・ハンマ星系を監視し、圧力をかける事が重要な役目となっている。

「はい。我が軍師ハーヴェン殿の進言で、演習中のアーザイル軍に強行偵察を仕掛けましたるところ、名称不明の新造艦が相当数参加していたのが、判明しております。軍師殿の見立てでは、“アネス・カンヴァーの戦い”以前に、すでに建造中だったものが完成したのではないかと」

「なるほど。アネス・カンヴァーで負ける可能性も、考慮してたってワケか。ナギのヤツらしい周到さだぜ」

 不敵な笑みで言い放つノヴァルナだったが、その瞳の光はどこか寂しげである。愛する妹、フェアンの夫―――“カノン・グティ撤退戦”で裏切られるまでは、共闘を重ねて信頼しきっていた、義弟の性格が今でも理解できている事に対する、寂しさだ。ノヴァルナも人の子である。そうなるとまた、思考が堂々巡りを始めてしまう。


どうして、こうなっちまったのかなぁ………


 しかしその思考の堂々巡りは、長く続かなかった。インターコムが鳴ってノヴァルナに、新たな歴史の動きを伝えたからだ。声の主は『ホロウシュ』のセゾ・イ―テスである。

「ノヴァルナ様。皇都より連絡。セッツー宙域に“ミョルジ三人衆”の軍団が、攻撃を仕掛けて来たとの事です」
 
 セゾのさらなる報告によれば、セッツー宙域に侵入して来た三人衆の戦力は、おそらく八個艦隊。ほぼ一年前の年明けに、皇都キヨウに奇襲を仕掛けて来た時よりも。艦隊数は一個少ない。
 現在はセッツー宙域を分割統治しているイ・クーダ家、イ・ターミ家、ワッダー家の“セッツー三守護”が、迎撃艦隊を差し向けているという。

「“三人衆”対“三守護”ッスか…期待は、したいところッスけど」

 報告を聞き終え、キノッサは不審げな眼をして、指先で自分の顎を撫でる。これに応じたのは、ジークザルトであった。

「“三守護”は色々と、問題を抱えていますからね。連携が取れなければ、各個撃破される恐れもあります」

 ジークザルトの落ち着いた意見に、ノヴァルナも「だな」と溜息交じりに、同意する。“セッツー三守護”と聞こえはいいが、その実態は、昨年の“ミョルジ三人衆”の奇襲迎撃で功績のあった、セッツー宙域独立管領のイ・クーダ家とイ・ターミ家に、ジョシュアの上洛と星帥皇即位で尽力した、オウ・ルミル宙域のワッダー家を加え、星帥皇室が褒美としてセッツー宙域の分割統治権を、一方的に与えたものであった。
 しかしその統治権授与にあたり、三家とセッツー宙域内の他の独立管領への調整等が、不十分であったために宙域じゅうに、不満がくすぶっている状況となってしまっている。

「三人衆もその辺りを見越して、セッツー宙域へ侵攻して来たのかも知れません」

 ナルガヒルデが所見を述べるのを聞いたノヴァルナは、残りの昼食を胃袋に掻き込んで席を立つ。

「ナルガ。シドンの第28艦隊を連れて、セッツー宙域に先行してくれ。俺もミノネリラ宙域から艦隊を出させる」

「御意」とナルガヒルデ。

 ノヴァルナはさらにキノッサに振り向いて指示を出した。

「おまえはすぐに領地へ戻って、全軍に警戒態勢を取らせとけ。このタイミングだからな、アーザイルやアザン・グランの連中も、攻勢に出て来る可能性がある」

「畏まりましてございます」

 指示を出し終えたノヴァルナが、将官用食堂の出口へ体の向きを変えると、指示を出す間に昼食を食べ終えたジークザルトが、自然な流れでノヴァルナのあとに従う。そして食堂を出たところで疑念を口にした。

「しかしなぜ今、三人衆に侵攻する理由があるのでしょうね。モーリー家が抑止力になっていないのも、気になります」

 これに応じるノヴァルナの口調は、あっさりとしたものだ。

「ま。世の中、思い通りには行かねぇって事さ」



 アデューティス城を出たノヴァルナが、衛星軌道上の総旗艦『ヒテン』へ乗り込むと、ヤヴァルト宙域駐留軍のミディルツ・ヒュウム=アルケティから、“ミョルジ三人衆”セッツー宙域侵攻の続報が入る。

 こちらの報告には、ウォーダ家情報部が収集した情報も添えてあり、それを読んでみると、部分的ではあるが“ミョルジ三人衆”が仕掛けて来た背景を、知ることが出来た。

 ジークザルトも疑念を抱いた、アーワーガ宙域に逼塞ひっそくしていたはずの、“ミョルジ三人衆”が大部隊を動かす事が出来た最大の要因は、これを押さえつけておく役目であったはずの、アン・キー宙域星大名モーリー家が、宿敵であるブンゴッサ宙域のオルトモス家に大規模攻勢をかけたのが、原因となっていた。

 オルトモス家への攻勢は、『アクレイド傭兵団』主力の第二階層の部隊が中心として編制され、モーリー家自体の戦力は後詰として温存されていたのだが、ここでモーリー家のもう一つの宿敵であった、イーズモン宙域星大名のアマゴン家が、アン・キー宙域へ侵攻して来たのである。二正面作戦を取らざるを得なくなったモーリー家には、流石にアーワーガ宙域への抑止力を行使する余裕は無く、三人衆に侵攻の機会を与えてしまったのだ。

 そしてジークザルトが懸念した“セッツー三守護”内部の問題も、やはりこれに関与していた。三守護の一つ、イ・クーダ家の重臣ヴェラクス=アラックが、三人衆側に寝返った事で同家は分裂状態となり、セッツー宙域内の支配体制が、大きく崩れる事となっていたのである。三人衆に対して迎撃部隊を出動させたとは聞いたが、懸念通りこれでは三守護の連携など、期待できないであろう。

 ミディルツからの報告書をホログラムスクリーンに表示していた、データパッドの電源を落としたノヴァルナは、胸の内で“ったく、めんどくせーな…”と忌々しげに呟くと、声に出して独り言ちる。

「この際、後腐れなしに潰しておくか」

 すると執務室にいたノヴァルナの元へ、通信参謀から連絡が入った。

「ノヴァルナ様。星帥皇室から当家へ、“ミョルジ三人衆”軍迎撃の正式命令が、下されました」

「分かった。謹んで受諾する旨を返信しろ」

 だがそんなノヴァルナも、“ミョルジ三人衆”やモーリー家、そしてアーザイル家とアザン・グラン家の動きの全てが、星帥皇と上級貴族達の思惑に従ったものだとは、気付かなかったのである………





▶#21につづく
 
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